見出し画像

コロナ禍を経て変化する「居場所」の定義

「プレイス」という名の居場所

画像1

サードプレイスという言葉があります。自分にとって第一の場所(ファーストプレイス)は家、第二の場所(セカンドプレイス)は職場や学校、そして第三の場所(サードプレイス)は家でも職場・学校でもなく、落ち着ける場所。公共の場所(広場、公園など)もサードプレイスと言われます。全て自分の「居場所」を指す言葉なのかなと思います。

かつてスターバックスの立役者ハワード・シュルツが作りたいとしたサードプレイスは、肩書きを必要とせずに誰もが自分でいられる、安心できるコミュニティとして定義され、同氏が目指す店舗の理想とされました。

人によってサードプレイスの意味する場所は違います。スポーツジムだったり、仲間と集まる居酒屋・バーだったり、共通の趣味の仲間が集まる場所かもしれません。

神の見えざる手でかき混ぜられる「プレイス」

2020年に我々を襲った災厄は、サードプレイスはいわずもがな、その他の二つの「プレイス」も含め、こうした居場所の考え方を根底からひっくり返してしまいました。

もともとファーストプレイスだったはずの「家」で人々は仕事や学習を始め、そこが実質的にセカンドプレイスに。主婦にとっては自分のファーストプレイスであり、セカンドプレイスでもあった家、少なくとも日中は「自分だけの城」だったはずの場所に、これまでいなかった家族が居座ることになります。そしてステイホームが謳われる中、「妻」「母親」「主婦」「マーケティング担当」「デザイナー」などの肩書きを必要としない心地良い居場所だったサードプレイスまでもが失われることに。

20年前、まだ創業後数年の楽天に勤めてまもない頃、本当に面白いくらい終電に毎日乗り損ね、ほどなくドアツードアで1時間かかっていた実家を出て、会社から歩いて5分の場所に引っ越しました。これで終電に間に合わなくなることはなくなったのですが、不思議なことが起こりました。会社の近くだから仕事仲間も普通に来るし、便利だからとつい、週末もふらふらと会社に行ってしまう。自宅と会社の区別がつかなくなってしまったのです。自宅にいても何となく職場にいるような気分になる。

今回のコロナ禍の中でふと、この時のことを思い出しました。思えばファーストプレイスとセカンドプレイスがきちんと分けられていればそんなことがなかったのに、そこの境界が曖昧になってしまったことから脳がオンとオフを区別することができなくなってしまう。家にいてもくつろげずに、何だかいつも仕事のことを気にしてしまったり、逆に会社にいても仕事がはかどらなかったり。

失われる物理的なサードプレイス

画像2

本来は別々の場所として切り分けられているべきファーストプレイスとセカンドプレイスが混同してしまうと、人々はストレスを感じるようになります。それなのに、そのストレスから解放される第三の居場所であるサードプレイスにも行けない。

唯一そんな中で訪れることができたサードプレイスは仮想空間にありました。Zoom飲み会はコロナがなければ中々普及しなかったでしょう。一方、以前からオンラインの住民だった人たちにとってはあまり変化はなかったかもしれません。かくいう私も以前オンラインゲームに結構ハマっていた時期があります。もし今もまだ続けていたら、毎日のように仲間に会うことができて、良いストレス発散になった気がします。

もうこれからは、沢山の人たちで実際に集まって「三密状態」で楽しく仲良く盛り上がることは永遠に叶わない過去の夢になってしまうのでしょうか?

わたしたち個人はこの先、
どのように「居場所」を考えれば良いのか?

元々ははっきりと区別されていたそれぞれの居場所。それらの境界が不明瞭になる中で我々はこれからどうやって自分自身の居場所を見つければ良いのでしょう?

これからの我々に課された課題として、「家」がファーストプレイス、「会社」がセカンドプレイス、という形で刷り込まれてきた従来の固定観念から一旦離れ、新たなファーストプレイス、セカンドプレイスのかたちを見つけるのが良いのではないでしょうか。

1. 時間で定義する

一つのやり方としては、これまでは別々の場所、異なる空間として定義されていた居場所を、同じ家の中にいながら自分自身が区別した「時間」として再定義すること。

「今は家族との時間」「今は仕事の時間」「今は趣味の時間」「今は何もしない時間」。

ただ、これは正直かなり難易度が高いと思います。「今は仕事モードです」ということをどうやって家族に理解してもらうか。あるいは「今は家族との時間に使いたい」と思っても今度は相手が「仕事の時間」だったり、「趣味の時間」だったらどうするか。意味がないどころか、いらぬストレスを相手に与えてしまいます。自分だけの部屋があればまだ何とかなるかもしれませんが、共同スペースしかなければ、さらに難易度が高くなります。

少なくとも、自分にはあまりうまくいく方法ではありませんでしたが、家族に対して「◯時から◯時までは仕事の時間だよ」と伝えて時間を確保するのは、他に選択肢がない中ではセカンドベストな方法なのかな、と思います。

2. 物理的な居場所を新たに見つける

自分個人の場合には、物理的な場所を変えることがこの切り替えを行うのに必要不可欠であることが改めてわかりました。

10年ほど前、独立して間もない頃にしばらく自宅で仕事をしていた時期があったのですが全くパフォーマンスが上がらず、家族にも「家にいて何もしてないんだったら家事を手伝ってよ」と。(いや、仕事してるんだけど。。。)結局さまざまなコワーキングスペースなども試した後に、家の近くのSoHoとして使えるマンションを借りて落ち着きました(これがやがて、きびだんごの最初のオフィスになりました)。

通勤にも精神的な負担が少なく(人との過度な接触を避けられる時間、移動手段)自分自身のスペースがあれば、このスイッチの切り替えができる。

今後は、従来はサードプレイスとして考えられてきた場所(カフェ、公園、マンションの供用スペースなど)もセカンドプレイスとして利用可能になるような用途転換も発想として大事になるのではないかと思います。

また最近、イギリスに住んでいる友人が「仕事がはかどる場所をタイムシェアできる」サービスを立ち上げました。AirBnBのようですが、あくまで仕事のパフォーマンスを上げることが目的という意味で、新たなセカンドプレイスを作る試みと言えそうです。

3. そもそも分けない

全てをマルチタスク的にやる、というのも今の時代ならではです。家族と共に時間を過ごしながら、Zoomで仕事の会議に参加する。その裏ではLINEを通じて趣味の仲間とオンラインで盛り上がる。

これがスムーズにできるのであれば、何もファースト、セカンド、サードなどと区別する必要すらもうないのかもしれません。全てが今そこに同時並行的に「居場所」として存在する。これこそが一番新しい価値観かもしれませんし、現実多くの人たちがこんな働き方をしているのではないかと思います。

バーチャルの空間を使うことによって、複数の居場所に一つの場所から参加できるようになり、これが社会通念的にも当たり前になった、というのは今回のコロナ禍が果たした貢献かもしれません。

4. 組み合わせる

一方で、これらの居場所の定義を組み合わせて拡張する試みもコロナ以前から行われてきました。WFH(ワークフロムホーム)を快適にする新しい住空間のアイデア(ファースト+セカンド)、背景の異なる人々をつなげるコワーキングスペース(セカンド+サード)、シェアハウスのような異なる人々がスペースを共有する試み(ファースト+サード)。

会社としての理想の居場所作り

画像3

自分たちの働く会社(きびだんご)では、オフィスをコワーキングオフィスのように「いつでも来られて仕事ができる場所」に再定義することで、来たい人だけが仕事ができるスペースとすることで、そうしたニーズに応えられるようにしました。

緊急事態宣言が解除されたのが今年5月25日。「これから僕たちはどうやって仕事すれば良いのだろう?」「会社は何をすれば良いのだろう?」という疑問が出る中、「ポストコロナの仕事のあり方について」というメモを今年の6月頭に書きました。

ポストコロナの仕事のあり方について

自分たちの会社のあり方自体が、自分たちが運営しているクラウドファンディングっぽいな、とふとその時に気づいたのを覚えています。

一人だけではなかなか実現が難しいコトを、みんなの力を合わせて実現する。一人だけだと行き詰まってしまうことを、みんなで一緒になって楽しむ。

そういう場をつくるのが自分たちの仕事だとすれば、それを支えるチーム自体も、それに合った働き方を目指したい。みんなが一緒になってお互いの強みを生かしながら、足りない部分をできるかぎり補いあうことで最高のアウトプットを出していく。そう考えると、なんだか自分たちの働き方自体がちょっとクラウドファンディングっぽくてワクワクしました。


当時は「居場所」としての会社をそこまで意識していませんでしたが「オフィスは自由に使える共有スペース」と書いてあるのを見ると、セカンドプレイスであったオフィスを「自分たち専用のコワーキングスペースっぽい場所=セカンド+サードプレイス」っぽい場所にしたかったのかな、と思います。

仕事をするには一緒の場所にいなければいけないという考えから、一緒の場所に集まれることは「滅多にない、価値ある時間」と考えを改め、個人として最大のアウトプットを出すことから、チームとしてのアウトプットを最大化できるようにすることへの発想を切り替えることが今後のリモート+リアルの両軸で仕事を進めるためには大事なのではないかと思っています。

会社、というのはリアルな事務所スペースを指すのではなく、志を共にするチームが集う、リアル・リモートにすらこだわらない現実+バーチャルの居場所になるというのが一つの理想なのかもしれません。

あなたは自分にとっての理想の居場所について、どう考えますか?

まつざき


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?