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自民党総裁選異変

 12日に告示された自民党総裁選は27日までの15日間という「史上最長」の長丁場だそうだが、中だるみをしてきた序盤の5日を経過して、ここで朝日新聞が大きな爆弾を放り込んできた。後追いできるメディアがいないため、まだまだこの爆発の影響は計り知れないが、それでも大きいものであることには間違いない。
 
 告示に向けて8月19日に小林鷹之前経済安保相、24日に石破茂元幹事長、26日に河野太郎デジタル相、9月3日に林芳正官房長官、4日に茂木敏充幹事長、6日に小泉進次郎元環境相、9日に高市早苗経済安保相、10日に加藤勝信元官房長官、11日に上川陽子外相が順次それぞれ出馬表明をしてきた。
 
 総裁選前の一連の顔見世興行では、「長年、議論ばかりを続け、答えを出していない課題に決着をつけたい」として総裁選後ただちに解散総選挙を行うと大見得を切り、一般国民への浸透を意識して政治改革や選択的夫婦別姓問題を取り上げた小泉元環境相がぶっちぎりで駆け抜けるのではないかと見られていた。
 
 小泉元環境相が出馬表明した6日の会見では、フリージャーナリストの田中龍作氏が「小泉さんがこの先首相となってG7に出席された場合、知的レベルの低さで恥をかくのではないか?あなたはそれでも総理を目指すのか?」とド直球の質問をした。
 
 これはやらせの質疑応答なのではないかとか、事前の着席指定と質問票回収があったので知っていて田中氏を当てたのではないかなどと言われていたが、昨晩ご本人に直接おうかがいしたところ、ハプニングで当たったものであり、田中氏としては事前質問も出していなかったとのことだった。
 
 会見の前夜、田中氏は「どうせ当たらないかもしれないが、万一当たったときに何を訊けばよいか」と考えて一睡もできなかったという。そしてひねり出した渾身の質問に対して、小泉元環境相は「私に足らないところが多くあるのは、それは事実だと思います。そして完ぺきではないことも事実です」と応じ始めた。
 
 『田中龍作ジャーナル』では、その様子を《そのうえで、「しかし、その足りないところを補ってくれるチーム、最高のチームをつくります。そのうえで各国のリーダーと向き合う覚悟がある」と斬り返してきたのである。人たらしの異名を取るだけのことはある。》と伝えている。
 
 そこだけはメモを見ず立て板に水のように答える自信あふれる姿から、小泉前環境相に対する不安は影を消したようにも見えた。そのことは、党員票とともに重視される議員票を獲得する前提となる推薦人獲得でも発揮され、背後に菅義偉前首相の影がちら付くことで陣営に重厚感を醸し出していた。
 
 その小泉元環境相は、国民的人気は高いものの旧二階派から推薦人を借りてきてようやく参戦することができた石破元幹事長との一騎打ちとなるのではないかと見られていた。9人が立候補することで議員票ではそれほど差が出ず、党員党友票がカギを握ると言われており、総裁選前のNHK世論調査では、自民党支持層で石破29%、小泉27%、高市13%とされていた。
 
 また、NNN が独自に党員・党友調査を行った結果として公表した数字としては、石破28%、小泉18%、高市17%と、この3人が頭ひとつ抜きん出ていた。派閥解消後の議員票の行方が見えにくい中で、こうした世論調査の結果は議員の投票行動にも影響を与えるものと見られていいた。
 
 そうしたオモテの状況とは別に、水面下を覗いて見れば、菅義偉前首相が推す小泉元環境相は父・小泉純一郎元首相や森喜朗元首相がその背後に座っていた。「岸田カード」を失った麻生太郎元首相は河野デジタル相を擁立せざるを得なくなったが、世論調査を見ればレースから脱落しているのは確実であった。
 
 ところが、史上最多の9人が立候補した総裁選が始まってしまうと、論戦というには極めて物足りない、まるで生徒会長選挙のような、ボクのワタシの意見発表会の様相を呈してきた。どの陣営も失言をして足を掬われないために腐心しているようでもあり、世論受けするワードに酔っているようだった。
 
 その中で、小泉元環境相の失速が目立ってきた。労働市場改革の本丸として不退転の覚悟で法案化するとわざわざ争点化した「解雇規制の緩和」が安易な首切り、解雇の自由化につながるという批判の大合唱に包まれ、あえなく「緩和ではなく見直しだ」と腰砕けになったのである。
 
 その結果、NNN の独自党員・党友調査では、石破26%、高市25%、小泉16%と小泉元環境相は後落していく。入れ替わって急上昇してきたのが「選挙の神様」を陣営に加えた高市経済安保相だった。今朝の共同通信調査では自民党支持層で高市経済安保相はトップに躍り出た。そこに降って湧いたのが今朝の朝日新聞のスクープである。内容は鈴木エイト氏が以前「最後のピース」と指摘していたものだ。
 
 具体的には、参議院選公示4日前の2013年6月30日に自民党本部総裁応接室で、故安倍晋三元首相、萩生田光一元経産相、岸信夫元防衛相と徳野英治教団会長、宋龍天「全国祝福家庭総連合会」総会長、太田洪量国際勝共連合会長らが会談したというものであり、今朝の朝日新聞にはその証拠写真と証言が複数載っている。
 
 2012年12月に発足した第2次安倍内閣は7月の参院選で大勝して「ねじれ国会」を解消し、安定政権を実現したが、この6月30日の会談で故安倍元首相は北村経夫元産経新聞政治部長の参院比例区での当選を期して教団の全国組織で支援を依頼したという。鈴木エイト氏が不明だとしていた「首相じきじき依頼」が明らかとなったのである。
 
 鈴木エイト氏は2013年7月7日の「やや日刊カルト新聞」で「優勢が伝えられる自民党に、統一教会との裏取引疑惑が浮上した」とこのことに触れており、『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』でも「首相からじきじきこの方を後援して欲しいとの依頼があり」というFAXが紹介されたものの、「安倍首相の事務所に質問書を送ったが回答は得られなかった」と「最後のピース」には届いていなかった。
 
 今朝、「首相じきじき依頼」が実際にあったという事実が提示されたことにより、ここまで快進撃を続けてきた高市経済安保相に加え、小林元経済安保相にも疑惑と批判が集中することになるだろう。せっかく裏金問題をうまく争点から消したのに、これでは旧安倍派中心の統一教会問題から裏金問題にも再び火が付きかねない。やはりこの2人が厳しくなるのだろう。
 
 それだけではなく、河野デジタル相を推すかつて「ワシントンタイムズ」に全面広告を出した麻生元首相にも注目が集まってしまうし、安倍政権の大番頭であった菅義偉前首相も独自のルートを持って教団と接触していたことで、やはり小泉元環境相に問題が返ってくるのではないだろうか。
 
 なぜなら、鈴木エイト氏は菅元首相に関して、「菅官房長官の仕切り」を指摘するとともに、2017年7月19日に韓国で開かれた報告会で金起勲統一教会世界副会長が、「(5月12日に)ヨシヒデ・スガ官房長官が首相官邸に私どもを招待し、会いました」と菅鶴子総裁に報告したとも伝え、安倍ルートとは別の菅ルートの問題を取り上げているからである。
 
 石破元幹事長も統一教会関連団体での講演や教団系メディアへの登場、「世界日報」元社長からの寄付を受けていたりする疑惑が指摘されている。加藤勝信元官房長官も関連団体に会費を支出したり「世界日報」の取材を受けたりしている。多くの総裁選候補がさまざまな影響を受けることが考えられる。
 
 アメリカ大統領選挙を睨みながら、どちらがどちらに影響をするのかはわからないが、総裁選の結果は必ず日米関係に及んでいくだろう。一方、世論の沸騰具合によっては総裁選直後の解散総選挙など、自民党にとって夢のまた夢になるかもしれない。その先にはまたもや悪夢が待つことになるだろう。
 
 今朝の朝日新聞のスクープはパンドラの箱を開けたようなものであり、中だるみしていた自民党総裁選に喝を入れた。主要候補が軒並み統一教会に汚染されていたことが思い出され、わが国の国益を守ることができるのかが問われることになる。だからと言って立憲民主党の株が上がるわけではない。引き続き退屈で茶番な総裁選を注視し続けなければならないのは日本の悲劇である。

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