(全体同期) 第一部 - 森の死闘
色彩が目の前で渦巻き、世界が危険な角度に傾いた。
〈これが、私の力に飲み込まれる最期の時になるのだろうか?〉
その考えは、能力が初めて発現して以来つきまとう絶え間ない恐怖からの、束の間の安らぎだった。私はいつも自分が他の人と違うことを知っていた。でも、これらの贈り物にこんなにひどい代償が伴うとは想像もしなかった。今、馴染みの痛みが頭蓋骨を引き裂き、体が震える中、死の至福の忘却を切望する自分がいた。心を読む力はあっても、未来を書き換える力はない。その重荷から逃れるためなら、何だってしたかった。
震えを押さえるために手首をつかんでから、深呼吸をした。震えは止まった。助手席に乗るノエとヴァンは、私の内なる恐怖に気づいていないようだった。少なくとも、そう願った。
ネオゴシック様式の威圧的なモノリスが聳える首都ワシントンD.C.が遠ざかり、緑の木々に変わる様子がオールドブルーのバンの窓から見えた。その時、私はある事に気がついた。
この旅はどうだっただろう。車でアメリカ中部を横断しながらカリフォルニアを初めて離れた。私の心を読む能力と、ノエとヴァンが隣にいれば、自分は何でも知っているのだと思っていた。だが、まだまだ成長の余地があることがわかった。
「やっぱり道に迷ったわよ」ヴァンが言った。「とっくにこの道から曲がってなきゃいけなかったはず」
「大丈夫よ。今どこにいるかちゃんとわかってるから」ノエはそう言ったが、前方の道路に目は釘付けだった。ハンドルを握りしめる手と前かがみの姿勢は、集中している証だった。
ヴァンはむっとした。「オクラホマ州でも同じこと言ったじゃん。何時間もロスしたよな!」
「ちょっと!あれはあんたが左右を間違えたせいでしょ。私のせいじゃないわよ」
ヴァンはいらだたしげに唸った。「デバイス貸して」
「あんたのはどうしたの?」
「あんたが無視した道案内で電池を使い果たしたからさ」
ノエは肩をすくめた。「わかったわかった。グローブボックスの中よ」
ヴァンがごそごそと探った後、デバイスを取り出した。「あった」
「セキュアブラウザーを使うのを忘れないでね!変なのがデータを盗み取ってるかもしれないから。用心するに越したことはないわ」と命令口調で言った。
「わかってるよ、わかってる」ヴァンがデバイスを操作し、不意に窓の外をよく見ようと首を伸ばした。「ノエ、ノエ!あそこだ!次のインターチェンジ!」
ノエは一番左の車線を走っていた。インターチェンジまであと800メートル(半マイル)もない。ノエは右にハンドルを切り、車線を無理やり変えた。クラクションや外の車からの罵声、ブレーキを踏む音をかき消して、私の胃がひっくり返った。不快な思いをしたが、無事に高速道路を降りることができた。
降りるやいなや、私たちはバージニア州の田舎にいた。〈ここで死ぬ運命なのかしら?〉頭を振る。今はそんなこと考えちゃいけない。何とか生き延びなくちゃ。
バンの中の雰囲気は三人の間で張り詰めていた。頑丈な木々が通り過ぎ、外の空気を冷やしていく。轍だらけの道は舗装されておらず、森が深くなるにつれて道幅は狭くなっていった。ノエはバンを止め、カチッと音を立ててエンジンを切った。岩だらけの路肩に停めたところから、私は奇妙な光景を目にした。
「ここであってる?」ノエが尋ねた。
それは伝統的な建物の概念を覆すような構造物だった。面白そうな部品を適当に組み合わせて子供が作ったようで、残りは捨てられたかのようだ。
ぶっ飛んでいて(ちょっと下品でもある)というのが私の印象だった。普通なら、こんな派手な造りに辟易したことだろう。でも私の体調を考えれば、外観について考える余裕はなかった。中にいる人物の助けを借りて、この衰えゆく体から自分を救い出す必要があるのだ。
ノエは、狩人の目で異様な建物を見つめながら立っていた。毅然とした態度で腰に手を当て、二歩前に出て観察を続けた。彼女の勇気に私の目は輝いた。前に進み続ける女性で、頭の中は活動的で、時にはその火花を彼女自身でも制御できないほどだ。
恐怖の霧を突き抜けて、どうしたらあんなに自信が持てるのだろう。私ももっと自信を持ちたかった。彼女を守る力が欲しかった。そう思って自分の手を見下ろすと、肌の下で黄金の光が揺らめいているのが見えた。この力は祝福なの、それとも呪い?命を救うためのものなの、それとも奪うためのもの?
「金華(ジンホア)、大丈夫?」ノエが訊いた。
「ええ…大丈夫よ」と微笑む。ノエは一瞬、私の目をのぞき込むように見つめた。まるで私の心を読もうとしているみたいだった。それは不可能だけど、私の考えや感情を理解するのに、彼女は私の力を必要としていないようだった。
「震えてるわよ」心配そうに言った。
暖かい春の午後だというのに、私は凍えていた。他の様々な問題と共に、そんなことが頻繁に起こるようになっていた。
「わ、わかってる」
「もう一度バンのヒーターを強めた方がいい?」
「いいえ、大丈夫よ。中に入りましょう」
「具合が悪くなったら教えてね」と言って、ノエが温かい手を私の肩に置いた。
「ええ、そうするわ」
「あのさ、女子たち、ちょっと困ったことになったよ」ヴァンが前方の小道から叫んだ。
私たち三人が顔を上げると、研究所の入り口から四つの人影が現れた。顔は濃い茶色のフードで隠されていて、汚れていて、サイズもあっていない。遠くからでも、服から漂う酢と汗の強烈な臭いが鼻を突き、私は思わず顔をしかめた。
リーダーは、左頬に無骨な傷のある恰幅のいいアジア系の男だった。一歩前に出ると、悪意に満ちた目が光った。その顔は、何かの教義やしきたりに従順に献身する者のものだった。私は心の中で彼を「ヤマト」と呼んだ。
「やれやれ」と彼は冷笑した。「ヤヌスを殺したケレウスのクズどもじゃないか。お前たちを探していたんだ」
隣のノエが体を強張らせ、両手をぎゅっと握り締めた。「あのときはそうするしかなかったの。ヤヌスは狂人だった」〈そして私の知らない実の父でもあったのよ〉ノエの心の声が私の頭に滑り込んだ。
ヤマトは笑った。鳥たちが驚いて木々から飛び立つほどの耳障りな高笑いだった。「お前たちは、私から至福と平和に満ちた人生を奪った」
「あれは幻想よ!ヤヌスの支配に操られていたのよ。今はもう自由なのよ!」私が言うと、彼も私自身も予想外の強い口調だった。
「自由(じゆうか)?」ヤマトは無精髭の生えたあごを威厳のある角度に上げた。「法外な税金を払う自由か?人間がやるべき仕事をロボットにやらせるこの技術的ディストピアに生きる自由か?これが自由に聞こえるか?」
私の姿勢は思わず萎んだ。「私は…」
ノエとヴァンが一歩ずつ前に出て、私の前に守りの陣形を敷いた。「金華、こんな奴に言い聞かせても無駄よ。奴らの理解できるコミュニケーションは一つしかない」ノエは肩からライフルを下ろし、構えた。ヴァンは真夜中のように黒い拳銃を取り出し、慣れた角度で構えた。
男は笑った。その時、頬の傷が光った。彼の心には殺意に満ちた復讐心しかなかった。血まみれで壊れた私たちの死体が、彼の心の中に映っているのが見えた。この二年間で何度も見てきた光景だった。
「お前たちは死ぬ、私の夢が死んだように!」彼は怒鳴った。
曲をプレイする 「Cereus Crew Work」
ヤマトの合図とともに、他の三人の人影が行動を開始した。光る剣を持った男女が私たちに突進し、巨大なロボットがゆっくりと前進してきた。金属の手足がうなりを上げ、カランコロンと音を立てた。
ノエが数発発砲した。戦闘員たちは避けた。「ちくしょう!かかってこい!」マゼンタ色の光に包まれ、彼女は量子の姿に変身した。二人に分裂し、目にも留まらぬ速さで攻撃、防御、射撃の嵐を繰り広げた。
ヴァンはロボットに向けて発砲した。弾丸は装甲に当たって跳ね返った。ノエの指導のおかげで、彼はかなりの腕前になっていた。
「効いてないみたいだぞ!」歯を食いしばって叫んだ。装甲ロボットはゆっくりと前進を続けた。「金華、ちょっと手を貸してくれ!」
「わかった!」私は答えた。
心を集中させ、内なる力の源泉に意識を向けた。黄色い光が私の手から噴き出し、ロボットをエネルギーの炎で包み込んだ。機械は足を止め、高熱で回路が焼け焦げた。エネルギーが尽きると、私の唇が震えた。血の雫が舌先を濡らし、しょっぱくて驚いた。
「すげえ、やったぜ!」ヴァンが歓声を上げた。しかし、その瞬間は長く続かず、剣を持った女が彼に向かって斬りかかると、いったん美しかった芝生に煙たなびく黒い裂け目ができた。ヴァンは跳びのいて、ぎりぎりでかわした。
芝生の反対側では、ノエが男と苦戦していた。二人とも武器を捨てて素手で戦っていた。男の赤い拳がノエの肋骨に当たった。バキッという音が、私の頭に銀色の電光となって走った。ノエは怒りに震えながらも、立ち上がって、さらに強く男の顎に反撃の一撃を食らわせた。男はよろめいたが、軽やかなフットワークで芝生の反対側では、ノエが男と苦戦していた。二人とも武器を捨てて素手で戦っていた。男の赤い拳がノエの肋骨に当たった。バキッという音が、私の頭に銀色の電光となって走った。ノエは怒りに震えながらも、立ち上がって、さらに強く男の顎に反撃の一撃を食らわせた。男はよろめいたが、軽やかなフットワークでシフトしながら蹴りを繰り出し続けた。
「ノエ、手伝うわ!」私は言った。
もう一発の強烈な一撃を放とうと力を込めたが、周囲の世界が歪み始めた。ノエのパンチとその応酬は電気ブルーの残像を引きずり、ヴァンの銃声は脈打つ濃いパープルの光の中で炸裂した。鼻を突く焦げた金属の臭いが、血の生臭い匂いと入り混じった。目の前がぐらつき、立っているのがやっとだった。「ノエ、待って…今行くから」頭の中では走っているつもりでも、現実では二歩よろめいて進むのがやっとだった。
ヤマトは私の鈍い動きに気づいた。「お前みたいなのがボスを殺したなんて信じられん!そんな弱さは恥だぞ!」緑の光を放つパチパチ音のするエネルギーの鞭を手に、彼は私に向かって突進してきた。武器が宙を舞い、きらめくエメラルドグリーンの軌跡を描いて私に伸びてくる。まるで時間がゆっくりと流れているようだった。
予想外なことに、ノエがぎりぎりのところで間に合った。量子の分身たちが一つに戻り、彼女は攻撃を遮った。鞭が腕に巻きつき、肉を焦がしたが、ノエは踏ん張って耐えた。「ヴァン、撃って!」
ヴァンは拳銃をヤマトの頭に向けたが、男の動きが速すぎた。手首を返すと、ノエの腕から鞭を解き、攻撃しようとしていた相手に向けて走らせた。ビシッ!パチパチ音を立てる鞭がヴァンの喉に巻きついた。ヴァンは何が起きたのかわかった瞬間、恐怖で目を見開いた。
「ヴァン!」私は叫んだ。ヴァンは苦しみもだえながら、体をビクつかせた。ヤマトは渦巻く森の緑色をした気持ち悪い塊となって、ヴァンの生命力を吸い取っていた。
ノエの顔が怒りで歪んだ。獣のような叫び声を上げると、彼女は男に飛びかかった。ヤマトは正面からの急襲に備えていなかった。ノエが血まみれの拳で容赦なく顔を殴りつけると、なおさらだった。やがて、ヤマトは動かなくなった。でも私には何が起きたのかよくわからなかった。視界が曇り始めていた。「ノエ…ヴァン…」
私は混乱に陥った。閉じ込められた光のエネルギーで手首が疼く中、よろめきながらヴァンの倒れた姿に近づいた。腕を伝って上ってくる痛みをこらえながら、ヴァンのもとにたどり着くと、暗くなってくるぐるぐる回る世界の中、私はひざまずいた。ヴァンは言葉にならない苦痛で目をきつく閉じていた。私にできるのは、そっと彼の頭を持ち上げることだけだった。
ヴァンを抱きかかえると、首の赤い輪の傷から血を流しながら、彼の命が少しずつ逝くのを感じた。涙が頬を伝う中、視界がぼやけていった。どこからともなくノエと、茶色の髪でメガネをかけ、ジャラジャラ音のするブレザーを着た背の高い女性が現れ、私を立たせようと支えてくれた。
最後に見たヴァンの姿は、数分前に敵の心の中に見た忌まわしいイメージそのものだった。
気を失う前、私が見た最後の光景だった。
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