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グラデーション

目に見える周りのものを観察してみると、大抵のもの、というかすべてのものの境界はグラデーションでできていることがわかる。つまりこの世のすべてのものは、曖昧な境界で自他を区別されている。どれくらい曖昧であるかで、そのものが鋭いのか、やわらかいのかが決まる。

ものの表面を観察すると、光の当たり方はどこひとつとして均一ではない。均一に照らされていると思っても、そこには微妙なグラデーションがある。だから、ものの「写実性」を判定する重要なものさしとして、わたしは、それが内在するグラデーションを表現するために必要なパラメータの総数があると思っている。

すべてのものはグラデーションからできている、と思うようになってから、ものを見る目が随分変わった。1つのグラデーションを定めるのに必要な要素は3つで、1つは始点(線や面である場合もある)の場所と色、1つは終点の場所と色、そしてもう1つは終点と始点をどのように接続するのかという情報だ。だから光沢のある金属製のオブジェクトを見るときも、夕暮れ時に複雑な陰影を見せる雲を見るときも、濁った川の水に街明かりが反射するのを見るときも、色の境目を探し出し、その両端の色を抽出できればよい。グラデーションの存在を心に留めてものを観察する、それだけでたくさんの発見がある。控えめなグラデーションが、たしかにその情景に物語を作り出している。

グラデーションに基づいた観察をするようになってから、光というものが如何に「意外な」始点と終点をもったグラデーションでできているかを知った。光と影の境界には、赤色から紫色まで実に様々な色が潜んでいる。日常は、いくら観察しても足りることがない。

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