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【短編小説】焼きすぎたパン #プロローグ〜1章

プロローグ

北翔と七瀬は夜の公園にいた。
「あの七つの星…北斗七星じゃない?」北翔は言った。
「ほんとだ~。きれいだね。あれっ、流れ星だよ…願い事しなきゃ」
「あっ、俺もしよっ」
「北翔と一生一緒にいれますように・・・」七瀬がつぶやく。
「その願い叶うよ」北翔は指輪を差し出し七瀬の左手の薬指にはめた。
「えっ・・・」七瀬はびっくりして言葉がでなかった。
「結婚しよう。一生七瀬の笑顔を見ていたい」
「うん」七瀬はとびっきりの笑顔で答えた。指輪には北斗七星が彫られていた。
「なんか運命を感じる。ずっと前からこうなる事が決まってたみたいだよ」
「私もそんな気がする」
「七瀬・・・大好きだよ」
「私のほうが大好きだよ」
「俺のほうが大好きだから」
「じゃあ引き分けね」二人は抱き合った。そして結婚して家族になった。

ある日、七瀬の両親、徹哉と千菜津が遊びに来ていた。
「今日のおやつは手作りのパンだよ。今焼いてるから待っててね」
「たのしみ~」千菜津が言った。千菜津は大のパン好きだ。
「よく作るの?」徹哉が聞いた。
「ううん、今日が初めてなの」七瀬は照れながら答えた。
「そうか、でも七瀬は料理上手だから期待できるな・・・んっ、なんか焦げくさいぞ」
「あっ、いっけない」七瀬はあわててキッチンにかけこんだ。オーブンを開けるとそこにはちょっと焼きすぎたパンがあった。とりだしてみた。
「セーフ。ちょっと焼きすぎたけど大丈夫」
「焦がしたのか?」奥から徹哉の声。
「大丈夫、大丈夫」と言いながらリビングにパンを持って行った。
「さぁ、食べて」七瀬は笑顔でみんなにふるまった。みんなで食べ始めた。
「見た目は焼きすぎだけど味はおいしいな」と徹哉がほおばりながら言うと
「おいしいけど見た目がなぁ・・・」北翔も便乗して言った。

「ちょっとぉ、一言多いんですけど。お父さんがいるからって調子のらないで」七瀬からするどいツッコミが・・・北翔は普段は七瀬の尻に敷かれっぱなしなのだ。
徹哉がいるときは気が大きくなる。
「ごめん。すごいおいしいよ」
「そうでしょ」
「あはは」徹哉が笑うとほっこりした雰囲気になった。温かくていい家族だ。
だが千菜津は一人パンを見つめてぼーっとしてる。
「お母さんどうしたの?おいしくない?」七瀬が言うと
「すっごくおいしいよ。でも昔のこと思い出しちゃってさ」
そう、この焼きすぎたパンをきっかけに始まった波瀾に満ちたときの事を思い出したのだ・・・。 

第1章 2009夏~すべての始まり~

私の名前は千菜津。25歳。広告代理店で働くOL。この日私は会社のみんなに持ってくために手作りのパンを焼いていた。遥斗が遊びにきた。

遥斗はIT企業に勤める3歳年上で3年間付き合ってる彼氏。人見知りな性格なんだけど内に秘めた情熱の持ち主なの。学生時代はひきこもってたみたいなんだけどその時にコンピューターの腕を磨いて今じゃ立派なIT企業の会社員。結婚も考えてるの。

「おつかれ~」
「おつかれさま~。今ねパン焼いてるの。明日会社のみんなに持ってくんだ。遥斗も食べてよ」
「もちろんだよ。千菜津が作る料理は最高においしいからいつも食べるのが楽しみなんだ・・・あれっ、なんか焦げくさくない?」
「あっ、やばい」私はあわててキッチンにかけこんでオーブンを開けた。
「セーフ。ちょっと焼きすぎたけど大丈夫」パンを遥斗のところへ持って行った。
「じゃ~ん。出来たよ。食べて」
「うん」遥斗はひと口食べると無言でふた口さん口と食べた。
「どう?どう?」
「見た目はあれだけど・・・おいしい」
「一言よけい。私も食べよ・・・うん。おいしいじゃん」
「もう一個食べていい?」
「いいよ。でも明日持っていく分、残してね」
「わかってるよ」
「さすが~」二人は笑顔でパンを食べた。

 そして次の日、会社に持って行ってお昼休みにみんなで食べた。みんな喜んで食べてくれたからよかった。

お昼休みが終わると上司のウィンタース部長に呼ばれた。
ウィンタース部長は同じ部で働く上司でフルネームはウィンタース徹哉。会社の上司からはウィン、親しい仲間からはウィン徹って呼ばれてるらしい。もちろん私みたいな部下はウィンタース部長とか部長って呼んでる。
アフリカ系アメリカ人の父と日本人の母を持つハーフらしい。16歳で来日して幼いころから母に日本語を教えてもらってたらしく日本語も英語も話せるバイリンガル。私の好きな人の一人だ。異性としてっていうより上司としてね。

「お呼びですか?」
「おう。さっきはパンありがとうな。おいしかったよ。お礼に今夜食事をごちそうさせてくれないか?」
「いえいえ、とんでもないです」
「いや、ぜひごちそうさせてくれ。ちょうどいいお店を見つけたんだ。イタリアンは好きかな?」
「好きです。じゃあ・・・お言葉に甘えてお供します」
「よし。決まりだ。午後の仕事もがんばろう」
「はい」

 仕事が終わり着替えてると同僚が来て
「千菜津、ウィンタース部長と二人で食事行くんだって?食われないように気をつけなよ」
「バカ言わないでよ。ありえないよ。部長には奥さんいるし、だいたい私の事、女として見てないよ」
「もう、そんなむきにならないでよ。冗談なんだから」
そんなことを言ってると部長から電話が来た。
「もしもし、外で待ってるから準備したら来て」
「はい。わかりました」
急いで着替えると部長のもとへ向かった。部のみんなで食事に行くことはあってもふたりっきりは今夜が初めてだったから正直緊張していた。
「すみません。遅れました」
「大丈夫だよ。行こうか」
「はい。」

雑誌でも見たことがあるイタリアンレストランだった。
「オシャレでいいお店ですね」
「そうだな。普段はあんまりこういうお店来ないんだけど・・・相手が若い女性だからな」部長は冗談まじりに言った。
「そんなこと言ってると奥さんに怒られますよ」私も冗談で返した。
「そうだな。まぁ今日は遠慮なく食べなさい」
「ありがとうございます」
おいしいご飯をたくさんごちそうになった。
「ごちそうさまでした」
「いやいや、こちらこそパンごちそうさまでした」

駅まで二人で歩くと
「電車反対方向だからだからここでお別れだな。じゃあまた明日会社でな。おつかれ」
「はい。おつかれさまでした」
お互い別の電車に乗った。
「やっぱ下心ないじゃん・・・でもなんだろうこの気持ち、なんかせつない感じ」私は心の中でつぶやいた。
「今日は帰ったら遥斗いるし、早く帰ろっと」
私は家に向かった。

その後部長は何度か私を誘った。たまに一緒に食事に行ったり遊んだりした。でも体の関係はない。
ちょうどそのころ遥斗とは微妙な感じだった。結婚したいねって言ってくれるのになかなかふみきってくれないし友達に紹介したいのになかなか行ってくれないしイライラする事が多くなってた。そんなときだったから部長の誘いを断らなかったの。優しく接してくれる部長の事を次第に意識するようになった。

続く。。。 


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