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エスケープ。完璧には想像できない韓国小説の世界に飛び込んだ|📚『屋上で会いましょう』

最近、図書館や書店に行くと、韓国人作家の本を手に取りがちだ。

初めて読んだ韓国の本『82年生まれ、キム・ジヨン』が好きで、
初めて観た韓国映画『ビューティー・インサイド』が好きだからだろうか。
そして最近読んだ『アーモンド』と『三十の反撃』ですっかり韓国文学の虜になったからだろうか。

24歳で遅めの韓国(文学)ブーム

ティーンエイジャーの頃に、特段K-POPや韓流ドラマが好きだったわけではなく、むしろ「流行にはわたしは簡単に染まらないぞ」くらいの気持ちで、ずっとアメリカの音楽やドラマがわたしの青春と共にあった。

だから、24歳の今になって自分の中で空前の韓国ブームがやってきたのは少々不思議だ。
しかも、ブームの中身はBTSやBlack Pinkではなく、韓国文学なのだから余計に不思議。

近年、多くの書店でも取り扱いのあるような文学はちょっと傾向があるのかもしれない。Netflixで観られる韓国の恋愛ドラマに傾向があるように。そんな仮説を持ち始めた。

まだ数冊しか読んでいないが、韓国の恋愛ドラマのようなシンデレラストーリーは滅多に存在していない。どちらかというと現実的すぎるくらいで、ただ描かれる主人公に強烈なインパクトがある。
質素で平凡な暮らしを送る人に、ちょっと不思議なことが起きるか何かして、読んでいる間は結構意味がわからなかったり、自分と全く別の世界にいるような気がするのに、最終的になぜか共感している、みたいな。そんな気持ちになる。

パステルカラーではないけど、彩度の低い色で統一感があって、色相や明度はバラバラみたいな、そんなジャンル。
もしかしたらこれは、韓国文学全体というより2020年代のエッセイや一部の小説に当てはまることなのかもしれない。そして、たまたまこの仮説に当てはまる韓国小説が日本で売れているだけで、わたしの知らないところにそうではない小説がたくさんあるのかもしれないけれど。

小説で“エスケープ”

休職をはじめてから、病院以外で定期的に外出するためにも図書館で本を借りている。宅トレも、毎日note投稿も続かなかったけれど、これだけは続いている。

今までの2ヶ月でざっくり20冊読んだが、ほとんどがいつか大学院で勉強したい、日系アメリカ人や移民の歴史関連だった。
日系アメリカ人の強制収容時のエッセイや自伝などの歴史の専門書以外を挟んでも、話題が話題なので脳が混乱し、まあまあ疲れる。いくら好きなトピックの本を読んでいても、四六時中頭を使って読書をするのは大変だ。

そこで、毎回5冊借りるうちの1冊を、アメリカと日本以外の国が舞台の、移民史が全く関係ないエッセイや小説にするというルールを作ってみた。

ちょうどよかったのが、韓国文学だったようだ。

韓国ドラマでしか見たことのない韓国は、それだけでわたしにとっては未知の世界だし、ドラマで描かれる主人公たちよりも本で描かれる人々は質素で見た目も持っているものも普通の人、わたしに近い人たちだ。
この微妙に想像できそうで完璧には想像できない世界線がおもしろい。

休職していて、アメリカ人の彼氏がいて、日系アメリカ人のことばかり考えている自分の世界と切り離して、すべてのシーンを鮮明な画像として想像できない本の世界に没頭できる。

ちょうどよく、エスケープできる。

エスケープという言葉は、ジブリの『コクリコ坂から』から拝借している。
主人公の海と彼女の初恋である俊が、自分たちの“人生上の一大事”のために学校を抜け出しているときに生徒会長が彼らをかばった際の一言。

そう、わたしも韓国小説のおかげで、しばしば現実では向き合うべきことからエスケープできている。
そして担当のカウンセラーさん曰く、まだまだわたしは目標や目的にこだわりすぎて休めていないので、エスケープせよとのことだ。

これからも定期的に、5冊に1冊のペースで、エスケープしたい。
うつ病が治っても、また働くようになっても、だ。
これは、病気になったからこそ見つけられた新しい「わたしの機嫌の取り方」かもしれない。ラッキー!

ひとつひとつより、まとまって一層面白くなる『屋上で会いましょう』

ソン・ウォンピョンや、チョ・ナムジュの本は、大ヒットして日本で何冊も書店で並んでいるので、どれか一度は手にとって欲しいところだが、今回わたしをエスケープさせてくれたのはチョン・セランの短編小説だった。

図書館では、表紙がかわいいからと手に取って、家に帰って短編集だと気づいた。

読み進めると、文体は似通っているが、言われなければ全て彼女が書いた作品だとは思えない。さまざまな世界観が描かれていて、それぞれに独特のユーモアが散りばめられている。

そしてこの、バラバラの作品集で読者をある意味惑わせることが、彼女の執筆当時の思惑だったらしいことも非常に面白い。

わたしのお気に入りは、「ヒョジン」と「屋上で会いましょう」と「永遠にLサイズ」だ。
全部で9つしかないのに3つもお気に入りを挙げてしまった。
いや、きっと読まれた方はわかってくださるはず。

ひとつひとつの長さがちょうどよくて、病院の待合室にいる間にひとつ読み終えられる。友達が電車を間違えて待っている間、付けたばかりのろうそくがもったいないからもう少し起きていようかと思っている夜に読み終えられる。そういうところも好きだった。
そういうちょうどいいエスケープ。

どうやら彼女の作品は他にも日本語訳版が販売されているようなので、また彼女の作品に、わたしのエスケープを手助けしてもらえるよう頼ってみようと思う。

それでは。




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