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ふくしま教育通信 2023年9月号       リレーエッセイ「夏休みの課題に思う」    福島県教育委員会委員 大村 雅惠

 酷暑の中、夏休みの課題に取り組む子どもたちのニュースが流れていた。夏休みの課題といえば、日頃の学習の復習・まとめの意味もあるが、長期間の休みだからこそじっくり取り組める課題もあるだろう。

 今でも忘れられない課題が2つある。
 1つ目は、難読漢字の問題集をまるごと1冊、夏休み中にすべて覚えるという課題である。中高一貫校で高校受験もなく優雅な夏休みをと考えていたものの、この課題は一朝一夕で終わらせられるようなものではなく、夏休みの後半になるにつれ焦りと不安に慄(おのの)いた記憶がある。こんな読み方があり得るのか、どこからその読み方はつけられたものなのかなど興味はわいたものの、全く想像がつかない不思議な読み方の漢字も並んでいた。行事・生活・身の回りの色・植物・動物・食物等々多種にわたる漢字。ひたすら暗記した。脳になんでも記憶できた若い頃に覚えたものは、自分でも感激するほど(笑)いまだにしっかりインプットされ、輝きを保っている。現在のような漢字検定もない時代、国語教師が与えてくれた課題に、たっぷりと時間をかけて勉強できたことを、今は心より感謝している。まさに意識せずとも漢検への挑戦をしていたことになっていた。「こんなの無理でしょ!先生」という生徒の悲鳴をよそに、あの時このような学びのチャンスを与えてくれた先生の課題設定に、あらためて拍手と感謝である。漢字をひたすら暗記しながらも、興味を持ったものを調べる楽しみもあった。しかし惜しむらくは、その興味を深めていくという努力を積まなかったことである。これから新たな視点で学び直すのもまた楽しい時間となろう。

 2つ目の課題は、冬休み中に百人一首をすべて暗記するというものである。クリスマス、年末年始の行事に心が浮き立つ冬休み、計画的に覚えようとは考えもせず、正月三が日後の苦痛は、何十年経とうが、いまだに忘れられないでいる。必死さの中にも、心に響くいい歌だなと思える数首が存在したことを覚えている。一つ一つ言葉の意味を調べ、時代背景や作者の想いを想像しながら、自分の心に一首一首の置き場所を作ることは、時間のゆとりがあればとても楽しい作業となったことだろう。自分の計画性のなさでせっかくのチャンスを活かせなかったかと思うと、今更ながら残念で仕方がない。一方で、この課題を通じて父と百人一首かるたに何度も取り組み、父の大好きな一首を知ることができたことはうれしかった。それ以来、百人一首が身近な存在になったのも事実である。

 課題は生徒に興味を抱かせる大事な機会を作ってくれるものであるが、その機会を活かせるかどうかは本人次第でもある。数十年経った今でも覚えていられるような課題との出会いは、そうそうあるものではないのかもしれない。どんな課題であれ、やり遂げたという実感をもってもらいたい。そのための機会を提供できるのは、教師であり家族であることを思い出した2023年の8月である。
(執筆:福島県教育委員会委員 大村 雅惠(おおむら まさえ))

※記事中の漢字の画像は、教育総務課の編集担当が入れたものです。
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