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【野辺地ジョージ × 速水惟広 対談】 六甲、NY、東京、そして軽井沢。フォトフェスティバルが繋いでいくもの。

2023年よりスタートする「軽井沢フォトフェスト」のクリエイティブディレクター野辺地ジョージさんは、ニューヨークの金融業界で働いたあと写真家に転身し、2016年まで海外に拠点を置いて2017年に帰国。作品制作や発表を続けながら、国内外のフォトフェスティバルにて審査員やサポートを行ったり、海外の著名な写真家を日本に招いた特別なプログラムを企画するなどの活動を行ってきました。

2017年から東京・京橋で開催されている「T3 PHOTOFESTIVAL TOKYO」(以下、T3)のファウンダーを務める速水惟広さんは、大学時代にカリフォルニアでグラフィックを学んだあと、株式会社CMSで写真雑誌「PHaT PHOTO」の編集長を務めたり、コンペティションの審査やポートフォリオレビューのレビュアーとして国内外を駆け回りながら活動してきました。

共に海外とのコネクションがあり、日本と世界の橋渡しとなる活動を行ってきた写真業界の中でも異色のキャリアを持つふたりに、それぞれがフォトフェスティバルの開催にたどり着いたルーツと、今後の展望について話してもらいました。

――今日はよろしくお願いします。おふたりは以前から活動を応援しあう関係だと思いますが、出会ったきっかけを教えてもらえますか。

速水 最初に会ったのは六甲国際写真祭(以下、六甲)ですよね。

野辺地 そうですね。2016年かな?

速水 ですね。野辺地さんの印象はめちゃくちゃ強く残っています。堂々としていて自信に満ち溢れていました。日本の写真業界で英語が話せる人は本当に数えられるくらいしかいないなかで、野辺地さんは海外の写真家のコーディネーターなどもやっていて、こんなにパワフルな人がいるんだと思って。どこでこの人を見つけてきたんだろう、六甲は? 相当重要なキープレイヤーなんだろうな、と思ったのを覚えています。

野辺地 実は全然重要じゃなくて(笑)。2016年の夏にサンタフェでその年の六甲の参加作家、アレハンドロ・デュランに会ったんです。海に捨てられたゴミを使ったインスタレーション作品などを作っている作家でした。彼が同じく六甲の参加作家だったジェイミー・スティリングスを紹介してくれました。

ジェイミーは航空写真家で、世界中で太陽光発電を撮影していたのですが、8月に六甲に行くついでに日本でも撮りたいと。日本はヘリコプターの規制が厳しかったり、しかも夏で台風も来るからやめたほうがいいといったのですが、「ジョージ、撮影をアレンジしてくれないか」と。

専門外なので最初は断ったのですが、結局ひたすらGoogle Earthで太陽光パネルがある場所を探して撮影のアテンドをすることになったんです。関東は栃木と茨城、関西は兵庫に多いことが分かりました(笑)。撮影が終わったらジェイミーを六甲に送り届けて、僕は北海道の母のところへ行く予定でした。でも六甲国際写真祭の主催者だった杉山武毅さんに、「あなた誰?」と聞かれて、布団貸すから手伝ってよと。

速水 そんな感じだったんだ(笑)

野辺地 そうなんですよ。ワークショップやポートフォリオレビューの通訳をお願いされて、お手伝いすることになったんです。それで速水さんと出会いましたね。速水さんは国際的な価値観や世界観があり、すごく興味深いアイディアを持ち発言をしていて、若いのに凄いなと思いました。御苗場や当時T3の前身となる東京国際写真祭もやっていましたね。僕も速水さんはパワフルな印象を持ちました。

2016年に六甲国際写真祭を体験して、もっと六甲みたいなフェスティバルに関わりたいと思って、2017年に帰国したんです。日本の写真祭を海外でも発信して、架け橋になりたい。そこに自分の価値がある、と思ったんです。六甲は2019年になくなってしまって残念だったんですけどね。 

――六甲国際写真祭のほかにも、ニューヨークの「Photoville」も影響を受けた写真祭のひとつですよね。

野辺地 そうです。2014年の秋。その時はまだ金融業界にいて、でも何か違うなとずっと思いながらウォール街で働いていました。2014年6月にブルックリンで初めて写真のワークショップを受けたのですが、そのとき先生だった写真家が展示するというのでPhotovilleを見に行きました。

Photoville Webサイトより

知り合いの写真家なども紹介してもらって、輝くマンハッタンのスカイラインを望みながら、野外でビールを飲んで写真の話をすることはこんなに素晴らしいことなんだと感銘を受けて。

その時、思い切って金融をやめて、写真をやろうと思ったんです。Photovilleは大きな存在でした。僕もいつかそこで展示したいと思っていたのですが、2020年に窓越しの風景の作品シリーズ「Here. Still. 」(静寂はここに)が選ばれてソロショーができました。でもコロナで行けなかったのが残念。もう一度展示したいな。

『Here. Still.』(静寂はここに)より「ニューメキシコ州」 ©2023 George Nobechi
『Here. Still.』(静寂はここに)より「厳美渓」 ©2023 George Nobechi
『Here. Still.』(静寂はここに)より「弘前」 ©2023 George Nobechi
Photoville2020 展示風景
Photoville2020 展示風景

速水 ジョージもPhotovilleに影響を受けていたんだね。僕もめちゃくちゃ受けています。T3の展示やワークショップを無料にしているのは、Photovilleを観たときにパワーを感じたから。Photovilleではフードマーケットの「スモーガスバーグ」を一緒にやってたり、ドッグランもありましたね。日常の延長線上に写真の展示があるというのが素敵だな、と思って。

最初に行ったのは2012年でこの時はコンテナが並ぶだけの展示でしたが、当時はそれすらもおしゃれに見えて衝撃があった。僕が今、目指しているフェスティバルの形とは違うけど、初期に強い影響を受けたのはPhotovilleですね。あとは北京の三影堂の草場地写真祭。若い中国人の作家がポートフォリオレビューを受けている姿を見て、日本にはこういう場がなく、でも絶対必要だよなと感じたのが原点です。 

――速水さんは野辺地さんが軽井沢フォトフェストを立ち上げると聞いてどう思われましたか?

速水 以前からやりたいと聞いていたので、「やっぱりやったんだ」というのが素直な印象。すごいなと思うのは、やりたいと思ってもやれる人っていないんですよ。大変だからやりたいと思う人もそんなにいないのかもしれないけど(笑)。それをやると決めたのは凄いと思ったのと、僕の勝手な解釈ですが、今回の軽井沢フォトフェストは誰でも参加ができる。「撮る喜び」みたいなところを大切にしているじゃないですか。

そこはジョージさんらしいというか。ジョージさんも写真にすごく救われたところがあって、だから撮る行為は大事だったと思うんですよね。大自然に囲まれた軽井沢という場所で何かしらの形でお返ししたいというのがベクトルとして働いているのかなと思った。ジョージさんのことを知っているからかもしれないけれど、それはすごく感じました。

野辺地 まさにそうですね。写真に救われたと思っていましたし、恩返しをできればと思っていました。T3や、KYOTOGRAPHIE、KG+、HOKKAIDO PHOTO FESTAなどいろいろある中で、この軽井沢フォトフェストは、初心というか、写真を撮り始めた理由を再び思い出してもらいたいと思っているんです。

作家はコンペに応募したり、展示をしたりとプレッシャーを感じることも多いと思う。そもそも写真新世紀など登竜門の場も減ってきている。そんな中で、もちろん真剣に撮ってほしいけど、楽しんで撮ってもらって、自分の写真が展示されている嬉しさを感じてもらい、そこからさらに踏み込みたければ、自分のプロジェクトを作り上げたりして欲しいと思っていて。だからあえて参加型というか、写真を撮って応募できる場所をつくりたいと思ったんです。

ここを登竜門としてもらい、僕みたいに何かが芽生えて、学校で学んでみたり、KG+や御苗場を目指すなどしてもらえたらなと思って。撮ったものが評価されて展示されているのを観た嬉しさから「何かもっとやりたいな」と言うところに繋がって行ったらと思います。

――これからどのように発展していくのか楽しみですね!

野辺地 六甲は山の上に登ってみんなで合宿するような感じの写真祭でした。会期中は写真に夢中になって、帰るときに「ああ夢のような時間だったな」と思うのですが、軽井沢もそのポテンシャルはあるんですよね。山があり、リゾートだし、施設もある。都会のにぎやかなところからちょっと離れて、考え方が変わったりする。それを活かしていきたいなとは思っています。やりたいことはいろいろあるんですけど、いつかアーティスト・イン・レジデンスのプログラムも作りたいですね。

速水 わかります! アーティスト・イン・レジデンスは僕も計画しているところです。

野辺地 そういった資金を集めるには、まずは活動を見てもらって、伝えないと。アーティスト・イン・レジデンスのプログラムができれば、年中通して次世代の作家を育成するいい環境になる可能性があるなと思います。

速水 ほんとにそうですね。フェスティバルは一気に完成系を目指せない。5年、10年かけながら試行錯誤しつつ、時代も機材も環境も変わりながら、どうやってサステナブルに活動を続けていくかということを考えるのが大事ですね。

T3は現在、「Future Station」というテーマで学生が東京駅を撮影するプロジェクトをやっています。学生たちが東京駅をリサーチしてそれぞれの視点で切りとる。それは東京駅で働いている人でも気づかない新しい視点をもたらしてくれるのですが、間違いなくこれは写真家が提供できる価値の1つだと思うんです。それは作品ではないかもしれないけれど、写真家のそういう能力にも価値を見出し、対価が払えるようになっていければいいなと思ってやっているんです。

野辺地 すごく面白いですね。ストーリーテリングを価値あるものにしていくというのは、大切なことだと思います。

――速水さんはフォトフェスをやってよかったなと思う瞬間はどんなときですか?

T3 PHOTOFESTIVAL TOKYO2022 東京駅メインビジュアル ©Naoki Takehisa

速水 クラウドファンディングで支援してくださった方々のメッセージを読んでいる時ですね。無料のフォトフェスティバルなので、展示もイベントも全部無料で参加しようと思えばできるんです。でもクラファンに関しては、応援したいと思った人が対価を出してくれている。金銭的な支援もそうですが、送られるメッセージが本当に嬉しい。やっていてよかったなと一番思いますね。

もちろんフェスティバルとしては、出展作家が喜んでくれてたり、海外の人たちにも注目してもらったりするのは最重要項目なのでそれが出来るのは嬉しいことですが、一番はそこなんですよね。野辺地さんもクラファンで応援してくれて、感動したもんね。今でも忘れられないですよ。そういう人たちがいるからやれるし、それが喜びです。

――軽井沢フォトフェストは2022年6月にローンチイベントがあり、それから毎月数本のWSをコンスタントに開催しています。フォトフェスト開催前から精力的に活動している印象を受けますが、どういった思いでやっているのですか。

野辺地 『フィールド・オブ・ドリームス』というアメリカの野球映画がありますが、有名なセリフに「If you build it, he will come.」というのがあります。「トウモロコシ畑に野球場を用意すれば、彼(映画では主人公の亡き父親)は来てくれるよ」っていうね。すると選手が大勢来てくれて。何かしら毎月2~3回やっていることによって何か繋がっていくのではないか、知ってもらえるのではないかと。

写真の撮り方を学ぶWSもあれば、次のステップを目指している作家を育成していくような場もあって、バラエティに富んでいます。やっていくことによって、いつか誰かに気づいてもらえたら。ただ来てもらいたいというよりは、体験してもらいたいですよね。

写真に入り込むのは誰でも可能ですが、そのあとの奥深さを知ってもらいたい。それが楽しみのひとつでもあります。1年目はあまり人数が集まらなかったWSも、来年以降、広まっていけばなと思っています。「If you build it, they will come.」(「みんなが来てくれる」)です。

速水 僕は「Be the change that you want to see in the world.」。「自分が見たい変化に自分自身が最初になれ」と。ガンジーの言葉です。ある意味最初は覚悟が必要かもしれないですよね。

ただ、「意志あれば道あり」じゃないですけど、やりたいという思いがあれば、力になってくれる人がいる。僕も様々なスポンサー企業に「写真のことは分からないけど、この人の思いは熱いと思ったから助けたい」と言ってもらえて、T3の今があります。結局それがあるかないか。それだけとは言わないけどそこがすごく重要だと思います。

ジョージさんの場合は心の底からやりたいという思い、愛があるから必ず誰か助けてくれると思うし、本人も切り開くだけの力を持っていると思う。写真をやめて突然、別なことに目覚めるなどしなければ安泰ですね。

野辺地 大丈夫ですよ、僕は(笑)。

速水 じゃあ安泰ですね!

野辺地 ただ助っ人はもっと欲しいですね。

速水 T3でも欲しいです。募集中です。

――速水さんには2月18日(土)~19日(日)にWS「作品制作と向き合うための土台をつくる2日間『Foundation for Photographers』」の講師をしていただきますが、どんなところがポイントですか?

速水 今回は6人限定の少人数のWSなので、それぞれの作品の未来についてじっくり話ができると思います。僕は17年くらい写真に携わる仕事をやっていますが、国内外いろんな方を知っているので、経験の中から得たことを惜しみなくお渡ししたいなと思っています。来年は僕のWSはないかもしれないので、気になっている方は今年来た方がいいですよ。同じ思いを持った参加者たちと一緒に、仲間になれたらいいですね。

野辺地 速水さんとの時間は値段の付けられない時間だと思います。一緒に食事をするオプションもあるので、ワークショップの時間は真剣にやって、それ以外の時間は雑談しながら写真界のことを学ぶ絶好のチャンスにしてもらえたら。KFF1年目の特別価格で開催します!

今いる場所から抜け出して、軽井沢へリフレッシュしに来てください。開催場所の観光協会の振興センターは広い会議スペースで、周りにレストランもたくさんある。雲場池も近い。駅から歩ける距離なのですごくいい環境です。冬はホテルのロビーに薪ストーブがあるところも多いですよ。

速水 最高じゃないですか!

――軽井沢フォトフェストは展示作品募集が締切となり、応募総数も1000枚を超えました。最後に野辺地さん、改めて軽井沢フォトフェスティバルの魅力を教えてください。

野辺地 今は4月1日のオープニングに向けて頑張っています。どの会場も浅間山をバックに自然の中で写真を見ることができるフェスティバルを目指していますので、見どころが多いです。それぞれの会場も全く雰囲気が違うんですよ。

追分公園は中山道の江戸時代の風情が残る場所ですし、矢ケ崎公園は駅の近くで迫力があって、浅間山も離山もきれいに写ります。湯川ふるさと公園は川沿いを散策しながら写真を見られる。4月の中旬くらいから桜も咲き始めます。それぞれに違う見どころがあって楽しいので、ぜひ見に来ていただきたいです。

矢ケ崎公園 ©2023 Naoko Kusumi

速水 楽しみにしています。

野辺地 写真の面白いところは、人とのつながりからアイディアがわいてきてまたさらにいろんなところに繋がること。その中でフォトフェスティバルは欠かせない存在ですよね。

速水 まさにそうですね!

――おふたりとも本日はありがとうございました!

プロフィール
野辺地 ジョージ George NOBECHI
KFF Creative Director 監督・KFF Juror 写真審査会メンバー。
写真家。軽井沢在住。欧米の著名ギャラリー所属。国内外の大手媒体で掲載されている。また世界中でワークショップを開催し、写真関連イベントを国内各地とオンラインで繰り広げるNobechi Creativeの創業者。写真イベントを通して800万円以上をチャリティに貢献。2022年、富士フィルムX-シリーズ10周年「Reflections」日本代表として出演。Instagram: @georgenobechi

速水惟広 Ihiro HAYAMI
T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO(東京国際写真祭)ファウンダー。
写真雑誌「PHaT PHOTO(ファットフォト)」編集長を経て、2017年に上野公園にて東京で初となる屋外型国際写真祭「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO」を開催。その後、2020年より東京駅東側エリアに舞台を移す。
これまでに手掛けた主な企画展に「The Everyday -魚が水について学ぶ方法-」(共同キュレーター きりとりめでる、2022)、アレハンドロ・チャスキエルベルグ「Otsuchi Future Memories」(岩手県大槌町、2016)ほか。最近の活動に世界報道写真財団のJoop Swart Masterclass Selection Committeeメンバー(2020)、Photo Vogue Festival審査員(イタリア、2021)、Critical Mass審査員(米国、2022)など。

速水さんが講師を務めるワークショップを2月18日(土)~19日(日)に開催します。ぜひご参加ください!
「作品制作と向き合うための土台をつくる2日間『Foundation for Photographers』」

軽井沢フォトフェスト
KARUIZAWA FOTO FEST(KFF)

会期:2023年4月1日(土)~5月14日(日)
場所:矢ケ崎公園、諏訪ノ森公園、湯川ふるさと公園、追分公園
入場:無料
主催:軽井沢観光協会
主管:NOBECHICREATIVE
企画:「軽井沢フォトフェスト」実行委員会
メインスポンサー:FUJIFILM
協賛:DxO、東日本旅客鉄道株式会社 長野支社、RML株式会社、軽井沢ガス株式会社
協力:軽井沢トラベル&コンサルティング、旧軽井沢 ホテル音羽ノ森、ロカユニバーサルデザイン株式会社
ほか

軽井沢フォトフェスト公式Webサイト
軽井沢フォトフェスト イベントページ
軽井沢フォトフェスト公式note

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