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女の身体をどう使うかは女自身が決める

 2年ほど前に、友人からアフターピル(緊急避妊薬)を病院で処方してもらったときの話を聞いた。
 彼女は恋人と寝たあと、コンドームが破れていたのではないかという不安が払拭できず、翌日になって産婦人科を受診したそうだ。
 お酒を飲みながらそんな話をしていたので、彼女は冗談まじりに、そしてわたしはときどき茶々を入れたりしながら、その話を聞いていた。
 アフターピルを処方してもらうまでの経緯を聞いたわたしの率直な感想は、「恥ずかしいし、わずらわしい」というものだった。


 現在、アフターピルを処方箋なしで購入するための議論が盛り上がっている。
 わたしはそれまでこの問題にそれほど関心があったわけではないけれど、反対する理由もない。だから実現すればいいなと傍観者のように思っていた。
 しかし先日、この問題をめぐる日本産婦人科医会の反対意見表明の記事を読んでとても腹が立ったので、これはのほほんと部外者ヅラしている場合ではないと思い、この記事を書くに至った。
 
 先に断っておくと、わたしは産婦人科医会や男性をひとまとめにして攻撃しようとか、異なる意見を分断させようと思っているわけでない。

 彼らがアフターピルの薬局販売に反対する理由は、だいたい以下のふたつにまとめられると思う。

1、アフターピルの市販薬化をすべての女性が望んでいるわけではない。
2、薬局でアフターピルを購入したすべての女性がただしく服用できるわけではなく、それにともなうリスクが懸念される。

 1の「すべての女性が望んでいるわけではない」は、必要のないひとは買わなければいいだけのことであって、反対理由にはならないと思う。
 望んでいないひとにとってデメリットはほとんどない。選択肢が増えるだけだ。

 2の「すべての女性がただしく服用できるわけではなくリスクがある」という見解に対しては、産婦人科医の有志グループが以下のように反論をしている。

副作用もほとんどない薬です
診療するだけで手一杯なので、話を聞いて処方するだけの緊急避妊ピルについては、病院である必要はないと考えています。産婦人科医会がなぜ反対するのかわかりません。地方の産婦人科が少ないところでは、72時間以内に手に入れるなんて無理です

 そもそも市販薬のなかにも飲み方を間違えれば危険なものはある。薬の効果がある、ということは、リスクもある、ということだ。
 それでも多くのひとは市販のかぜ薬や鎮痛剤を飲んでいる。そのための説明書なのではないのだろうか。


 アフターピルの処方をめぐる議論以上に、わたしがこの記事を読んでもっと問題だと思ったのは産婦人科医会会長の以下のような発言だ。

緊急避妊薬はホルモン剤でいつでもいいから飲めば避妊ができると思ったら大間違いで、限られた時期に72時間以内に飲む。ホルモン的な理解が基本的にない方が次々に、いつでもいいからそこ(薬局)に行って買えばいいんだということは違う
女性による市民団体の要望活動については「その方達は非常に理解があって、いつでも手に入っても平気だと言っているかもしれないですけれども、全ての女性対象となった時には様々なレベルがありますから、それを国民のコンセンサス(合意)として出すにはまだ早いのではないか」と、女性側の知識の問題を強調した。
今日、女性を守るという視点から申しますと、必ずしも自分たちの希望だけを通すということだけのために自由にするという発想自体は慎重であってもらいたいなと思います

 これを読んでわたしは、「ほとんどの女性は無知で薬の服用のルールも理解できないだろうから、体の管理は医者に任せておけばいい」と言われているような気がした。
 つまり、女はバカだから男に従っていればいい、というような考えが、男性中心の意思決定の場にあるのではないかということだ。

 わたしはどうしても、生理も妊娠も他人事の男が女の身体のことに口を出すなよ、と思ってしまう。
 これは議論や対話をまっこうから否定するものなので、言ってはいけないとわかっている。それでもやはり、そういう気持ちは少なからずある。


 たとえば性暴力の被害にあった女性全員が、だれかに相談できるだろうか。
 体も心も傷ついた若い女の子が「レイプされました」と言えるだろうか。
 わたしだったら言えないと思う。親や友人にも知られたくない。
 かといって、産婦人科に行って、年上の男性医師を頼ることができるだろうか。
 女性医師が増えてきているとはいえ、厚生労働省の調べによると、産婦人科医の半数以上が男性医師だ。

 避妊の失敗については、都市部ならまだしも田舎ならどうだろう。
 アクセスの悪さだけではなく、産婦人科に行ったことが近隣住民に知れわたってしまう恐怖がある。アフターピルを処方してもらうということは、最近セックスしましたというようなものだ。
 性生活にオープンでない女性はためらってしまわないだろうか。
 産婦人科医会の先生方は、女性の精神的苦痛まで考えてくれているのだろうか。

 妊娠や出産は女の責任とみなされる。
 病院で脚をひろげて、身体のなかをかき混ぜられて中絶し、そのあと一生こどもが持てない体になるのも女の責任なのだろうか。ひとりで妊娠をすることは不可能なのに、男にはまったく責任がないのだろうか。
 アフターピルであらかじめ妊娠を防げるとすれば、そういう最悪のシナリオを回避できる可能性があるかもしれない。


 この記事のタイトルである「女の身体をどう使うかは女自身が決める」は、『TRUE DETECTIVE』というドラマに登場するセリフだ。
 売春婦が殺された事件の捜査のため、警察官の男性が女性リーダーの仕切る売春キャンプに聞き込みにいく。
 そこに明らかに未成年と思われる女の子がいたため、警察官が女性リーダーを非難したとき、彼女はその女の子が過去に叔父から性暴力を受けていたことを示唆して、こう言うのだ。
「女の身体をどう使うかは女自身が決める」と。
 その言葉に怒った男性警察官は、あの年じゃ分別もない、あんたは金儲けができれば彼女が傷ついても関係ないんだろう、と強い口調で責める。

 するとその女性リーダーは、
女は太古の昔からただでヤらせてきた。そこにビジネスを加えると何で男は騒ぎ立てるの?(それは)女を支配してるって幻想を失うから」
 と反論する。

 このドラマを観たのは6年ほど前だ。
 そしてこの問題はセックスワークにまつわるものだ。
 だけれど、このセリフはなぜだか強く印象に残っていて、そしてまたこの言葉以上に、女性が自分の身体の権利を行使することに男性が反対する納得のいく理由に、わたしはまだ出会っていない。


 アフターピルの薬局販売を求めるひとのほとんどは、ただ女性が自分の身体を守る権利を認めてほしいだけだ。望まぬ妊娠を防ぐ選択肢を増やしたいだけだ。
 女性であれ男性であれ、その人の身体に対する決定権をもつのはその人だけだ。
 わたしの身体のことは、わたしが決める。これの何がいけないのだろう。

 最後に、どうしても問題の性質上、男性をひとまとめにして書いてしまっていることは非常に申し訳ないと思っています。


image/Unsplash

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