見出し画像

「覚悟のシェア」双葉町再生の架け橋になる(後編)


山根:2019年5月に独立した際に、『避難指示解除が見越されている中で、この地域に人の流れを作っていくことが重要であり、今後は*DMOが絶対必要になる』と考えていたので、行政キーマンを訪問し、DMOの必要性をプレゼンして回っていました。ただその中で、行政主導で動くのは時間がかかりそうだなと感じ、自分で会社を作ってできることから始めようと思い、同年11月に今の会社を立ち上げました。いきなりコロナ禍突入でかなり苦労はしましたが、2020年度の復興庁事業を任せてもらえる機会があり、リクルート社と連携しての事業運営を行いました。その中でノウハウやネットワークをいただいて、この2年間は観光業について本当に多くのことを学ばせてもらいました。この数年は大変でしたが、一気に世界が広がったと感じています。

*(DMOとは、観光物件、自然、食、芸術・芸能、風習、風俗など当該地域にある観光資源に精通し、地域と協同して観光地域作りを行う法人のこと)

小祝:今は観光の事業をメインでされているんですか?

山根:はい。復興庁の事業を通して、観光業を担うコミュニティづくりが大事だなという経験を得ました。支援員のときのコミュニティづくりという仕事の経験がこの仕事でも生かされていると思います。「コミュニティ形成という非営利な仕事と観光商品を作って売るという営利が混在した地域の受け皿を作る」という仕事や、地域を地域外に届けるためのマーケティングなど、この数年いろいろなことに取り組んでいます。

島野:学生さんを双葉町に呼んでツアーを行う取り組みもされていますが、それも取り組みの一つなんですか?

2021 パレットキャンプの様子

山根:このツアーのきっかけはインドから東北大学に留学しているトリシット君との出会いが始まりでした。会社の立ち上げ当初はインバウンド観光客を呼び込むことをメイン事業にしようと考えていました。ただ自分は、国際感覚もなければ、流暢に英語をしゃべれる訳でもありませんでした。笑

その時にたまたま新聞を読んでいたところ、学生英語プレゼンテーションコンテスト優勝者という記事を見ました。それがトリシット君でした。彼と会って話をしたいと思い、事務局に問い合わせて彼に会うことができました。彼に会って、うちの会社や双葉町の地域コミュニティを再生する活動に協力してもらえないかと提案したところ、快諾してくれました。その後、彼の友人2人も参加してくれることになり、東北大学バイリンガルインターンチームが結成されました。その彼らが企画してくれたのがパレットキャンプというツアーです。

島野:そうなんですね!

山根:インターンチームの話し合いの中で、主流になっていた震災学習といったものではなく、単純に双葉町で過ごす時間を楽しんでもらい思い出づくりができるようなツアーをするのはどうだろうというアイデアが出ました。またそのアイデアに合いそうな補助事業をちょうど見つけたので、企画から提案まで彼らに自由に任せてみることにしました。そのプレゼンが通り、パレットキャンプという企画が生まれました。僕の発想からは生まれなかったと思いますし、運営しているのが彼だったからこそ、参加者の3割が外国籍だったりと、多様な人が集まったと思います。若者の発想の面白さや新しいものを生み出す可能性を感じました。気づかされることが多く、彼らに任せてよかったと思っています。

小祝:そういえば、山根さんと高崎丈さんはどこで出会われたんですか?

高崎:アートディストリクトの壁画プロジェクトでしたかね?

山根:そうですね。丈さんのことは、以前より、復興支援員の同僚からその存在を聞いていて、2020年秋頃に、出張で東京に出向いた際に、Joe’s man2号へ足を運んだのが最初だったと思います。そのときは簡単に挨拶だけさせてもらいました。

高崎:その後、双葉町の壁画プロジェクトを進めるにあたり、山根さんが双葉町の町会議員になられたのもあって、僕らの取り組みの情報共有をしたり、何か今後につながることがあればいいなと思って町民の集会があったので一緒に話をしませんかと声をかけさせてもらったと思います。

山根:そうですね。

高崎:僕は山根さんの頑張りや取り組みに心を動かされたなかで、それでもいろいろとご苦労されたことも多かったことと思います。

山根:そうですね、いろいろなことを考えさせられました。双葉町の再生のためにできることはなんでもすると覚悟を決めていた中で、地域にとって何が今後必要になるかなと思った時に、言論と実行が揃うことが重要だと考えました。町会議員として言論を残し、民間法人の立場で実績を作る。その言論と実行が地域の実績として対外的にも認められれば、次の展開に必ずつながると信じています。ただ、それをひとりよがりでやってもしょうがないですし、地域のひとやコミュニティと密接に関わり、みなさんの気持ちを丁寧に汲み取りながら活動を続けていきたいと思っています。そうした活動を通して、少しずつ双葉町のコミュニティの方々に受け入れられるようになってきたのではないかとも思います。

高崎:山根さんの言うことは本当に理論的で、感情に振り回されることなく一つ一つを着実に有言実行してくところがありますよね。内に秘めた情熱を行動に変える強さを持っている人だと皆さんにもっと伝わってほしいんですよね。

山根:やはり支援員として双葉町に来てから双葉町との繋がりはあったとはいえ、東京から移住してきてたよそものの自分がやろうとしていることを理解してもらうのには時間がかかると思っていました。支援員のときからずっとしてきた仕事なので分かるのですが、コミュニティを作るということは、意見が対立したり衝突することがあるのは当然でそこを避けては通れないと思うんですね。だから、自分の意見を聞き入れないからといって逃げるのではなく、相手の意見を聞くことが絶対に必要で、ぶつかっても、喧嘩しても、自分が必要だと思うことであれば逃げずにそこに居つづけると決めています。結果、その衝突したことも含めて、お互いの理解が進み目指すべきところは似てるじゃないか!みたいなことがわかって、今では信頼し合う関係になっている人もいます。

小祝:丈さんは双葉町出身で今は東京にいて、KIBITAKIメンバーの島野さんや私はずっと東京にいるわけですが、双葉町との関係人口を増やしていくことを一緒に目指していけたらなと思いますが、何かKIBITAKIプロジェクトに期待したいことやアドバイスはありますか?

山根:双葉町にはまだリソースが絶対的に少ないので、いろいろな人が双葉町に関わってくださることがとても重要で必要不可欠だと思っています。その中で、何かを進めよう、始めようというときにコミュニティに受け入れられるかというところの心配はあるかと思いますが、それは僕が間に入ってできることがあればぜひ話を聞かせていただき、まずは全部受け止めますというスタンスでいます。

小祝:山根さんの「双葉町と関わることが復興支援から人生に変わった」という言葉を聞いて、僕らにできることがあるならしたいと思っています。双葉町と東京、東京から全国へ企業をつなげるという形でうまく関わりをつくっていけたらと思いますが、なかなか難しいですよね、言うのは簡単ですが。

高崎:山根さん自身も、個人として、町会議員としていろいろな立場があるので言葉選びが難しいとは思うのですが、この6月に避難区域解除ということで今後どのような見通しを持っていますか?

山根:個々人でいろいろな立場がありますが、右も左も、住んでいる住んでいないも関係ない寛容で強固なコミュニティづくりが重要になってくるのではないかと思います。まずは地域内のコミュニティを一枚岩にすることは重要だと思うので、弾き返されても何度も繰り返しチャレンジしていきたいです。その上で双葉町に外部のリソースを繋ぎ続けることをしていきたいです。やはり、どんな立場であっても、ふるさと双葉町に人が来て協力してくれるというのは嬉しいことだというのはみなさん共通していると感じていますし、外部の方の協力を得ることで地域の中でも新しい関係性が生まれると思います。

高崎:あれダメこれダメではなく、双葉町で挑戦したいと思う人がそれが双葉町の人であっても外部の人であっても寛容なコミュニティづくりは僕も大事だと思います。

山根:観光の会社を始めた理由でもありますが、関係人口や交流人口を増やしていくことが大事だと思っています。僕は「覚悟のシェア」という発想で取り組んでいきたいと思っているんですね。

高崎:覚悟のシェア?

山根:僕は双葉町を第二のルーツとして軸足を置いて生きていくと決めたので、その僕の覚悟と責任を使って双葉町であなたの挑戦したいことがあれば実現してほしい。例えば、学生たちが双葉町でプロジェクトを企画したときも、その関わりたいと思ってくれたエネルギーをしっかりアウトプットしきってもらえるように環境を作り、任せる。任せるから、一生懸命やってほしい、と。そういったコミュニケーションを通して、双葉町に関わった人にとっても、双葉町にとっても良い経験になる、得るものがあるというウィンウィンの価値を生み出したいと思っています。そういった深いところでの議論ができる母体として僕らの会社は存在していきたいと思っています。

島野:覚悟の仕方はいろいろありますよね。移住するということ以外にも、自分がいかにそこで能力を発揮できたり、そこにいる人たちのためになるようなことをするのか、というのも一つの覚悟の仕方だったりしますよね。1ヶ月だけプロジェクトやって、「はい終わり」じゃなくて、持続的な取り組みや今後に繋がる取り組みをしたいと僕は思っています。

山根:やっぱりまずは単純接触ですね。近視眼的であっても地域に触れる機会は大事だと思います。別の覚悟や生活があって関わってくれる人ももちろんいますし、遠隔でできること、地元でできることなどやりたいこと、価値観も様々ですから、そこは「覚悟のシェア」というか地域での関係性のシェアも含めて一緒にやっているという感覚を得ることで、土地にひもづいたものだけではない、広い共同体になっていくんだと思います。

島野:山根さんのようにアウトプットしながら対立していた人もだんだん同じ方向を見るようになったり、お互いの思いを共有していく、共存していくという仲間意識がすごく大事だなと思います。

山根:双葉町で大学生向けの研修ツアーをした際に講師をしてくださった町民の方が、学生たちに向けた言葉で「国策のエラーで故郷を追われた人たちがいて、理不尽な中にいることを知って欲しい。そしてそれを解決するような人になってほしい」という言葉が印象に残っています。双葉町をルーツに持ち生き続けふるさとのことを大切に思っている人だからこそ、つらいけど今の現実をしっかり見てもらい、若い人たちにより良い社会づくりに向けて考えて欲しいという思いを持っているのだということに気づかされました。一緒にツアー運営してもらえたからこそ、その思いを知ることができました。
双葉町にきてまもなく9年。今でも新しい発見や出会い、変化があるこの場所での経験や町民みなさんとの交流は本当に濃密で、僕のアイデンティティに強烈な影響を与えています。双葉町民になることを選んだわけですし、人生を賭けて地域再生に貢献できることがあるならと思っています。

高崎:山根さんは普段、すごく理論的でクールに話をされる方なんですけど、今回の対談で山根さんの違った一面を皆さんに伝えることができたらと思います。理論派というよりも、実はすごく熱量が高くその熱量でずっと動いてきて今がある人だということをみなさんに共有できたら嬉しいです。

小祝:以前から活動されている様子を見ていて、僕は熱量の高い人だと思っています。

島野:今回の対談で、草の根で活動を続けてこられたことを知り、僕はさらに山根さんの熱さを感じることができました。

山根:あまり自分のことを語るのは得意じゃないというか、聞かれないと答えないので、今回は話をする機会をつくって頂きありがとうございました。

一同:ありがとうございました!


ライター:波多野里奈(Rhism)
  撮影:福山勝彦(プランディング)
撮影場所:Creative Sound Space ZIRIGUIDUM(ジリギドゥン)
 収録日:2022.3.31



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?