配送遅延から生まれるドラマ【前編】
今から7年以上前になりますが、クルマを予約してから納車まで5年間待った話を書いたことがあります。
納車を待った5年間は長く不安なものでしたが、改めて振り返ると決して嫌な思い出ではありません。それは、私自身もその長い長い旅に参加し、その世界を変えるかもしれないアイデアにわずかながらでも参加できたと思えるからです。
そんなことを最近改めて感じたことがありました。
「Jollylook Auto」の苦難の道のり
1. クラウドファンディングでの商品発表
Jollylook Auto(ジョリールック オート)という、木製のカメラがあります。以前から味のあるレトロ調の木製ピンホールカメラを作ってきたJollylook。このJollylook Autoはさらに一歩進み、レンズ付きの自動露出機能をもつ高性能版として開発されました。
米国Kickstarterで20万ドル以上(当時のレートで約25百万円)、2,400人もの支援者から資金を集めました。プロジェクトが終了したのは2020年2月。日本でもKibidangoで我々が直接事務局としてお手伝いする形でこのプロダクトの日本上陸を目指すプロジェクトが開催され、こちらも400万円近くの支援が入りました。
2. コロナ禍での商品開発と部品調達の難航
当時はコロナ禍全盛で中国からの部材がなかなか調達できず、サンプルを作るスケジュールに遅れが生じていました。当初Kickstarterの支援者に対しては2020年11月に出荷予定だったのが、大幅に遅延。我々も話はしていたものの、なかなか進まない生産を案じていました。ところがその後メーカーから無事に生産の見込みが立ったとの連絡があり、日本でもプロジェクトを開始することを決定します。
2021年12月に日本でのプロジェクトは終了し、翌年1月にも生産を開始、日本に向けても2022年3月から4月末にはお届けできる予定でスケジュールが進んでいました。
3. ウクライナ侵攻とオフィス移転
ところが2022年2月、ロシアがウクライナを侵攻。実はJollylookのメーカーは開発・製造を共にウクライナで行っていました。侵攻後ほどなくしてメーカーとの連絡が途絶えます。
我々がメーカーと再度連絡が取れたのは、そこから2週間後のことでした。チームは離散、隣国のポーランドやヨーロッパ各国に避難していました。
チームが無事であることにほっとした一方、彼らは生産拠点や用意していた部材を全て捨てて逃げなければなりませんでした。キーウにほど近いイルピンとブチャという二つの街が彼らの本拠地でしたが、イルピンではロシア軍からの侵攻に備えるために橋は破壊され、ブチャは爆撃を受け、住民の多くは難を逃れ避難しました。
その後1ヶ月以上が経ち、避難先からオフィス兼製造拠点を訪れることがようやく許されたものの、多くの部材や機械は破壊されていました。それでも使える部材は全てかき集め、一旦ウクライナのリヴィヴという街に移り、さらに戦況が見えない中、チームは隣国スロバキアのズヴォレンという比較的大きな街に拠点を移すことを決定します。
活動報告のコメント欄では、それを読んだ支援者たちが一様にその行動と勇気を讃え、「チームを応援するよ」という励ましのメッセージで埋め尽くされました。
4. 運転資金を得るための新プロジェクト開催
6月。Kickstarterの活動報告に新たな動きがあります。ピンホールカメラを自分で組み立てるDIYキットのプロトタイプを紹介し、「このDIYキットのプロジェクト、Jollylook Autoの発送が完了してからKickstarterで立ち上げようと思っていたんだけど、Autoの出荷が長引く中で必要な部品や設備を購入する資金を集めるために開催したい」と。
この辺りから支援者の反応が二極化します。支持者もいる一方で、資金を集めるためとはいえ「まだ前のプロジェクトの出荷が完了しないのに次を始めるとは何事か」という声も。
そうした批判はありつつも、DIYキットのプロジェクトは開催され、資金7万5千ドル(当時145円/ドル=約1,000万円)が集まります。
このキットの出荷を終えた後にAutoの生産を行うというのがメーカーの読みでした。この時点でのAutoの予定出荷時期は2023年4月。Kickstarterでの当初のプロジェクト出荷予定から既に3年近く遅延しています。
そしてその出荷予定日が近づいた2023年3月。DIYキットの出荷が完了したことと、Autoの生産に必要な機械は全て購入することができたという報告がありました。ただその一方で運転資金が少なくなってしまったため、さらに二つ目のプロジェクトを行う必要があるという話に・・・
様々な困難の中でAutoのプロジェクトはどうなるのか。後編に続きます。
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