見出し画像

書店員を経験して思うこと(1)

書店で働くきっかけ

4年ほど書店で働いた。
接客販売の仕事をする傍ら趣味で小説を書き同人誌を作る活動を続けていた私は、無論「本」が好きだったわけだが、仕事の対象として「書店で接客をする」という選択肢に今までたどり着いたことがなかった。
そんな私が書店で働きたいと思った大きなきっかけは
ある作家さんが定期的に開催していた本に関わる仕事をする人たちを対象とする交流会に参加してみたいと思ったことだった。
その交流会のことを知ったのは、ある書店で開催された大規模なサイン会。
そのサイン会に参加された作家の方々のSNSをチェックするようになり、
著書を拝読し、もともと好きだった読書趣味の幅が広がっていくのは自分にとって率直にとても楽しいことだった。
作家の方や本の周辺で仕事をされている方と話をしてみたいとは思ったものの、「本に関わる仕事」をしていなかった私には交流会への参加資格はない。
同人誌を作る活動が、厳密に言ってその参加資格を満たすものかわからず、勇気が出なかったということもある。参加募集があるたびに「応募してみたい、でも……」とあきらめるということが何度か続いた。

そして、たまたま見ていた求人サイトに書店のアルバイト募集を見つける。当時一緒に住むことを考えていた人(今の夫)の住まう場所の近くだったのが自分にとって運命的に感じられ、ほとんど衝動的にその求人に応募した。ヨコシマな応募動機ではあるけれども、幸運にも面接に受かることができ、私は書店員となることができたのだった。

「本」が「商品」となる感覚

書店で働く仕事の第一歩は、そのほかの小売店と同じく接客販売の仕事の基本で「レジでの接客対応」であった。
基本的なレジ操作とカウンターでの接客業務を覚えること。
接客販売の仕事を長くしていたこともあり、基本的な接客対応については比較的早い段階で慣れることができたように思う。
書店特有のカウンター仕事というと、本にカバーをかけたり
空いた時間に雑誌の付録を挟み込んだり紐かけをしたり、といった作業だろうか。それも、作業を教えてもらい経験を積むうちにスムーズにできるようになってくる。
そうして「本」を「商品」として「販売する」という仕事に慣れていくうち
書店で働く前と後で大きく変わったことがある。

本を買わなくなったのだ。そして、読むこともあまりしなくなった

自分の働く系列の書店では社割もあったのだけれども
それでも、以前と比べて格段に本を買わなくなったし、読まなくなってしまった。

もう少し言えば「自分の職場で本を買わない」ということかもしれない。
けれども、自分の職場に関わらず前と比べて格段に書店に足を運ぶということをしなくなってしまった。
文芸書を読まなくなった、ということでもあるかもしれない。
かわりに興味を持つようになったのは、
爆発的な人気で飛ぶように売れてゆくコミックスの方だった。
そんなに売れるのなら、自分も読んでみようかなという感覚。
私の働く書店ではコミックスがとてもよく売れて、その時々の流行りを肌で感じることが多かった。
作品を知ることは販売時にアピールをするうえでも強みになる。
話題に乗ることも、人気作を読んでみることの理由のひとつであった。

「本」を「娯楽」でなく「商品」として扱うようになる。
この感覚は、書店で働き「本を売る」ことに携わる仕事をするという意識が強くなったからこそかもしれない。

人気作を知るための読書。
それはそれでとても楽しい読書体験だったのだけれども、
文芸のジャンルから遠ざかっていくうち、当初書店で働く動機であった
「本の仕事をする人たちの交流会」への参加、ということは
自分の中ですっかり遠い出来事になってしまった。
今思い返せば「趣味としての読書」が、自分の中で遠ざかっていった感じがある。

もうひとつ、書店員の仕事をする中で「プルーフ」を読む、というのも夢のひとつだったのだけれども、そもそも一アルバイトが手をあげていいかわからず、結局書店で働いている間の一度も、そのチャンスをつかむことができなかった。(これは単に自分の怠慢だと思う)
書店での仕事を辞めて、今その外側から書店員の仕事を考えてみると
働いている間にあれもしてみたかった、これも、ということが次々浮かぶ。
けれど、中にいる時には勇気が出せなかった。貴重な機会をふいにしてしまったという後悔は、今でも残っている。

※(2)に続きます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?