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「ストーリーをつむぎ、伝える」とは〜高校野球のドキュメンタリーを通じて感じたこと〜

「海外発」の甲子園

先週末に映画を観ました。山崎エマさんという、ニューヨークを拠点に活躍されている弱冠31歳の若き女性監督の最新作で、高校野球をテーマにしたものです。元々は2019年秋にニューヨークの映画祭で上映され、2020年からアメリカで劇場公開予定でした。一旦は、このコロナ禍の中で棚上げとなったものの、米国最大のスポーツチャンネルであるESPNで放送されたとのこと。また、日本でも期せずして夏の甲子園が中止を余儀なくされる中で脚光をあび、今回の劇場公開が実現しました。

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甲子園:フィールド・オブ・ドリームス

『「夏の甲子園」第100回記念大会へ挑む激戦区神奈川県の雄・横浜隼人高校と、大谷翔平や菊池雄星を輩出した岩手県・花巻東高校の球児とその指導者へ1年間に渡る⻑期取材を敢行したドキュメンタリー映画。物語は、30年近いキャリアの中でも特別な想いで記念すべき年に挑む横浜隼人高校の水谷哲也監督、そして水谷の愛弟子である花巻東高校の佐々木洋監督。第100回の夏へ挑むふたりの監督を追いながら、純粋に青春の全てをぶつける高校球児と、教育の最前線にたつ指導者の葛藤、喜びを見つめていく—。』(映画HPより)

何よりも驚いたのは、ドキュメンタリーであるがゆえに、最初からこういう流れで行こう、とあらかじめ考えて作られたのではないにもかかわらず、非常にストーリーが豊かで、よどみなく自然に物語が進んでいくことでした。正直これがドキュメンタリーである、ということを忘れてしまうくらいに登場する人たちのドラマに引きずり込まれてしまう自分がいました。

伝統と革新  

登場する二人の監督が、これまた非常に味わい深いのです。古き伝統を頑なに守る横浜隼人高校の水谷監督。伝統に学びながらも今の時代に必要なものは何かを考える花巻東高校の佐々木監督。部員に甲子園の土を踏ませたい、日本一にしてやりたい、その想いは一緒ながらも、お互いに歩んできた人生、自分の中に作りあげられてきた人格などの違いが言葉や行動の随所から滲み出てきます。

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(C)2019 Cineric Creative/NHK/NHK Enterprises

山崎監督のお話

映画終了後、山崎監督が挨拶される会に参加させていただきお話を伺ったのですが、いくつかの点で非常に印象的な体験でした。

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まず、ドキュメンタリーを作る、ということの大変さ。山崎監督いわく、合計1,000時間くらいの時間を費やし、その中で撮影した映像の時間は300時間。長い時間を高校生や監督と一緒に過ごす中で、お互いのことを本当に知り合える仲にもなりつつ、そうは言っても自分は彼らにとってみれば邪魔にもなりえる存在、ということを自覚しつつの1,000時間であったとのこと。

「誰が甲子園に行くのかは最初からはもちろんわからない。追いかけている選手が故障してしまうかもしれない。そんな中で、4つのチームを追いかけ続けました。」

佐々木監督率いる花巻東は、いまやメジャーリーグで活躍する大谷翔平選手や菊池雄星選手を輩出した高校。それゆえメディアからの注目も多く浴びましたが、取材はあまり受けていなかったそう。その彼が語る言葉にも非常に深み・重みがあるのですが、山崎監督曰く、

「自分たちは映像を撮りたいと思っていても、相手にとって何のメリットもなければ、相互に良好な関係は築けない。「自分たちがみなさんの映像を撮ることで、日本の教育が変わるかもしれない。」というようなことをお話しし、ご協力をいただくことができました。」

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(C)2019 Cineric Creative/NHK/NHK Enterprises

また「どんなに素晴らしいことを話してもらっても、そこでカメラが回っていなければ自分がそこにいる意味がない。」とも。

映画の中には登場する人たちにとって非常につらい場面も登場します。

「人生の中でも本当にどん底に落ちている人をみるのは本当につらい。でも自分の仕事はそれも含めて、スクリーンを観る人たちにそれを見せる。その使命感に突き動かされて『このつらい現実に直面している彼らを撮らなければいけない』と思っていました。」

そして何よりも驚きだったのが、今回の主役とも言える横浜隼人高校の水谷監督にフォーカスしようと思ったのは、なんと撮影が終了してからだったということ。

「撮り貯めた300時間もの映像を前に、一番甲子園にこだわり続けているのは選手ではなく、監督だと気づいた」

リアリティショー全盛の時代ですが、やはり現実は小説より奇なりとはよく言ったもので、リアルなストーリーには、フィクションからは得ることのできない何かがある気がします。

「ニンジャ・スシ」ではない、本来の日本を伝えたい、というところから高校野球に着目した山崎監督。今回の撮影チームはアメリカを中心とする海外撮影クルーだったとのこと。彼らが初めて訪れる日本の中で目にした高校野球は果たしてどのように映ったのか。それが映画に反映されていると感じました。我々が昔から知っている日本の情景、高校野球を描きながらも、どこか我々にとっても初めての景色に見えるのはそうしたことが背景にあるのかもしれないと感じました。

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(C)2019 Cineric Creative/NHK/NHK Enterprises

興味を持たれた方は、ぜひ映画館に足をお運びいただければと思います。

おさるのジョージから甲子園へ

私が山崎エマ監督を知ることになったのは、あるクラウドファンディングのプロジェクトがきっかけでした。

山崎エマ監督は、2016年にクラウドファンディングを行っています。彼女が手掛けた初めての長編ドキュメンタリー作品は、誰もが知っている絵本「おさるのジョージ」の作者夫妻の壮絶な人生を追いかけたものでした。映画の制作を進める中で制作資金が不足し、その最後に必要となった2,000万円もの資金を集めるプロジェクトを開催した時に、たまたまそれを見つけ、不躾ながら直接ご連絡してお話を伺うことができました。

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(C)2019 Cineric Creative/NHK/NHK Enterprises

これは当時の記事。
「ひとまねこざる」作者夫妻のドキュメンタリー映画化プロジェクトを応援しませんか?

「ストーリーをつむぎ、人を動かす」ことの大事さをこれほど理解している人はいない、と思います。

今回も、これだけは絶対に観ないと損をすると思って行きました。そしてこのタイミングでこの作品を観れたことをとても嬉しく思っています。がんばれ、山崎監督。

まつざき

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