私の仕事、子供に薦められますか

もし自分の子供が「看護師になりたい」と言ってきたら私はそれを応援することができるのかと最近よく考えるようになった。

私は看護師の仕事が好きだ。
医師やリハビリ職のように、治療や機能回復といった直接的に患者の利益となる行為を行えるわけではない。臨床心理士のように心を落ち着かせ、癒すこともできない。少し前までは「私達の専門性ってなんなんだろう」と生意気にも悩んでいた時期があった。
しかし、看護師として働くなかで「先生には言えないんだけどね…」と胸中を語ってくれたり、「看護師さんの顔をみると安心する」と言ってもらえると、病棟に常駐している看護師という存在は一定の安心感を与えられているのではないかと思った。
その安心感から喜怒哀楽をストレートに私たちにぶつけることができるのだろうか。
「ご飯がまずい」「こんなところ出てってやる」「鬱陶しい」など怒りの感情をぶつけられることもある。正直知らんがなと思うこともあるし、私も人間なので傷ついたり苛立ったり怖いと思うこともある。そういう人たちは医師には言わず(例外も勿論あるが)、看護師にぶつけてくるとこが多い。
入院中のストレスや不満の捌け口となれることも、ある意味"ちょうどいい"立ち位置の私たち看護師の特権といえるのかなあ
ある意味安心されているんじゃないかなんて思ったりする。(正直たまったもんじゃないと感じることも多いが…)

患者の回復を一緒に喜べたり、その人の人生の最期の瞬間を共にしたり、慢性疾患を抱えた人がそれを受容し、これからの生活を築いていく過程を見届けたり、世の中色々な人がいるんだなあ、家族関係も色々だなあと感じたりと
仕事を通してとても濃い時間を過ごせているし、自分の価値観や人生にたくさんの影響を受け、人間性が豊かになっていくように感じている。そのような面もこの仕事が好きな理由となっている。

さて、ここで冒頭の「自分の子供にこの仕事を勧められるか」という問いにぶち当たる。
というのも、私がここまで述べた自分の仕事への考え方に至るまでが、本当に本当に辛かったからである。そして、世間では高給与といわれているが、実はそうでもなくとんでもなくコスパが悪いのではないかと思うからでもある。

学生時代はとにかく忙しかった。
1日に4科目×3日連続の筆記試験。
高校のテスト週間とは訳が違う。
一つひとつの密度が濃すぎる科目。復習が追いつかないままテスト。どうやって勉強しろというのかと絶望した。
泣きながら、ときに「今車が私に向かって突っ込んできたら実習行かなくていいよなあ」なんて不健全極まりない思考をもち、睡眠時間2〜3時間、ときには一睡もせぬままこなす実習の数々。
実習と並行して行う研究、それが終われば国試。
無事に卒業し入職すると、これまた過酷な新人時代の幕開け。
食欲はなくなり体重は減り、家に帰ってもふとしたときに涙が流れ、ついには朝泣いて動けなくなり、人生で初めて心療内科のお世話になった。そして2週間ばかり休職した。
それからどうにか復帰し、紆余曲折ありながらようやく7年目。最近も一度心療内科のお世話になった。

なにこれ超不健全。
こんな思い子供にさせたくないなあと思った。

そしてコスパの悪さ。
私は最近になってこの仕事実はコスパ悪いんじゃないかと思い始めた。(自分でいうのはいいが、人にこれを言われるとカチンときてしまう難儀な性格をしている。
別にコスパがいいから目指したわけではないし、私はなんだかんだ文句を言いながらもこの仕事が好きなんだからコスパとか言うなと心の中で悪態をついてしまう。)

まずは給料について。
看護師の給料はいいと言われている。
でもそれは夜勤や残業を前提とした場合だ。
夜勤を含む不規則勤務をしていると、自分の寿命が縮んでいってる気がする。己の心身が少しずつ削れている感覚に陥る。
なら日勤だけの職場へ…と考えるが、日勤のみでは総支給22万なんてザラにある。
別に他職種と比べて看護師が特別な仕事だというわけでもないが、自分の判断ミスや間違った思い込み、少しの不注意で相手の身体に損害を負わせてしまう、ときには生命に関わる事態を招いてしまう、そんな業務なのに会社員と変わらないじゃんと思ってしまう。
もちろん会社員には会社員のリスクがある。
ひとつのミスが会社を潰すこともある、そうするとそこの社長や従業員は職を失うことにつながりそれこそ人生に影響を及ぼしてしまう。
しかし、そんな事態を招くのはよっぽどのことだろう。
最近は介護施設で利用者が誤嚥、窒息して死亡した→訴訟
患者が転倒した→訴訟
など訴訟されるリスクも孕んでいる。
他人の人生も自分の人生も壊してしまう可能性は比較的高い怖い環境だと思う。

資格があれば食いっぱぐれないなんていうが、別に国家資格だけが資格ではない。
私はあまり詳しくないが、事務系、IT系などはそれぞれ様々な資格や試験がある。
そういったものをクリアしていき、自分の能力を高めていけば、その人はその業界において素晴らしく能力のあるかけがえのない存在となる。そうなれば食いっぱぐれることはないのではないか。
それなら資格が強いといった理由だけで看護師を目指すのはコスパが悪いなあと思った。

こういった理由から、子供が「安定性があるから看護師になりたい」「人の役に立ちたいから看護師になりたい」と言ったら
もっと安全な仕事はたくさんあるし、人の役に立つ仕事は他にも色々あるよと言ってしまいそうだ。
心身を壊してまで看護師を目指すなら、他職種に就いて自己の能力を高めて自分で安定性を掴んでほしいと思う。
でもいい仕事ではあるから、絶対やめろとも言えない。

さて、私は子供が看護師になると言ったらそのときはどう答えるだろうか。

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