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クッキングパパ/荒岩家のはなし〜荒岩まことに告ぐ。

ふと思うことがある。それは「クッキングパパ」についてだ。地下鉄に乗っているとき、バスを乗り換えるとき。街の喧騒の中でボクの脳裏をかすめるあの一家についてのはなし。中でも主人公の息子についてなんだな。気になるのは。

ここであえて「クッキングパパ」の主人公一家を紹介したい。

まず荒岩一味。クッキングパパの主人公。福岡在住で地元の商社に勤めている。妻は虹子さんで新聞記者。娘のみゆきは中学生でバドミントン部と美術部をかけもち。そして長男はまこと。高校卒業後沖縄の大学へ。のち大阪のイベント企画制作会社に勤務するも現在京都のレストランに転職とまだまだ人生彷徨い中のナイスガイ。連載初回は小学生だったのにね。荒岩まこと。今回この男について語ってみたいのだ。

まことの彼女はさなえちゃんだ。親公認で小学生の頃から付き合っているがずーっと遠距離恋愛。これ、実はすごいことなんですよね。小学生から遠距離。破局騒動ほぼなし。どれだけ一途なんだと思いませんか。世知辛い現代社会でどれだけ純愛育んでるのか。

たとえば大学進学、就職とさなえちゃん在住のトーキョーシティに移住するタイミングはあったわけです。だがまことはそれを選ばずさなえちゃんもムリに要求することはなかった。まあ、それらしい雰囲気はあったけども。その逆は可能性なかったのかなとか思うんですけどね。きっとね、さなえちゃんはトーキョーが好きなんだろうなァ。

さすがに転職のときはキレてましたね、さなえちゃん。
「あたし、まことくんのことがわからない」
そんな態度で東京へ帰るさなえちゃん。だがまことの決心は揺るがない。パパもママも転職には賛成する荒岩家。このまま破局かと思いきや、いつのまにか元サヤになってるまこととさなえちゃん。このままゴールインなんでしょうかね。

まことがまだ沖縄在住の頃、極端にさなえちゃんの出番が少なくなった。バイト先の同僚あゆみちゃんと仲良くなったり幼馴染のえっちゃんが捨てきれぬまことへの想いに揺れ動いたり。だがまことは揺らぐことなかった。悩むそぶりすら見せないわけです。おそらく沖縄の子もえっちゃんもまことがひと押しすればコロリなわけです。ワンナイトスタンドも絶対アリだったはずなのにそれをしない。だけど2人きりで海水浴は行くんだな、まことは。ある意味罪な男ですよ。ほんとに気づいてないの?とまともな読者なら気づく。だがまことは気にしない。えっちゃんはあくまでフレンズ。そういうこと。
なので幼馴染のえっちゃんはまことへの想いをひた隠し、まことの親友みつぐくんをなんとなくチョイスしてはいるがおそらくそれほど好きではないんじゃないかな。だけどこのままなし崩しにゴールイン、、なんですかね。長年の読者としてはえっちゃんとみつぐくんのラインはまさかの破局ってのもアリだと思う。えっちゃん、家族想いのいい子だしね。みつぐはいい奴なんですがもったいないわ。

そんなえっちゃんはまこととさなえちゃんが微妙な距離感になったとき、おせっかいにも仲を取り持とうとする。「あたしは相手がさなえちゃんだから身をひいたの」と抑えきれない気持ちをまことにぶつけちゃうシーンは秀逸。

それにしてもクッキングパパ、もう連載30年以上続いてるんですよ。連載開始が1985年だしグルメものでは最長の域に達している。「美味しんぼ」をとっくに超えてしまった時間軸の中でもはやどこまで続いてどう着地するのかをボクらは見据える義務がある。そう思いません?

物語が凍結してしまった「美味しんぼ」なき後、静かな伝説(レジェンド)としてどう物語が転がっていくのか。荒岩の部下である田中くんは3人の子持ち、エグチンは元パチプロのすーちゃんとゴールイン直前、元上司の大平さんの息子のかずおくんは一度は破局した熊本の元カノと復縁した。あのほのぼのした画風と物語の中でけっこうさらりとヘヴィネスな展開さらりと盛り込んでくるんですよね。そこにクッキングパパ長期連載の秘訣がある。単に「うん。うまいゾ」とキメるだけじゃ「思い出食堂」とかに掲載されてる人情グルメ漫画と変わらないもん。

とりあえずボクは思う。まこととさなえちゃんの行く末をぐいっと動かしていくべきなんじゃないかとね。たとえばさっさと結婚させて遠距離夫婦。そこにまこと道ならぬ恋で悩むみたいな柳沢きみお的展開。もしくはもう別の男と結婚しちゃったあゆみちゃん(154巻でその事実が判明)が「ハーイ。まことくん、元気?」といきなりあらわれ紫門ふみワールド的展開とか。まことは真っ直ぐないい男に育ったけどやっぱりもうちょい人生のビターさを味わって欲しい。落ち込んで立ち直ってまた落ちて。だってさ、そのへん詳細に描いた大平かずお編があるわけですよ。

地元博多の高校を卒業後、熊本の大学へ進学したかずおくんは地元の娘と付き合い始める。そしてあっという間に時は過ぎ卒業、就職。社会人になり熊本を離れるかずお。「同じ九州だし会えるけん」とプチ長距離恋愛スタートするも、社会人なりたてのかずお。ココロの距離は離れていき破局。ヨリは戻らず娘は別の男と婚姻。ヘヴィである。かずお、ひたすら後悔。時々あるんだよ、クッキングパパ。こういうビターなストーリー。

ところでが大平かずお編は終わらなかった。


大学時代の友人から娘が離婚したことを聞いたかずおは一路熊本へ。「どうしても会いたくて」と気持ちを伝えるも娘の気持ちはすぐには揺るがず。正直かずお編、ここで終わりかと思った。だがしかしの大どんでん返し。詳細をこれ以上書くのはヤボだからカットアウト。クッキングパパ最大の魅力はコレよ。人情話、ハートフルストーリーを絶妙に絡めてくる。


だからボクはまこと編、そろそろビターなやつを読んでみたいのだ。いつまでも「アハーッ」とか言ってる場合じゃないぜ、荒岩まこと。「ンガー」と大口開けてバクバク大食いなのはかまわない。だけどそろそろヒトとして男として立ち直れないほど深く傷つくのを覚える時期だ。大食い大酒はみつぐに任せておかないか。みつぐの先輩社員のエグチンだっているし元祖バカ社員(でもいいやつ)の田中だってまだまだ健在だ。

幼き頃から天真爛漫に両親の深い愛に包まれ育てられた荒岩まこと。「やらかし」はボクが覚えてるかぎり中学生か高校生のときクラスでちょいとしたケンカに巻き込まれて相手にケガさせた一回のみ。ソフトクリームの回だ。落ち込むまことにパパは「ポッテリ〜」(擬音ね)したソフトクリームを差し出す回。マッシュポテトの発展形かなんかだったはず。

やらかし、いいじゃないか。やらかそうぜ。あゆみちゃんは結婚したけどまだまことのことを忘れられない。えっちゃんだってそうだ。もしくは京都のレストランでも出会いはあるかもしれないじゃないか。やらかせ、まこと。そして物語を動かすんだ。そうすることで「クッキングパパ」は単なるグルメ漫画の枠を超えた家族一大絵巻として未来永劫読み注がれていく作品になるはずなのだから。

おそらく次にゴールインするのはエグチンとすーちゃんだろう。もしくは田中三兄弟の末っ子か。ハッピーなエピソードが続くからこそビターな要素は絶対必要。ゆえに荒岩まことにこそ冒険して欲しい。ボクは期待している。長年読み続けてきた読者として。頼むぜ、まこと。お前に安定、平穏は似合わない。その笑顔の裏に隠された狂気を解き放て。歴史を動かせ、荒岩まこと。そのときこそ「クッキングパパ」がグルメ漫画界のキングダムに登りつめる瞬間なのだから。




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