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「欲しいバッグが売られていないから作る」 〜何年かかっても自分が納得するまで諦めないCACICA(カシカ)のものづくり〜

Kibidangoがスタートしてまだ間もない2013年に、9年掛けて自分の作りたいバッグを開発し、その量産化に成功した方がいます。「ユリシーズ」ブランドで様々なカメラグッズを企画販売しているCACICA(カシカ、当時は有限会社魚住)のエンゾーさんこと、代表の魚住さんです。

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そのエンゾーさんが、更に6年の年月を超えて、次のバッグ開発にチャレンジされています。

カメラと日用品が心地よく同居できる上質なトートバッグ【シューターズトート】

きっかけは2014年に行われた、あるイベント

前回のプロジェクトが終了し、バッグが無事支援者の元に届いてからしばらくして届いた一枚の招待状。そこには東京で開かれるというイベントの案内が入っていました。

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参加したのは、10人を超える支援者の方々。新たにトートバッグを作るというエンゾーさんの想いを聞きながら、様々なアイデアが出される非常に濃いイベントでした。

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エンゾーさん:当時参加いただいた方にはだいぶお待たせしてしまったと思っています。ただ、あのイベントをやって気づいた点があって。それは、機能をてんこ盛りにしてしまうと、実際に作った時に持つのが辛いものになってしまうということなんです。

実際に一作目のバッグに重たい荷物をたくさん詰め込んで展示会に参加したところ、数時間で肩が痛くなってしまった。もしトートバッグで皆が入れたいものを全部入れられるものを作ったとしたら、とてもではないけど持ち歩くことができないものになってしまう。

Amazonで販売されている、人気のボディバッグのレビューを見てみると「もう少し大きければ、もっとたくさんのものが入るのに」とあるのに、もう少し大きいバッグをみると「色々入れると重たくて持ち歩けない」と。色々思いっきり入れたいのであれば、両肩で支えられるバックパックの方が良いはず。

イメージしていた「つねに持ち歩ける、カメラと日常品を入れられるトート」を作るのであれば、メーカーなりの見識をまず確立し、それを提案すべきだと気づきました。

ここからエンゾーさんの長い旅が始まります。

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誰のためのバッグ?

今回の「シューターズバッグ」は、「スナップシューターズバッグ」を短くして付けた名前。エンゾーさん自身がユーザー視点で感じた「カメラと日用品が心地よく同居できて、日常使いはもちろんカメラバッグとしても優秀な製品があれば良いのに」という思いから開発が始まりました。

というわけで、ターゲットユーザーは他ならぬエンゾーさんご自身。

エンゾーさん:製作にかかり気づいたことは、前回のプロジェクトからのカメラを取り巻く環境の大きな変化、特にカメラ需要の大きな減少ですね。スマホの台頭で、一つのカメラに交換レンズも数本持って、三脚も持って、という人がほとんどいなくなってしまった。日常に寄り添って、カメラの居場所が確保できればそれで十分という風に自分も含めて思うようになったんです。
とは言え、「カメラを捨てて全部スマホで」という話でもなく。大事なカメラを一台だけ入れて、あとは日常使うデジタルアイテムなどを入れられたらベストだなと。

そんな風に、アイデアは膨らんでいきました。

立てて収納するための「スライディングボックス」

通常、カメラバッグには中の仕切りとしてベルクロ(マジックテープ)が使われています。ただ、元々医療用テープとして開発されたベルクロは地味な色が多く、なかなかお洒落にならないため、エンゾーさんはこれが気に入りませんでした。また、持ち歩くものを変えたい時にいちいちベリベリとテープを剥がして付け替えるのも手間になります。

そんな折、知り合いの収納のプロから「箱の中や部屋を片付ける時には”縦”に収納する」のが基本という話を聞きます。

エンゾーさん:ならば、最初から箱を用意して、それを壁で支える形にすれば良いのではないかと思いついたんです。それが、今回の一番のウリである「スライディングボックス」。このカスタムメイドのインナーバッグとも言える機構にペンケースなど、トートバッグに入れると底にへばりついてしまうようなものを入れる。そして自由にバッグの中でスライドさせたり取り外しができるようにすることで、バッグの中に入れるものに応じて、すぐに対応できるようにしました。

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目の前に立ちはだかる大きな壁と運命の出会い

こうして素晴らしいアイデアを手に入れたエンゾーさんでしたが、早速大きな壁に当たります。それは素材供給の壁。通常デジタルアイテムなどを入れるバッグは、バリスティックナイロンなど化学繊維のものが人気ですが、こうした素材は高品質なものほど国内では入手しづらく、中国製品などに頼るしかありません。一方で、そうした工場の最低ロットは何千という規模。

そんな中、ある出会いを通じて状況が一変します。

エンゾーさん:東京で開かれた展示会で、ひときわクオリティの高いサンプルを展示しているインドのOEMメーカー(工場)がありました。自分のイメージしていたレザーやコットン生地で、非常に縫製技術が優れている。早速「こんなトートバッグを作ろうとしているんだけど」と相談すると、すぐに「できる」との回答を得ました。

すぐには話を信じられなかったエンゾーさんは、翌日手描きのスケッチを持って再度ブースを訪れます。回答はまたも「できる。簡単」の一言でした。

エンゾーさん:結局、会期3日間そのブースに通い詰めて色々と話をし、こちらが話す要望を的確に理解してくれることに感銘を受けました。そしてわずか数週間でサンプルがインドから届いた時に、これは実際に工場を尋ねるしかない、と決意を固めたんです。

渡印前、工場のあるインド南部、チェンナイ近くのラニペットという皮革加工で有名な町を検索すると「世界10大汚染の町」として有名だという事実が判明。エンゾーさんは一抹の不安を抱きます。

しかし実際に訪れた工場は、そんなエンゾーさんの懸念を見事に払拭する素晴らしい場所でした。高い塀に囲まれた工場の敷地内は糸くず一本ないほど清潔に保たれ、なめし加工から縫製までを全て自社内で行える強みもあり、その利点を活かしてヨーロッパの一流ブランドを含めた様々なブランドの下請けをしていることが分かりました。

エンゾーさん:何と言っても素晴らしいのが、100個単位から製造に応じてくれるその姿勢ですね。相手の規模によらず、常に「どうしたらクライアントの要望に応えられるか」と考え、通常であれば嫌がられる試作品も、何回も繰り返し作ってくれました。

イタリアからリタイアした靴職人が住み込みで技術指導を行っていて、世界中から集まるバイヤー向けに工場敷地内に用意されたゲストハウスでは、質素ながらもインド料理に加えてイタリア料理が振る舞われたとのこと。エンゾーさんの話からは、「自分の目で見て確かめる」という、首尾一貫したものづくりに対するこだわりが感じられます。

写真の意味が変わっても、撮りたいスナップとは

一人のカメラファンとして、自分の欲しいものを作り続けるエンゾーさん。「ここ数年で写真の意味が全く変わってしまった」と言います。

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エンゾーさん:フィルムの時代には、写真は記録だったんです。瞬間を切り取って記録する。想いを閉じ込め、後から思い出を振り返る。それが、今は写真は言葉。しかも一方通行ではなく、リアルタイムの会話なんです。

今、自分がこれを見てこう思ったよ、ということを画像だけ、もしくは画像にちょっとしたコメントやハッシュタグを付けて投げ、それに対するフィードバックを得る。写真はリアルタイムな会話そのものに変わりました。

そんな会話に必要なのはテンポの良さ。そうしてコンパクトカメラなど中途半端なものは廃れる一方で、スマホでは決して撮れない画質の写真が撮れるミラーレス一眼などには、まだ価値が残っていると思うんです。

スマホ全盛の中、カメラを持ち歩くエンゾーさんが撮りたいスナップとは、作品ではなくもっとパーソナルなものだそう。

エンゾーさん:あ、これよかったな、覚えておきたい。忘れたくないものはスマホではなくカメラで撮りたい。スマホでは何千枚という写真を撮っても、三日経ったら何を撮ったかすら覚えていない。そうではなく、心がもっと揺り動かされ、高まった時に撮るもの、それがスナップだと思います。

ユリシーズが作り続けるもの

エンゾーさん曰く、作りたいのは単純に「入れるもの」だそうです。

エンゾーさん:なぜバッグを持っているのに、それでもなお新しいバッグを欲しがるのか。それは人間が常に自分の納得する入れ物を追い続けていて、それはあたかも自分が納得する人生を追い続けているのと同じことなのではないかと思います。

洋服は何で自分の体を包むか、だけれど、入れ物は「何を入れるか」。逆にいうと「何を入れないか」という見方もできます。例えば財布も最近はコンパクト化がどんどん先鋭化していて、単に「カードが5枚入って、小銭とお札が入る」のではなく「薄くて小さく」さらに「凸凹がなくてフラットに薄い」ものと、どんどん進化している。

そしてらせんのようにまた先祖返りしてまた元に戻る。完全に飽食の時代、豊かになりすぎてお腹一杯になっている。だからこそ色んな意味で身軽になりたい。

そういう時代において、人々が欲しがるものはどんどんと多様化する中、必要となるのはクラウドファンディングというような仕組みや、100個単位での量産を可能とするようなインフラだと思っています。そういうインフラがないと、ものづくりは面白くなくなるし、そもそも最初からスタートできない。

何年かぶりにじっくりとお話を伺ったエンゾーさんは、時代が目まぐるしく変わっても全く変わらない、カメラを、そしてものづくりをこよなく愛する方でした。

そんな彼を一番良く表しているのが、今回のプロジェクトのイメージ写真。

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カメラ好きな男性が、自分が欲しかったトートバッグを抱きしめている。まさにそこにエンゾーさんの姿がダブって見えてきます。

「トートバッグなんて幾つもあるじゃない」と嫁に言われても、やっぱり欲しいものは欲しい。そんな理由をつけながら迷わず支援をしたのでした。

まつざき

【参考】
カメラと日用品が心地よく同居できる上質なトートバッグ【シューターズトート】(開催中)
https://kibidango.com/1292
ユリシーズが仕掛ける、高機能でカジュアルなメッセンジャー型カメラバッグ (2013年)
https://kibidango.com/2f


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