見出し画像

ドン引きサッカーからの脱却(2020年版ヴァンフォーレ甲府の現在)

 J2降格から早3年。今季は多くのベテランがチームを去り、毎年恒例の主力の引き抜きもされ、例年以上にきつい始まりとなった伊藤彰監督2年目。昨年は結果(昇格)重視の現実的な戦い方で勝ち点を稼いでいき、結果は5位そしてプレーオフ進出を決めた。5-4-1のブロックをゴール前に敷き、相手の攻撃を弾き続け、奪えたら前線に控えているスーパーな選手たちに預けてロングカウンターが基本形。この戦い方は城福監督時代から続いていたもので、今や甲府の印象を聞くとほとんどの方がこの印象と答えるだろう。

 だが、今季この戦い方に変化が起きている。開幕前のキャンプから4バックの導入をし、後ろに重い陣形からの脱却を図った。その後は得点はできるが、失点が多いという問題が解消できず、昨年までのような3バック(5バック)に戻さざるを得なくなってしまったのだが、6節の大宮戦からモデルチェンジがされた。守備時には今までのような5-4-1でブロックを組み、攻撃時には4-3-3に可変し、守備は堅さを維持しつつ、攻撃にも人数をかけれるようになったのだ。

モデルチェンジ 

 攻撃の局面になると3-4-2-1(5-4-1)の陣形からリベロが1列前に出てアンカーのようになる。そしてそれに押し出されるように2人のボランチが1列前に出て中間ポジション(伊藤彰監督はホールと言う)に位置取りインサイドハーフ化する。

リベロは新井涼平、山本英臣という元々ボランチを主戦場にしていた2人が主に務めているので1列上がっても、問題なくできる。アンカー化したリベロは相手のFWの背中に立ち、ボールを引き出すor自分に注意が向けばCBに前進させて1stラインを突破させる役割である。最近ではGKの岡西宏佑もビルドアップに加わりGK、右CB、左CB、リベロ(アンカー)の4人の菱形でビルドアップを始めることが増えている。そこからWBが1つ内側に入ることでワイドに開いた選手への通り道を開け、泉澤仁や松田力など質的優位に立てる選手にボールを届ける。そして相手の陣地に入り込めれば、2-3-5で相手を押し込んでいくのだ。

プレッシングと優位性を活かす可変

 6節の大宮戦以降8戦負けなしがあったのちに山形、栃木に2連敗。この2連敗を機に更なるモデルチェンジが行われた。
その時点で2位につけていた北九州との試合で新たな姿をみせた。これまで相手陣地でボールを失うとミドルゾーンまで撤退し、このエリアまで相手が来たらプレッシングしていたのが、北九州戦ではボールを失った瞬間から激しくプレッシングをかけた。これまではハードワークする姿があまり見れなかったが、この北九州戦では球際では激しく、敵陣の深い位置から圧力をかけるハイプレスを90分通して続けた。またセットした守備でもディフェンスラインを高く設定し、時には相手の最終ラインから甲府ディフェンスラインまでの幅が30mと狭く、チーム全体で相手にプレッシャーをかけていく姿勢が見えた。これにより北九州の得意とするビルドアップも機能不全にすることができたのだ。

 また今季の甲府は大幅なターンオーバーを採用しておりほぼ毎試合7、8人メンバーが変わるため、その試合に出ているメンバーのキャラクターによって可変時の動かし方を変えている。

北九州戦ではリベロが1列前に出ずに5バックが右ズレし、ボランチの1人がアンカーを務め、左ウイング化した左シャドーと右ウイング化した右WBが大外で幅を取り、左インサイドハーフ化した左ボランチと右シャドーが中間ポジション(ホール)に立ち位置を取る陣形に可変した。どのメンバー構成でも大外で幅を取る選手、内側で中間ポジション(ホール)を取る選手が必ずおり、レーンを意識した立ち位置取りをしている。

 4-3-3に可変してからは同サイドの3人(WB-ボランチ-シャドー)がローテーション(旋回)し、組織としてのバランスを保ちつつ、相手の守備の基準点を狂わすようにポジション取りを工夫してビルドアップの出口を見つけ出す。見つけ出した先で泉澤仁などの質的優位に立てる選手らを活かす。相手の立ち位置を見て、自分たちの立ち位置を取り、位置的優位を生み出し、最終的に質的優位を活かしていくのだ。

これからの課題と伸び代

“ボールをしっかり保持しながら、相手を押し込んで戦うのが自分のやりたいサッカー”
“J1のチームにもイニシアチブをとりながら戦っていく、そういうチームにイノベートする。今年は、その第一歩にしたい”

 伊藤彰監督はそう今季の目標を述べている。現段階では試合中のボールを保持する時間帯も増えてはいるが、試合を支配するほどではない。ただ着実にこれまで植え付けてきた種が芽を出しつつあるのは事実。ボールの動かし方、ボールを受ける時の体の向きなどまだまだ細かいところは改善していかないといけないが、伸び代があるとも言える。今年は過密日程によりチームトレーニングがままならない中、大幅なターンオーバーで多くの選手にチャンスが与えられていることもあり、ゲームモデルの浸透が実戦で行われている。また、どんなメンバー構成でもチームとしてやることが共有できるようになるとチームの仕上がりに近づくだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?