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EVトゥクトゥクを手放しました

【おことわり、重要】
EV TUKTUKを始めとした三輪自動車(トライク、側車付き軽二輪)は、独特の運転フィーリングと機動性を持つため、運転に際しては普通乗用車とは異なる配慮が(整備も含めて)必要となる乗り物です。また、運転に適した状況と適さない状況がかなりはっきり分かれます。本文は三輪自動車を危険な方法・シチュエーションで使用することを肯定するものではありません。

こちらの記事で紹介していたビークルファンのEV TUKTUKですが、

このたび手放しましたので、この子と共に過ごした2年間の総括をしていきたいと思います。ありがとう我がトゥクトゥク号(EV TUKTUKの名前)。お別れしたけど、今でも好きよ。

なぜEV TUKTUKを手放したのか

はじめに答えを言ってしまうと、EV TUKTUKの持ち味は用途のピーキーさにあるが、そのピーキーさが我が家の状況にそぐわなくなってしまったからです。

そもそもEV TUKTUKは以下の条件全てにハマった時、無類の強みを発揮する乗り物でした。逆に言うと、以下の条件に一つでもそぐわないものが生じた場合に一気に不便を感じる、もしくは運用不可にさえなるストライクゾーンの狭い乗り物でした。

①:1回あたりの移動距離・時間が短いこと
②:積載する荷物が少なくていいこと
③:住宅街の移動が主で、幹線道路を走る機会が少ないこと
④:車の近くに100V電源を用意できること
⑤:平置きの駐車スペースが確保できること
⑥:乗車人数が運転手含めて3人までに収まること

EV TUKTUKを導入した2年前は上述の条件全てがハマっていました。しかし娘の成長や我が家の生活パターンの変化に伴って①〜③、たまに⑥が徐々にそぐわなくなり、カーシェアを借りるケースが増えてきていました。

並行して様々な箇所に不具合が生じるようになったこともあり、頃合いということでEV TUKTUKとお別れすることとなりました。

査定と引き取りについて

後ろから見るとクルマにしか見えないEV TUKTUKですが、乗り物のカテゴリは「側車付軽二輪」なので、一般的な中古車ディーラーでは買い取ってもらえません。

「二輪」なので、査定と引き取りをお願いするのは中古バイクディーラーとなります。今回は査定価格よりも指定した期日に確実に引き取ってくれる点を重視したので、一番最初に来てくれることになった大手の業者さんの言い値での引き取りとなりました。

ただ、リセールを重視しない点を差し引いても、定価(現在は77万円)に対する査定額がかなり渋いと感じたのが正直なところです(焼肉…2回は行けないかな?くらい)。ディーラーの方がかなり申し訳なさそうにお話してくれた、査定額が低く出た原因は以下の通りでした。

・上述の通り利用シーンがかなり絞られるので、販売の見通しが立たない
・EV TUKTUKが出回っている数が少なすぎて、相場がない
・外装がプラスチックのため、どうしても傷や凹みが多くなる

個人的には「EV TUKTUKは自転車の延長線上にある乗り物」という認識だったので、査定額が低くてもさほどのダメージは受けませんでした。が、やはり、クルマの資産性を重視する人には絶対に向かない乗り物だと改めて感じました。

よく晴れた日の夕暮れに、EV TUKTUKは引き取られていきました。次に行くのが国内でも海外でも、幸せな第二の人生を送ってくれよ。

積み込むところを見物しにきた妻と娘


積み込み完了後の最期の姿

EV TUKTUKの運用で感じたよかった点と微妙だった点

2年間も乗ると、EV TUKTUKに乗って期待に応えてくれたなと思う点、ちょっと厳しかったなと思う点それぞれがありました。今回は総括なので、そちらもご紹介したいと思います。

ちなみに、購入当初に感じた印象は以下のようなものでした。

・人の目を引く
・パワーは弱め
・細部のクオリティは追求されていない
・荷物を乗せるには工夫が必要
・取り扱いに迷われる
・路地での取り回しは最強
・自宅のコンセントで補給できるのは楽
・たのしい、そしてかわいい

「電動トゥクトゥクで、日常の移動をちょっとかわいく楽しく」より
https://note.com/khigashi/n/n7e8fae6ad330

よかった点

・税金関係は安く済んだ

毎年自動車税の納税通知書が届く5月上旬は、Twitterのタイムラインに自動車税が高いとの怨嗟の声が飛び交い、あたかもこの季節の風物詩のようになっています。

そんな中、EV TUKTUKにかかる軽自動車税は¥3,600ポッキリ。車検もないので、税金関係はかなり安く済んだ思います。

ただし、日常の足として使う以上それなりにちゃんとした任意保険に加入していましたし、車検はないものの全くのノーメンテというわけでもなかったので、ランニングコストがかからなかったわけではないことにご注意ください。

・やはり、路地での取り回しは最強

この点がEV TUKTUK最大の強みだと思います。我が家があるような都市部の狭い路地が入り組む環境は、EV TUKTUKの小回りが最大限生かせるステージでした。路地でのすれ違いも全く怖くない、ペーパードライバーだった我々夫婦の最高の味方でした。

路地を縫って進んだような場所にある保育園の送り迎えに使っていたので、毎日がホームグラウンドでの稼働でした。走り出しの手軽さから、まさに自転車以上クルマ未満といった感じで、僕たちはこの子をこの子の主戦場で徹底的に使い倒しました。手前味噌ながら、幸せなクルマだったと思います。

・かわいくて、たのしかった

取り回しが最大の強みだとしたら、エモーショナルな点はこのクルマを選ぶ最大の理由でした。神泉のディーラーでの試乗時に最初に持った印象は、トラックの荷台に乗って我が家から去っていく最後の瞬間まで全く変わらないものでした。これは長くなるのでまたあとで触れますね。

微妙だった点

こちらにも触れないわけにはいきません。

最大乗車人数が3人、荷物もほとんど積めない

一般的なミニカーだと定員が1人なので、それに比べたらマシと言えますが、それでも娘の行動範囲と人間関係が広まるにつれて、3人しか乗れない乗り物はいろいろと不都合なケースが増えてきていました。

また、人が3人乗った状態ではほとんど荷物が積めない容量の小ささも、娘の成長に伴って徐々に厳しい短所となっていました。

・故障時の整備引受先が不安だった

EV TUKTUKには初期保証がついており、納車から1年経過もしくは走行距離1000kmに到達するまでの間に故障があった場合、ビークルファン(EV TUKTUKのメーカー)に電話すると出張修理に来てもらえました。このおかげでしばらくは安心して運用できていました。

しかし、無料保証期間経過後にビークルファンに修理依頼をした場合、まあまあ高額の出張費用がかかることになります。しかもすぐに来てくれるとも限らない。足回りや動力部分に故障が起きた場合、クルマの作り的には地場のバイク整備工場でも対応できるそうですが、あまり出回っていない車体ゆえ責任の所在に難が生じ、なかなか引き受けてくれるお店は見つからないようです。

そんな状況を打開すべく、僕らがEV TUKTUKを購入したディーラーのEV LANDさんは先日JAMPA(日本二輪自動車推進協会)と提携し、保守ネットワークの構築を進め始めました。が、ネットワークの展開地域が狭くまだ発展途上中のようです。

残念ながら、EV TUKTUKに限らず電動モビリティ全体の課題として「買った後、どのように保守・運用していけるかが見えにくい」点が依然としてあるようです。

・多くの機械式駐車場に停められない

普通にタイムズ等の街中の駐車場には停めていましたが、マンションの駐車場や地下駐車場でよくある機械式駐車場には大抵停められません。停めたところがウィーンと上がったり下がったりするタイプの駐車場です。

あの手の駐車場は位置がズレないように轍が設定されていることが多いですが、3輪であるEV TUKTUKなどのトライクタイプの車両は轍にハマらないため対象外となってしまいます。

・割と頻繁に充電が必要

カタログスペックでは満充電で60km程度まで稼働できるとのことでしたが、実運用では2〜3回(概ね10km未満)使ったら充電するようにしていました。残りの電池残量表示が100%となっているにも関わらず、乗っているうちに電圧が下がってきてシャキッと走ってくれなくなってしまうのです。

したがって結構頻繁に充電する必要があったわけですが、20kgもある電池を毎回家の中に持ち込むわけにもいかないため、電池をEV TUKTUKに積んだまま屋外の電源に接続して充電するのが必然となってきます。

この頻繁な充電と、上述の機械式駐車場に停められない性質が相まって、EV TUKTUKを現実的に運用するためには戸建てが必須となってきます。

・行動範囲が狭くなりがち

納車を受けてディーラーのある神泉から家まで自走してきた日から2年、結局再び環七を越えることはありませんでした。環境にマッチするので下北沢に行こうかなと思ったこともありましたが、結局は電車で行っていました。

ほぼ自転車の延長として運用してきたEV TUKTUKにとっては下北沢へのアクセスは冒険以外の何者でもありません。その冒険をするにあたり、どうしても頭をよぎってしまうのが持ち前の出力の弱さでした。電池が切れたり、電圧が低下して登れない坂が出てきたら一巻の終わりです。(そしてそういう坂は都内に結構あったりする)

また、その出力の弱さゆえに、無理なく行動できる範囲でいろいろ済ませようと画策するようになります。行動がクルマのコンフォートゾーンに規定されてしまう状態です。道具に行動が抑制される状態は、あまりヘルシーとは言えません。

まとめ、そしてクルマの一番大事なスペックについて

ここまで書いたように、EV TUKTUKはとてもピーキーな用途のための乗り物でした。あえて定義するならば「クルマを買うほどではないけど、半径数km程度をサクッと移動する足が欲しい3人家族までの戸建て持ち」という条件にのみジャストフィットします。だから、この条件から少しでも外れてしまうと途端に不便を感じるようになる。それがEV TUKTUKという乗り物でした。

しかし、手放しはしたものの、僕たちはEV TUKTUKを購入して本当に良かったと思っています。

EV TUKTUKは唯一無二の体験ができる乗り物でした。夏の暑い日にサイドカバーを巻き上げて、風が吹き抜けるのを感じながら街中を軽やかに走り回る爽快感は、おそらく他のどんな乗り物にも体験できないものでしょう。

乗った数秒後には動き出せる抜群の機動力もよかったし、音をほとんど立てずにウィーンと進んでいくコミカルさもなんとも言い難い味わいがありました。

また、たくさんの人がニコニコしながら話しかけてきてくれました。駅前のロータリーに停めていたら子供やマダムがあれに乗ってみたいねとおしゃべりする声が聞こえましたし、娘を迎えにいくと娘の友達がわらわら寄ってきて勝手に乗り込んできたりもしました。運転席に乗せると男の子なんかは喜びすぎて発狂したものでした。

クルマの一番大事なスペックについて

ところで僕はクルマに限らず、毎日使うような持ち物で一番重要なスペックは見た目なんじゃないかなと常々思っています。

僕の趣味であるサイクリングでも、自転車の購入について相談されたら必ず最後は見た目で選べ!と伝えています。なぜなら、人は往々にして見た目が気に入っているものを大事にして、よく使うからです。

毎日使うものを「なんだこの世界一カッコいい物体は」と思って過ごすか、「なんだこのクソみたいな物体は」と思って過ごすか。どちらが自分自身とその物にとって幸せかは一目瞭然だと思います。

その点、僕たちはEV TUKTUKを毎日目にして「なんだこの変なクルマは」と思いつつもその変な点を愛していました。それは確実に我々家族とこのクルマにとって幸せな日々でした。本当に買ってよかった。

*****
このあたりで終わりにしましょう。

最後に、EV TUKTUKをはじめとする小型電動モビリティが、今の日本に必要なものであるという認識は2年前から今に至るまで変わっていません。残念ながらこの2年ではあまり浸透しなかったようですが、今後長い時間をかけてでも徐々に改良が加えられ、徐々に社会的な制度が整い、徐々に市民権を得ていったら、おそらく日本の交通問題の少なくない部分が解消していくのではと期待しています。例えば渋滞や駐車スペースの問題や、高齢者の運転による交通事故とか。

我が家は一旦離脱してしまいますが、EV TUKTUKのような小型電動モビリティの発展と日常への浸透を引き続き強く願っています。



より長く走るための原資か、娘のおやつ代として使わせていただきます。