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第36章 無力 | セレウス&リムニク - SF小説

 無力。それはロダンがセレウスの専務理事に就任してからここ数ヶ月、よく考えていた言葉だった。大きなオフィス、専用の駐車スペース、名前が彫られた高級な木製プレートを手に入れたが、結局のところ、何もできやしない。
 
 ロダンの脳裏に、かつての栄光に輝く盾の姿が浮かんだ。それは人気のない戦場の乾いた泥の中に、打ち捨てられたように横たわっていた。一陣の風が、燃えた腐肉の臭いを、静まり返った空気の中で彼の鼻まで運んできた。彼は盾の前に立ち、腰を痛め、意志を砕かれ、若かりし頃のようにもう一度盾を手にしたいと願った。しかし、もはや一人ではその重みに耐えられないことを知っていた。彼には助けが必要だった。次にやってくる有能な人物が、彼の唯一の希望だった。盾を再び掲げるためだけでなく、かつて筋肉が強く、腹がより平らだった頃に感じていた、名誉ある奉仕の感覚を彼に吹き込むためにも。その時が来るまで、彼は盾の表面に大きく空いた亀裂をただ見つめる以外に何もできなかった。
 
 私は無力だ。その言葉が、バンの中で一人座っている間にも頭をもたげた。膝の上にフィールドタブレットを置き、午後十時のニュースで気象パターンを見るように、ノース・ブルームフィールドの戦いを眺めていた。色々なことが起こっているようだったが、彼にはその意味も目的もまるでわからなかった。ネットワークでつながった街の傭兵たちとは違い、カイラーの部下たちにはボディカメラがなかった。だから、戦闘の生中継映像を見ることはできなかった。鳥瞰のグリッドモードが唯一の選択肢だったが、それは生中継の忠実さとは程遠いものだった。無線はオンにしていたが、まるで昔の「コール オブ デューティ」のサウンドトラックのようだった。銃声、爆発音、戦術的な無線交信は聞こえてきたが、その裏で実際に何が起こっているのかはわからなかった。彼の耳には、ただのノイズにしか聞こえなかった。
最悪だ。こんなことなら、オフィスにいればよかった。外にいるべきだったのに。彼は座席に深く腰を下ろし、口を尖らせた。そんな彼の姿を見る者は誰もいなかった。 

 カイラーとの会話は短く、現場に行くべきかどうかについて、二人とも簡潔に自分の見解を述べ合っただけだった。

「私は現場に行くべきだ」とロダンは言った。

「なぜだ?」とカイラーが尋ねた。彼の表情は平静で、口調は事務的だった。

「だって、私はセレウスのトップなんだから」

「だから?」

「だから、他の連中は私が前に出ているのを見るべきなんだ」
 
 カイラーは感心した様子ではなかった。「失礼ながら、ミッチェルさん、最後に武器を撃ったのはいつですか?」

「うーん、六週間前かな」と即答したが、実際にどのくらい前だったか、よく覚えていなかった。

「なるほど。で、最後にジムに行ったのはいつだ?」とカイラーはロダンのボディアーマーを見ながら言った。そのカーブ、ぴったりとしたフィット感から、下にたるんだ皮膚があることは一目瞭然だった。ロダンの目は一瞬下を向いたが、すぐにカイラーを見上げた。

「しばらく行ってないな...」

「そうだろうな」とカイラーは腰に手を当てて姿勢を正した。装備を身につけていても背が伸びたように見えたが、それでもロダンよりは数センチ低かった。彼は一歩前に出て声を低くし、まるで教官が新兵に話しかけるように早口で言った。「失礼ながら、ミッチェルさん、あなたが戦場に出る資格はないのは明らかだ。あなたのような指導者が時々降りてきて、自分をよく見せようとする気持ちはわかる。俺たちがしていることを理解しているように見せかけたいんだろう。でも実際のところ、あなたは何も知らないし、本当は気にもしていない。あなたがここにいるのは、過去の栄光の日々をもう一度体験したいからだ。自分が役に立っていると感じたいんだ。一日中デスクワークをしているわけでもなく、かつてあなたができていたことを、今は優秀な連中がやっているのを見ているわけでもない。わかるよ。でも、今はそんなことをしている暇はない。自信を取り戻したいというあなたの欲求は、私や部下、それに依頼人を危険にさらすことになる。そんなことは許せない。ここはサクラメント警察でも軍隊でもない。だから、あなたの口から出てくるクソみたいな話は一切聞く必要はない。私の言っていることがわかりますか?サー?」とカイラーはロダンの目を見つめた。

 その時、ロダンは、カイラーが自分のことを決して好きではなかったのだと気づいた。そして、彼の説教を受けた後、その気持ちは相思相愛だった。最後に「サー」と付け加えたことで、ロダンは激怒しそうになった。本当に?「サー」だって?このヤローは何様のつもりなんだ?しかし、彼はそんな思いをカイラーに悟られないようにした。ただ理解したようにうなずき、バンに戻った。他の連中は準備を続けていた。ノエが自分の方を見ているのが見えたが、その視線に気づかないふりをした。彼は自分が思っていたよりも良い政治家になっていた。

 クソッタレ、無力だ。助手席に体を沈め、あごを胸に乗せて座り、爆発音とかすかな銃声、時折聞こえる無線の雑音を聞いていた。「ここはサクラメント警察じゃない」と彼はカイラーの声を小ばかにしながらつぶやいた。

「俺の名前はカイラー。チンコが小さすぎて、朝、目を開けるのにも増大手術が必要なんだ」と彼は自嘲気味に言った。「くたばれ」

 ロダンは自己憐憫に浸っていたので、ベアが「南側クリア」と叫ぶのを聞き逃していた。チークスが援軍の到着を告げるのも聞いていなかった。スペイザーが「人がやられた!」と叫び、人間のメンバーの一人が負傷したか死んだことを知らせるのも聞こえなかった。

 彼の意識が戦闘に戻ったのは、大地の震動を感じた時だった。戦闘から離れた暗いバンの中では、ある種の安心感を得ていた。しかし、自分の身に危険が迫ってきたとき、彼の感覚は目の前の危機に再び集中した。彼は助手席で飛び起き、ちょうどベアの声が聞こえた時に無線機を耳に当てた。「部隊用ボットだ。トラック二台分はいるようだ。俺はチークスと合流して交戦する」

 援軍だって?くそっ。まずいな。ロダンは武器を握りしめた。戦闘に加わるべきか、それともバンから何か支援行動をすべきか迷ったが、何をすればいいのかまるでわからなかった。外に出たら、一体何ができるというんだ?たぶん殺されるだろう。その考えは恐ろしく不愉快ではなかったが、そんな死に方はしたくなかった。彼は自己保存と行動の必要性の間で揺れ動いた。どちらも同じくらいの力で彼を引き寄せ、その結果、優柔不断という束縛が彼を座席に釘付けにした。どちらの方向にも身動きが取れなくなった。無力だった。

 そこでノエの顔が彼の脳裏に浮かんだ。もし彼女が助けを必要としていたら?俺が彼女をここに連れてきて、こんな状況に巻き込んだんだ。せめて彼女の面倒くらい見てやらないと。そうすると約束したんだから。決断する時間はあまりなかった。今この瞬間にも、リムニックの軍勢が彼らをズタズタに引き裂いているかもしれない。ロダンはフロントガラス越しに目をやった。見えたのは、どこに続くかわからない道の暗闇だけだった。無線から聞こえる「パチパチ」という音は、苦闘の末に死んだノエたちの姿を思い起こさせた。彼は頭を何度か叩いて、恐怖の幻覚から自分を引き戻した。助手席の武器に目をやった。やるしかない。結局のところ、俺はセレウスの監督なんだ。それが俺の義務だ。そう最後に思い、彼は装備を整え、ライフルを手に取ると、どんな運命が待ち受けていようと覚悟を決めてバンを降りた。

***

 最初に感じたのは、夜の冷たい空気だった。この三十分間、バンの中に閉じこもっていたから、気持ちよかった。脚を伸ばし、深呼吸をしてから息を吐いた。よし、やるか。気合を入れてジョギングを始めた。

 一分後、足は重く感じられ、夏の暑さの中で犬のように喘いでいたが、それでも動き続けた。

 二分後、心臓が胸の中で激しく鼓動を打った。こんなに頑張るのは慣れていなかった。まるで民間人の請負業者が追加の仕事に抗議するように、予期せぬ労力に抗議した。クソッタレのカイラーめ。

 ジョギングを始めて三分後、肺と脚に火がついたような感覚を覚えながら、ロダンは(歩きたかったが)シャッフルするスピードに落とした。ブーツは岩だらけの道を引きずり、残っている敵兵に彼の存在を知らせた。今撃たれたら、少なくとも横になれるし、走らなくて済む。その暗い考えが彼の気分を明るくした。

 三十秒後、町に着いた時、彼は少し安堵した。その安堵もつかの間、目の前に広がる戦場の惨状を目の当たりにした。古い町の草地では小さな火が燃えていた。十九世紀に建てられた建物のいくつかはまだ燃えており、崩れ落ちていた。また、爆発物や銃、レーザー光線の混合攻撃によって完全に破壊されたものもあった。人間とボットの残骸が、瓦礫の中に入り乱れて横たわっていた。軍隊、警察、セレウスでの長年の勤務の中で、ロダンはこれほど惨たらしい光景を見たことがなかった。

 彼らはどこだ?ノエはどこだ?無線を試みたが、誰からも返
事はなかった。ロダンは大きく飲み込み、戦術的な姿勢をとって町に足を踏み入れた。

 数歩進んだところで、突然立ち止まった。自分が本当に見ているものが本物なのか、目を凝らして確認した。あれは!?

 小道の先、白い柱のある建物の外で、ぐちゃぐちゃになった人型ボットの残骸を踏み越えていたのは、彼だった。銀色の髪。鋭い目つき。冷静な様子。ヤヌスだった。

 ロダンは銃の照準でヤヌスをはっきりと捉えていたが、引き金を引くことはなかった。ただ、ヤヌスがゆっくりとした足取りで近づいてくるのを見つめ、自分の十フィート前で立ち止まるのを見ていた。ヤヌスと二人きりだと気づいたとき、恐怖が全身を駆け巡った。それでもロダンは動かなかった。

「ヤヌス!他の連中はどうした?どこにいる?」と、力強く、強い声で言った。

 ヤヌスは首を振り、舌打ちで嘲笑するような音を立てた。「彼らは大丈夫だ。十分な休息を取っているだけだよ」

 ロダンは獣のようにうなった。欲求不満の表れだった。「ヤヌスのクソ野郎!」ライフルが発射されたとき、それは予想外のことで、彼を驚かせた。ヤヌスは弾丸をかわしながら微笑んだ。「いや、ミッチェル君、そんなことじゃダメだよ」

 次の瞬間、ロダンはライフルを地面に置き、手の届かないところに蹴飛ばしていた。彼は武装を解除したのだ。愚かな行動だった。ヤヌスの目の前で。本当に愚かだった。さらに悪いことに、なぜそんなことをしたのか、自分でもわからなかった。

 何をしているんだ!?あのクソ野郎を殺さなきゃいけないのに!なんで武器を置くんだ!?ロダンは自分を責めた。パニックは息苦しさとなって現れ、呼吸を困難にした。何か、何でもいいから、あいつを殺す武器を見つけなきゃ!ロダンの目は足元の大きな岩に留まった。そうだ!あの岩でヤツの頭を叩き割るには十分だ!

「そんなことはしない方がいい」とヤヌスが言った。

 待てよ...今、俺の心を読んだのか!?

 ヤヌスの唇から低い笑い声が漏れた。「私はただ、君と話がしたいだけなんだ、ミッチェル君。ゲームをしている時間はない」

「お前は...心が読める」とロダンは言った。煙を吸い込んで叫んだせいで、声はかすれていた。「どうやって?」

 ヤヌスの顔に浮かんだ反抗的な自信が、答えは得られないことを告げていた。ロダンは意識的に自分の思考をコントロールしようとし始めた。最初はうまくいくように思えたが、わずか五秒後、彼の不安、心配、懸念のすべてが、決壊寸前のダムから水があふれ出すように噴出した。ヤヌスの反応から判断すると、ロダンが意識の流れを抑えようとする恥ずかしい試みに気づいているのは明らかだった。それを面白がっているようだった。

「で、君がセレウスの代表代行なんだね?」

「そうだ」

「この国はおろか、世界中が、君たちの組織の掲げる理念を採用することは決してないと、君は理解しているのかな?」

「それはまだわからない」とロダンは言った。思考をコントロールしようと必死だった。それはバケツで洪水を食い止めようとするようなもので、滑稽で、非常に非効率的だった。

「現代においては、我々人類が今日のような種になるまでに何千年もかかったことを忘れがちだ。現代世界の枠組みを確立するのに数世紀、科学技術が今日の地点まで飛躍的に進歩するのに数十年を要した」

 ロダンは耳を傾けた。思考をコントロールするために、心と体に力を込めた。

「21世紀を通じて西洋文明では、人類の歴史におけるすべての道は、我々が今日知っている生活をもたらすために役立ってきたというのが通説となっている。これは部分的には正しいが、我々が今も進化の過程を歩み続けていること、種として進化し、変化し続けていることを忘れがちだ」

「だから何だ?」

「今の主な違いは、我々がある程度、進化のプロセスをコントロールできるようになったことだ。ゲノミクス、デジゲノミクス、生物学的強化によって、人間は望めば本当に永遠に生きることも可能になる」彼は一歩前に出て、ブーツが足元の大地を踏みしめた。「我々が永遠に生きることの問題点は、若さの泉を手に入れる余裕のないすべての人々にとって、事態をより困難にするだけだということだ。人は二十代や三十代の心と体で百二十歳まで生きられるかもしれないが、実際にその年齢だった頃ほど社会に貢献しようとはしないだろう。旧世界の考え方では、高齢者は従来の人間の生活から引退するのが当然だと考えている。世界の高齢者人口が急増していることが、それを証明している」

「何が言いたいんだ?」とロダンは、ジョギングに疲れ、自分の思考を観察しながら尋ねた。

 ヤヌスは、ロダンのボディアーマーに指が食い込むほどの勢いで彼を指さした。「セレウスの代表代行として、君、そしてただ一人の君だけが、セレウスをこの世界が必要とする新しい社会秩序へと進化させる力を持っている。進化した民のための、進化した社会だ」

 その考えが頭に浮かんだ。俺が?どうやって?

 ヤヌスは答えた。「私と協力して、これまで世界が見たこともないような、人間の技術力の最高の証を示すことだ」

 ロダンの顔に当惑の表情が浮かんだ。彼は自分の思考を注意深く監視し続けたが、不慣れな作業にすぐに精神的に疲れてきた。

「セレウスは、近年の人類史において、国家と多くの国民を苦しめてきた乱開発と消費、不平等、肥大化した自己顕示欲によって引き起こされた環境と社会へのダメージから前進するために、人類が切実に必要としていた社会構造だった。しかし、それだけでは不完全だった。このテクノロジーは、先祖代々の社会から、全人類と地球を将来にわたって維持できる社会への転換を完了させるための最終段階となるだろう」

「俺に何を望むのか?」

「セレウスの代表代行としての権力と影響力を使って、この技術の配備を手伝ってほしい。我々の種の進化を助けてほしいのだ」

 正気か!?絶対に手伝うわけにはいかない!「ヤヌス、ダメだよ!お前は悪だ、敵だ!テロリストなんだよ!」

 ヤヌスは、ノース・ブルームフィールドが周囲で燃え盛る中、ゆっくりとした足取りで彼に近づき始めた。まるで悪魔の儀式を執り行うかのように、歩きながら目をパチパチさせた。ロダンは一歩後ずさり、バンを降りて以来初めて本当の恐怖を感じた。自分に向かって歩いてくるこの生き物の前以外のどこかに逃げ帰りたいという強い衝動に駆られた。だが、どこに行けばいいのだろう?ヤヌスから逃げ切れるわけがないし、たとえ逃げおおせたとしても、近くに隠れられる場所はない。だから、その場に立ち尽くし、地面に置かれたライフルとヤヌスの近づいてくる姿を交互に見つめた。ロダンは銃を取ろうかと考えた。しかしその時、ヤヌスは彼の五フィート手前で立ち止まり、ロダンはその行動を諦めざるを得なかった。

「ミッチェル君、君の物語はここで終わる必要はない。君の内面には、力があふれている。それは、今君が感じている無力感を一時的な重荷に過ぎないものにし、若かりし頃の壊れた盾を持ち上げ、修復する力を与えてくれるほど強いものだ」

 ロダンは恐怖のあまり息をのんだ。心臓の鼓動が速くなり、ボディアーマーの下で胸が窮屈になった。「お前は...お前、俺は...」口では言葉を作るのに苦労した。「どうしてそんなことがわかるんだ...?」

 ヤヌスは鼻で笑った。「君のことは何もかも知っているよ、ミッチェル君。君が一生を他人のために捧げ、大小さまざまな大義のために、無私の心と体と魂を犠牲にしてきたことを知っている。だが、君に尋ねよう。君に残されたものは何だ?壊れた結婚生活、鍛えられていない肉体、ばらばらになった精神、リリの娘ノエへの未練、これらが君の勇気への報いなのか。教えてくれ、ミッチェル君。これが、数年前、笑顔で警官の新米だった頃に望んでいた人生なのか?」

 ロダンの肩は落ち込んでいた。まるで泥棒が家に押し入り、金銭的価値の高いものだけを手付かずのまま残して、思い出の品を残らず盗んでいったかのように感じた。蹴破られたドアと割られた窓から冷たい風が吹き込み、渦を巻きながら、彼と失われた所有物に柔らかな嘆きの調べを奏でていた。どんなに腕のいい執念深い探偵でも、二度と取り戻せないものばかりだった。
予告もなく、涙が彼を襲った。巨体の肩は震え、巨人の手は泣きじゃくる恥ずかしさを隠そうと無駄な試みで顔に上がった。悪から救い出したすべての人のために、一筋の涙を流した。自分より優先したすべての人のために。哀れな自分の存在、失われた青春、捨てられた情熱と熱意のために泣いた。涙はノエのため、李のため、すべての犠牲者、地球上のすべての男、女、子供のために流れた。それは世界の涙であり、自分ではコントロールも対処もできないすべてのものに流れる涙だった。

 顔に手を当てたまま、鼻と目から涙を流しながら、ロダンは嗚咽の合間にこう尋ねた。「な、なんでこんなことを、俺に...」

 ヤヌスは答えた。「君が何者かを知っているからだ。君は世界の番人の一人だ。世界をそれ自体から守り、新たな目的地へと運ぶ力を持っている」ロダンが手を下ろすと、彼は言葉を続けた。「君は私を敵だと思っているだろうが、私は些細な国家主義的愛国心を超えた、より大きな大義のために戦っている。私は人類全体のために戦う。その魂を、より優れた、より強い、より有能なフレームに届けるために。それが最終的に、国旗のついた制服を着ていようがボロを着ていようが、『テロリスト』を時代遅れにするのだ。君が兵士として、警官として、そして今セレウスのために戦ってきたのは、そのためではないのか?」

 ロダンは、充血した目で、わずかにうなずいているのに気づいた。

「私の新技術の助けを借りれば、君は新しい盾を掲げ、再び戦う準備ができるかもしれない」ヤヌスは励ますような、ほとんど兄弟のような笑みを浮かべた。

 ロダンは痛む目をこすりながら、まだ言葉を失ったまま、ヤヌスを見つめた。肩を落として、肉体的にも精神的にも疲れ切っていた。まとまった考えは浮かんでこなかった。ヤヌスはそれを知っていたのだろう、立ち去ろうとした。ロダンは土の中のライフルに目をやり、去っていくヤヌスの姿を見た。これが自分の人生の分岐点の一つだと知っていた。たった一発の決断が、彼の残りの人生に影響を与えるだろう。それ以上に重要なのは、この決断が彼の人間性を決定づけ、セレウスだけでなく、この世界を後世の人々がどう見るかを決めるということだ。生きるか死ぬかの瀬戸際だった。この特別な瞬間に出会えたとしたら、ノエは彼をどう見るだろうか。彼女は何を考えるだろうか?李は何を考えるだろうか?明日の朝、自分をどう思うだろうか?このテロリストを国家と世界から一掃する義務を怠ったと考えるだろうか?それとも大義のために、小さな一歩を踏み出したのだろうか?自分だけでなく、まだ生まれていないすべての人々の集団的な生存のために。ゴーストタウンに立ち、周囲で炎が燃え盛る中、ロダンの視線はもう一度ライフルと去っていくヤヌスの姿を行き来した。次の瞬間、ロダンは決断した。一歩前に出て叫んだ。「待ってくれ!ヤヌス、その技術についてもっと教えてくれ!何をするんだ?どう動くんだ?」

 ヤヌスは彼の声を聞いたが、戦場の破壊の中に姿を消すまで歩き続けた。

 ロダンは数秒間、一人で立ち尽くした。何が起こったのかわからず、自分が何をすべきなのかさらにわからなかった。とても無力感を感じた。そして突然、予告もなくヤヌスの声が彼の脳裏に響いた。「ユバシティに来れば、わかるだろう。セレウスは未来であり、君一人にそれを現実のものとする力がある。人類を新しい時代へと導けるのは、君をおいて他にいない」



セレウス&リムニク

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