高齢者の「1つのリアル」
ウチの母(78) は、長年使い慣れたガラケーを 3G 停波のためにガラホに乗り換えて1年以上経つが、今も
「どこかから着信があった後、画面左上に残る『着信有り』アイコン」
の消し方が分からず、着信の度に私が教えている。 操作としては「着信履歴」を見て「戻る」だけなのだが、何度やっても憶えられないようだ。
(そんなもの放って置いたって実害は無いのだが、「とても目障り」で「すぐ消したい」との由)
頻度が少ないからいちいち教えてあげられるが、これではスマホを使わせる事はとても出来ない。
また、クレジットカードとキャッシュカード・通帳は昔から理解しているが、電子マネーとポイントは何年経っても理解できないようで、これも都度教えるハメになっている。
もちろん高齢者であっても、私よりはるかにスマホを活用してデジタル生活を楽しんでいる方は少なくないが、一方で、ウチの母みたいな人と共に生活していると、「誰一人取り残さないデジタル社会」とか「完全キャッシュレス化」なんて、幻想でしかないと強く思う。
高齢者と言えば政治家の皆さんも高齢者が多いと見受けられるが、スマホを使って、「キャリアメール」「フリーメール」「SMS」「SNS の DM」をちゃんと使い分け、スパムとそうでないメッセージがきちんと区別でき、複数の SNS にアカウントを持ち、キャッシュレス決済を日常的に使い、それらのトラブルや不明点について誰にも相談せず自力解決している……という方は、どれだけいるのだろう。
IT と高齢者(だけでなく境界知能の方もそうだと思うが)の「相性の悪さ」は、それこそ1980年代の「OA(オフィス・オートメーション)化」や1990年代の「ペーパーレス化」の頃から言われ続けてきたが、その頃はまだ個人がネットやデジタル機器に関わる事が少なかったから、企業問題ではあっても社会問題にはならなかった。
しかしマイナンバーカードの普及率100%を目指す、と言われると、これはなかなか難しい話である。 赤ん坊からお年寄りまで、目が見えない人も耳が聞こえない人も、国民全員が、自らのデジタルデータと関わらざるを得ないからだ。
……今も思い出すネット記事がある。 もう10年前の話だが、今も問題の様相はまるで変わっていない。 http://www.takaranoyama.net/2013/12/disturbing-from-using-ipad-for-elderly/
iPad が出現した時、米国では「2歳から90歳まで説明無しで使える優れた UI」と喧伝されていたが、その文章の後半は、少なくとも我が国では当てはまらないようである。
こういう実情を、政治家の皆さんは、たぶんほとんどご存じ無いのだろう。 おそらく IT 技術者の多くも知らないと思われる。
もし知っていて、マイナンバーカードやキャッシュレスを推進しているなら邪悪だし、知っていて10年間 UI の設計をし続けてきたのなら、これもやはり邪悪だ。
(了)
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