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電動トゥクトゥクで、日常の移動をちょっとかわいく楽しく

【おことわり、重要】EV TUKTUKを始めとした三輪自動車(側車付き軽二輪)は、独特の運転フィーリングと機動性を持つため、運転に際しては普通乗用車とは異なる配慮が必要となる乗り物です。また、用途がピーキーであるため、運転に適した状況と適さない状況がかなりはっきり分かれます。本文はEV TUKTUKを危険な方法・シチュエーションで使用することを肯定するものではありません。

突然ですが問題です。これはなんでしょうか。

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大半の方が?となる乗り物ではないでしょうか。バイク?いや、後ろがっしりしてるしクルマか...?いやでも、横が布?だしハンドルがやっぱりバイクだよな...と、見る場所によって解釈が分かれる謎の車輌。

・・・。

正解は電動のトゥクトゥクです。正確には「三人乗り電動トライク」。

トライクとは三輪のクルマです。古くはダイハツのミゼットなど日本でもよく走っていたようですが、現代ではタイの路上を疾走しているギンギラギンな姿でおなじみの方も多いのでは。

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特にタイに魅了されているわけではないのですが、戸建てに引っ越して駐車スペースができたこともあり、先日電動のトゥクトゥクを購入しました。これがまたとても便利で楽しい乗り物で。今回はその特性と魅力を紹介できればと思います。

宗派戦争を避けるための、前提

あらゆる宗派戦争の火種になるのを避けるため、僕自身のスタンスをまず明確にしておきたいと思います。

僕の趣味はロードバイクでのサイクリングです。わざわざ早起きして自転車で山に登ったり、遠くに行ったり、無駄に真夜中を駆け抜けたりしています。

「わざわざ」、「無駄に」。

この言葉を「わざわざ」使っている通り、僕は世の中の全てをコスパとか機能性だけで語ることはできず、有形無形の物事にはすべからく官能性が含まれると考えています。言い換えるならば「とにかく俺はこれがいいんだ」という理屈ではない愛です。愛ゆえにその形は人それぞれです。

ゆえにこれは電動トライクの魅力を頑張って客観的に説明しようとする文章ではありますが、読まれている方の「嗜好性」とか「所有欲」とか「『あえて』の美学」(今思いついた言葉ですが、なんとなくわかりますよね?)を否定するものではありません。

こちらを念頭に置き、以下ご覧いただけますと幸いです。

電動トゥクトゥクとは何か

上述の通りトゥクトゥク(=トライク)とは3輪で走る自動車です。道路運送車両法上は「側車付自動二輪」に当てはまるためバイク、一方道路交通法上は「普通自動車」に当てはまるためクルマとして扱われる変な存在です。こうした存在であるがゆえに、以下の性質を持ちます。

・普通自動車免許で運転可
・ヘルメット不要
・シートベルト不要
・任意保険はバイクのもの
・車検不要
・車庫証明不要

さすがに危ないのでシートベルトは付けて乗りますが、任意保険や車検のコストが抑えられる上、車庫証明が不要で普通免許でサクッと導入できる手軽さがあります。

また、今回僕が買ったトゥクトゥクは電動なのでバッテリーの充電が必要なのですが、専用の充電ステーションまで行く必要はなく、家にある普通のコンセント(100V)から充電します。この補給のラクさも電動トゥクトゥクの利点と考えています。

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家の外壁にくっついている防雨コンセントから充電中

乗車定員は運転者含め3人です。前から見るとバイクみたいなので、後ろに人が乗っているとかなり驚かれます。

なんでトゥクトゥクを買おうと思ったのか

理由1:娘が自転車に収まらなくなった

もともとのきっかけは娘の成長でした。

僕たちは娘を自転車に乗せて毎朝毎夕保育園への送り迎えをしていたのですが、最近体格が大きくなり、自転車の後部に取り付けているチャイルドシートに収まらなくなってきていました。

自転車はママチャリではなく、妻が結婚前から大事に使ってきた可愛いジャイアントのミニベロを、僕の出入りのスポーツ自転車のショップと相談して魔改造したものです。

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フロントトリプル化、ブレーキもシマノに変更、タイヤはシュワルベのマラソンと耐パンク性能が高いやつに高圧の空気を入れて転がり抵抗を少なくして...と、持ちうる知識を遺憾なく叩き込んで錬成したこのマシン。この自転車に唯一付けられたHamaxのチャイルドシートに、娘が収まらなくなってきたのです。

痛い、苦しいとぶーぶー文句を言う娘をかまうにも限度があります。ましてや引っ越した今、往復10km以上を毎朝毎夕走る必要が生じ、娘の体重増加は我々親のヒザへダイレクトにダメージを与えます。自転車が使えない雨天時の負担は言うまでもありません。

そのため、自転車に変わる移動手段を検討する必要に迫られました。

理由2:移動の9割5分を占めるシーンを最適化したい

僕たちは保育園への送迎のほか、日々の買い物や移動などでもその「自転車に変わる移動手段」を使いたいと思ったのですが、その9割5分は以下のような住宅街の路地を通ります。住宅街を抜けて幹線道路に出ても、またすぐにこうした住宅街に入ってしまうイメージです。所要時間だって一回あたりせいぜい1時間かかるかで、距離も20km走ることは稀です。

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制限速度は30km/h〜40km/hの、そもそも狭くてそんなにスピードが出せない、曲がりきれなくて切り返す車もそれなりにある道路。このような用途や道のために使う以上、居住性に優れたイマドキの普通車はおろか、軽自動車ですらトゥーマッチになるように感じました。

僕たちはこうした道路の移動を最適化したい(※)と考えていたので、もっと手軽にひょいひょいと移動できて小回りも利く、あたかも自転車の延長線上にあるような、それでいて雨の日でも使えて、ついでに3人家族が一緒に移動できるようなクルマはないものかといろいろ探すうちに、「3人乗りトライク」の存在を知ったのです。

※遠くに行きたい時や荷物をいっぱい詰めたい時は都度借りればよくない?と早い段階で割り切りました

トゥクトゥクを買うまでに

試乗を申し込む

いろいろなメーカーやディーラーのYouTubeを見ているうちに好奇心が抑えきれなくなってきたので、試乗しに行くこととなりました。限界自転車生活に音を上げていた妻が異様に乗り気だったのが印象的でした。

ガソリンスタンドに行くのが面倒なので、動力源は電気一択。わがままなニーズを詰め込んだ3人乗り電動トゥクトゥクの選択肢は、意外なことに3つもありました。

これらのうち最も近場(渋谷!)で試乗を受け付けていた、EV TUKTUKの取り扱いディーラーであるEV-LANDさんに遊びに行くことにしました。

試乗してみたところ

2月のとある休日。京王井の頭線神泉駅にほど近い「渋谷松濤BASE」に朝10時に乗り込み、ぱっぱと挨拶や免許証の確認を経た上、早々に試乗が始まりました。試乗コースはBunkamura周辺をぐるっと回る、短いながらも信号と坂が程よく組み込まれた道。

EV TUKTUKの運転方法はものすごく簡単で、イグニッションキーをONに回して、バイクのようにグリップを上向きにぐいっと回すだけ。AT車のようなクリーピングはなく、ぐっと回したらぐっと進みます。ハンドルはバイク仕様なので、ブレーキを握れば右前左後でブレーキがかかります。当て効きの感覚も即座に掴めました。

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トライクなので横にドアや壁はないものの、普通のクルマ同様車体が傾かないので意外と恐怖感はありません。側車付軽二輪としての設計上の都合により、最高速度は40km/hでリミッターがかかっています。僕が馴染みのあるロードバイクの速度域と似ていて体感的な違和感もありませんでした。

ロードバイクに乗らない妻は最初こそビビりながらアクセルを回していましたが、数十秒もすれば慣れて加速できるようになっていました。曰く「意外とクルマだった」。

意外なことに一番興奮していたのは娘。EV TUKTUKを一目見て「かわいい!」乗って「たのしい!」戻ったら「おりたくない!!」。何周か回って戻る頃には「みずいろがいいんじゃないかな」と、勝手に色まで決めていました。

かくいう僕ら夫婦もこれなら上述の「9割5分の移動時間」を最適化できると思ったのに加え、妙な運転の楽しさをこの小さな乗り物に感じていました。それゆえ、限界自転車生活に早々に終わりを告げたい妻の意向もあり、その場で即決という関西人ならビンタ不可避な買い物ムーブへと至りました。色はもちろん、娘が希望したスカイブルーです。

購入から納車まで

メーカーに在庫はあったものの、入金から車両登録を経て納車を受けるまでには3週間弱かかりました。本体価格は税込¥682,000(当時)でしたが、税金諸々と自賠責、任意保険を加味すると乗り出し価格は80万円強となりました。

内訳はこんな感じです。※本体価格以外はいずれもざっくり

・本体価格:¥682,000(税込、車体横につける防雨シート込)
・ナンバー登録代行手数料:¥25,000
・自賠責(5年):¥17,000
・重量税(1年):¥5,000
・任意保険(1年):¥79,000(賠償無制限+弁護士特約付)
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計:¥808,000

もちろんナンバーを自分で取って、任意保険の補償グレードを落とせば乗り出し価格を70万円代前半まで落とすことは可能です。しかしそのコストを渋ってもいいことはなさそうだったので、我々はこれで行くことにしました。

イニシャルコストは意外と安くない、が

正直、イニシャルコストは思ったより安くないかと思います。このお金を出すのであればプラス20万出してスズキ ハスラーの中古でも買った方がいいんじゃない?と思う方もいるでしょう。(実際、クルマにあまり興味のなかった僕でもハスラーはちょっと欲しかった)

しかし、ランニングコストを加味すると話が変わってきます。ランニングコストにおいて、例えば僕が買ったEV TUKTUKは以下の特性を持っています。

・満充電で80km(カタログ値)走り、フル充電のコストは一回あたり50円
・車検不要

kmあたりのコストは50円/80km=0.625円。軽自動車で最大の燃費を誇る車種は現在リッター37km(タンク容量は27L、カタログ値)あたり。満タン時のガソリン代は約3,767円(2021/03/20現在)なので、kmあたりのコストは3,767円/999km ≒ 3.77円と、燃費の面では圧倒していることがわかります。さらに軽自動車にはガソリンスタンドにガソリンを入れに行くために払う「見えないコスト」がプラスされます。(EV TUKTUKは家のコンセントに繋げばいいので、このコストはほぼ無視できると考える)

さらには、数年に一度の車検をEV TUKTUKは回避できるので、このコストも浮きます。5年乗った場合15万円くらいでしょうか。

もちろんメンテに全くお金をかけなくていいわけでもないので、ゼロコストで運用できるわけではないですが、コスパが相対的にいいとされる軽自動車と比較してもランニングコストは安く、トータルでもリーズナブルな選択肢と言えると思います。

ただし上記の試算は用途を電動トライクの土俵に持ち込んだ前提です。用途によっては軽自動車がベターな選択肢になるのはいうまでもありません。

しばらく日常で使った印象

いよいよ納車の日。納車はディーラーか自宅かを選べたのですが、自宅納車だと1万円プラスだったので、ディーラーから自走することにしました。松濤から自宅のある東京西部までの15kmほどの道のりは正直ドキドキでしたが、いざ乗ってみるとさほど違和感なく帰ってこれました。

それから合計300km以上を乗ってみた現時点での印象を以下にまとめておきます。

人の目を引く

特に子供の目を強く引きます。信号待ちしてると「あれなにー!?」という声が飛んできます。女子中高生の「なにあれかわいいー!」という声も聞こえてきて(そうだろうそうだろう)と夫婦共々思ったりも。

公道をウィーンと走っていく高さ1.6m/幅1m/奥行き2mの物体は、大抵の人にとって未知の物体です。目立つスカイブルーであるのも相まって「え、なにあれ」というリアクションがなされるようです。目立ちたいと思って買ったわけではありませんが、結果的にすごく目立っています。小さいので目立つのはいいことなんですが、休日に近くを軽く流しただけで知人からの目撃情報が複数飛び込んできたときはさすがにギョッとしました。

ちなみにオーナーである僕自身、ふとした瞬間に「一体これなんなんだろうな」と思ったりします。あんまり身近にあった記憶がないサイズ感の物体です。

パワーは弱め

上述の通り最高速度が40km/hで抑えられており、ホイールも小径なのでグイグイ走る用途には向いていません。急な坂道ではちょっと意気込みが必要なトルク感です。ただし今のところ、我が家の使い方ではこのパワーで困ったケースはありません。

細部のクオリティは追究されていない

大抵の電気自動車と同じく中国製であり、しかもロットがまだまだ小さいこともあって塗装や内装の細部のクオリティを国産車と同じ目線でジャッジするとなかなか厳しい部分があります。ディーラーからもこの点は口を酸っぱくして念押しされました。

ただし、ロットがもっと小さかった時期はさらに酷かったらしいので、これは時間が解決してくれる問題かもしれません。なお、この点について僕は全く問題と感じていません。

荷物を乗せるには工夫が必要

トゥクトゥクは両側方が開放されているため、クルマと同じようにシートに荷物を載せただけでは走っているうちに荷物がどこかに飛んでいってしまいます。冒頭の写真のように防雨シートを張ったとしても隙間から落ちます。これはトゥクトゥク最大の弱点と言えるでしょう。

そのため、運転席の後ろにフックをつけてそこに袋を引っ掛けたり、シートベルトになんとか固定して運んだり、と車体になんとかして荷物を括り付ける工夫が必要になります。

取り扱いに迷われる

電動トゥクトゥクは上述の通りクルマとバイクの中間であり、かつ、荒野を疾走するピックアップトラックと冷蔵庫だったら冷蔵庫の方が近いんじゃないか?と家電に近い存在でもあるので「これはクルマなのか?バイクなのか?それとも...」と駐車場の係員など、車輌の取り扱い判断に迷われるケースがあります。

先日近所のホームセンターの立体駐車場に入ろうとした時、こんなやりとりがありました。

入り口係のおじさん「まってまって!これバイクじゃないの!?」
ぼく「これねー、法律上は一応クルマなんですよ。3輪のクルマ」
おじさん「えー!でも前から見たらバイクじゃん!ハンドルもバイクだし」
ぼく「でもほら、後ろがっしりしてるし3人乗れるしバイクではなくない?」
おじさん「そっかあ...まあいいや、止めちゃいな!」
・・・
駐車券係のお兄さん「まってまって!これバイクじゃないんですか!?」

「クルマです!」と堂々としてれば大体入れてもらえる気はするのですが、現場の判断でバイク置き場に行くよう言われる可能性もあります(それはそれで別にいいのですが)。都度このコミュニケーションが発生することに負担を感じる人もいるかもしれません。

路地での取り回しは最強

これこそが側車付軽二輪であるトゥクトゥク最大の利点です。やはり当初の目論見通り、路地での取り回しが圧倒的に便利です。軽自動車がすれ違うのに難儀するような狭い道路でも、トゥクトゥクであれば対向車の横をすり抜けてなんなく通過できますし、狭い路地の曲がり角でも切り返しは一切不要です。

ただし道路交通法上は普通自動車なので、バイクほどの融通は効かず、例えば幹線道路の路肩を走ったりはできません。もっとも、車体の幅が1mあるので物理的に不可能ではあるのですが。。

自宅のコンセントで補給できるのは楽

これは「電動」トゥクトゥクの長所です。スマホのように家に帰ったら充電するルーティンとしておけば、僕の使い方であれば残りのエネルギーに神経質になる必要がありません。どこにでもある普通の100Vコンセントで充電できるので、充電器を車に積んでおけば最悪コンセントを貸してもらっての充電も可能です。(充電器をしまえるスペースがシート下に用意されている)

たのしい、そしてかわいい

最後に思いっきり主観的かつ抽象的な印象を。

走り出しが静かで、スイ〜と音もなくするする出発していきます。これがもう、本当にかわいくて。妻が運転して出発したところを後ろから動画で撮ったのですが、なんか小動物が移動しているような可愛さがあってニヤニヤしつつ何度も見てしまいます。

そしてそれなりの距離を乗りましたがいまだに運転が楽しいです。道路との物理的な距離や、走る道とクルマの特性の親和性、自転車との類似性、日々の送り迎えで娘が楽しそうなど個人的なもの含めたいろいろな要因があるように思いますが、とにかく楽しいです。先日家に遊びにきた弟夫婦を駅まで迎えに行って乗せてみたのですが、ビジュアルに度肝を抜かれた後はやっぱりずっとニコニコしていました。「なんかよくわからないけど楽しかった」そうです。

まとめ:もっとこういう車輌が路上に増えてほしい

そろそろまとめに入りましょう。(3人乗りの)電動トゥクトゥクは以上のような特徴があり、僕としてはかなり推したい乗り物です。

とかく車輌が大型化しがちな現代の公道において、電動トゥクトゥクのような必要最低限のサイズで移動できる乗り物の可能性はかなり大きいと思います。もちろん、車輌の大型化には対衝突安全性の向上という理由があるものの、特に都市圏の道路の大部分を占める狭い路地で使うには若干オーバースペックであることも事実でしょう。

さらには、プアーな出力だからこそのニーズ、例えば免許証の返納に迷う高齢者のような方々の受け皿になれる印象を持っています。もちろん全く危険がないと言うつもりはありませんが、コンビニへ突っ込んだりする事故のリスクは大幅に減るのではないでしょうか(おそらく、店に突っ込む前に車止めのフェンスに阻まれる)。

なんといっても、トゥクトゥクに乗る人が増えれば一人当たりの駐車スペースが圧縮できます。冒頭でも出したこの写真はホームセンターの軽自動車用スペースに止めた時に撮ったものですが、ちゃんと詰めればあと2台はここに置けそうです。

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こんな、狭い路地での移動効率が抜群で、エネルギーの補給も楽ちん、コスパにも優れ、おまけに楽しくてちょっとかわいい乗り物。日常の相棒として、もっと多くの人に移動の選択肢として認識してもらえればいいなと思っています。

追記:2023/3/29

その後、手放した時の顛末をこちらに書きました。2年運用して感じたリアルな印象はこちら!


より長く走るための原資か、娘のおやつ代として使わせていただきます。