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嗚呼!大平かずお〜ボクらがクッキングパパを読み続ける理由。


ずいぶん間が空いてしまった。すっかり更新がご無沙汰になってますが今回のネタはまたもや「クッキングパパ」である。今年はどんだけ再読したのかわからないほど読み返した。なんでって自分でもよくわかりません。心が「クッキングパパ」を求めてるんだから仕方ないよね。「美味しんぼ」や「そばもん」じゃ埋まらない心のスキマってのはあるんです。まして「包丁人味平」に「スーパー食いしん坊」、「ミスター味っ子」「喰いタン」にゆでたまごの「グルマンくん」に秋元泰が企画監修した「Oh‼︎my コンブ」と今やグルメ漫画は山ほどある。だけど「クッキングパパ」じゃいけない理由ってのがあるんです。

前にも書いたかもしれないけどヤバいなとあらためて。なにがって大平かずおですよ。「クッキングパパ」における大平かずおをめぐるエピソードの秀逸さにあらためて打ち震えている。

大平かずおとはグルメ漫画というジャンルでもはや前人未到のロングラン連載を達成している「クッキングパパ」に登場するキャラだ。主人公、荒岩一味が勤める金丸産業OB、退職後は蕎麦屋を営む大平さんのひとり息子である。大平さんが学生時代ボロアパート在住の頃よく食べてたというオムライスの回でこの息子は初登場。荒岩が作るドライカレーのオムライスを完食し野球の試合に出てくるだけのキャラだったはずがまさかメインを張るまでに成長するとは。ちなみに好物はお母さんのポテトサラダと野菜天。

このかずおくんだが、まるで原秀則の漫画に出てくる間の悪いキャラでかなり不器用。地元博多で広末涼子似のJKと恋愛未満のドッキドキな関係に陥るかと思いきや特に進展なく熊本の大学へ。そこで運命の彼女と出会うわけだ。

それが久美ちゃんである。一途にかずおを思う実にいい娘なんだが、かずお大学卒業→就職に伴い、あっさり破局するんですね。新入社員にありがちなやつです。入社1年目で社会人初となる生活の中で、無邪気にかずお逢いたさに部屋を訪れた瞬間のことでした。とてつもなく「失礼」かつ無礼な表情で彼女を出迎えたことでの破局でした。

久美ちゃんはその後別の男と結婚、かずおも会社の先輩OLと淡い恋に落ちますが1年足らずで終了。久美ちゃんもかずおを忘れられずその気持ちに気づいた旦那にDVを受け耐えきれず離婚。これ柳沢きみおの漫画じゃないんですよ「クッキングパパ」のストーリーですよ。うまかですバイ!なんてセリフが似つかわしくないヘヴィネス。

かずおは熊本時代の友人から久美ちゃん離婚の報を聞きつけたまらず熊本へ向かいます。あてもないのに。雨が降る中、当時住んでいた下宿近辺をうろつくかずお。そこに偶然あらわれる久美ちゃん。全身でかずおを拒否する久美ちゃんがまた切ない。この偶然の再会がスムーズに2人の恋の再燃へと結びついてるかと思えば全然そうじゃないのが実にリアルなわけで。この辺のビターな展開は柴門ふみの恋愛漫画よりも実感こもってますよ。特命係長しか描かない柳沢きみおを凌駕するヘヴィネスをどうして誰も着目しないのかボクは不思議でならない。かずお編だけでスピンオフ描いて欲しいぐらいだったもんな。

そしてかずおに転勤の命が下ります。行き先は北海道。彼は一大決心し「よりを戻そう」と告白するも撃沈。そう、久美ちゃんはすでに新しい人生を歩もうとしてたんですね。あらたに学校にも行きたい、資格もとりたい。だけん、うちは一緒にいけんと久美ちゃんはあっさり返事をしました。かずお撃沈ですよ。

「俺だってネー、俺だってネー」と博多の街で酔っ払って喧嘩をするかずお。通りがかった田中(元祖スチャラカ社員)に助けられ慰められ。そして傷心のまま北海道へ。ボクはね、ここでかずお編は終わると思ってました。ところがまさかの大逆転劇。札幌タワー前での二人の恋は再び、、のシーンは何度読んでも泣けることが判明。て、誰がどう読んでも大平かずおが悪いんですけどネ。無事かずおと久美ちゃんはヨリを戻して結婚するんですが、その祝いの席での田中がまたイイんだ。「俺はネー、うれしいんだよ」としみじみ飲む田中。ここで夜の街でのかずおご乱心エピソードの回収、見事です。


クッキングパパのヘヴィネス。あの絵柄であのほのぼのしがちなハートフルストーリーの中で時折やるから説得力があるんですよね。かつて「こち亀」で年1頻度であった下町ノスタルジア物にも通じる涙腺破壊力というか。大平かずお編以外でヘヴィなエピソードを思い返せば、元荒岩班で宮崎県出身の吉田ちゃん編もそのジャンルに入る。吉田ちゃんは長年付き合ってきた恋人と破局し地元宮崎へ帰るんですけど、もうその男がネ、要するに徐々にフェイドアウト系ですよ。かわいそうに、吉田ちゃん。日々ご飯を作って待ち続けジ・エンド。夜の街をはるみちゃんは呆然と彷徨い、偶然屋台でラーメンを作ってた荒岩に一杯のラーメンを勧められ泣きながら完食。その後元気になるかと思いきや退職だもんな。忘れられない男と同じ街に住み続けていたくないという理由で宮崎帰還。今じゃ地元で結婚して子持ちのシアワセな主婦。て、ここまでサブキャラにエピソードを持たせたグルメ漫画ってクッキングパパだけじゃねえのって思うのです。

とまあ力説してみたんですが、その道の先駆者である柳沢きみおがすっかりその手の人生の苦悩を描かなくなり「特命係長シリーズ」でも「旨い唐揚げ屋があるんです」とかほぼ「大市民」化。一時期は(おそらくホープ軒のことだと思う)豚骨系のラーメン激賞だったのが気がつけば立ち食いそば、カップ焼きそばと嗜好がリーズナブルに。で、今は唐揚げだ。もう戻らないんですかね、柳沢ワールドは。人生の辛酸をこれでもかと真正面から描いていたハードボイルド期の作品が読みたい。「俺にもくれ」「流行唄」を最後にすっかりご無沙汰ですからね。あ、ボクシングものの「GYM(ジム)」、その続編「烈拳」てのもありましたけどね。これが1995年の連載だもんなァ。97年頃には「東京千夜一夜」みたいな短編連作の秀逸なやつも発表してたんですが、ビッグコミック系、数年ぶりの復帰が「SHOP自分」だもんなァ。1999年、つまり世紀末だったあの時代に発表されたんですよ。脱サラして古着屋開業、そして紅茶で染めたTシャツを裏原宿で売る話。主人公は鬱々としながらも日々町中華でチャーハンや冷やし中華に舌鼓を打つ青春群像劇なんですがね。まああの辺には昭和軒ってちゃんぽんと半チャーハンセットが秀逸なお店ありますけどね。ええ、行きました。ボクは割と頻繁に利用してたかも。最近はご無沙汰ですけど。

もはやボクの中で「クッキングパパ」はグルメものではないんですよね。連載初期〜中期はたしかにレシピを中心に話が進んでいたけど、今や話の軸はキャラありきだ。大平かずお&久美ちゃん、荒岩の近所に住む梅田夫妻(さりげに子供ができない悩みがある)、田中一家(気がつけば第3子誕生)、工藤くん夫妻(ここは双子)に伝統工芸の曲げ物を作るお爺ちゃんは孫が「後継者宣言」で感涙、きんしゃい屋のママに荒岩の息子、まことの幼馴染のみつぐくんは今や金丸産業の若手サラリーマンだ。エグッチと元パチプロで現在地元の新聞社に勤めるスーちゃん、ああ、名物キャラはあげだしたらキリがないよ。そう、スーちゃんはモラトリアムでしばらくフラフラしてパチプロやってたのに今じゃ見事更生してんだもんね。単に長く連載が続いてるだけじゃそれぞれのキャラの厚みは生まれないですよ。うえやまとち、恐るべし。個人的にはまこと沖縄編の宮古島出身、あゆみちゃんの切なさよ。てっきり沖縄編で進展するかと思ってたんですがね。結局地元の男と結婚、その報告のため博多を訪れるエピソードは必読。大平かずおの父もねえ、不器用なんです。東京栄転を「子育ては博多で」こだわり平気で断っちゃうエピソードとか最高ですよ。不器用は遺伝なんですね、大平親子。

と、長々と「クッキングパパ」をボクがどれだけ偏愛してるのかを書いてみた。アニメになったり単発ながら実写ドラマになったりしてるけど、願うことならこのままさりげなくコミックのみで続いて欲しい。だってもはや日本、いや、世界レベルでのファミリー・サーガ。実写化で世界観を壊されたくないもの。やるならオール博多ロケでNetfilx世界同時配信レベルで。山田孝之あたりが適役と思うがどうだろう。あのカメレオン俳優が荒岩をどう演じるのかって絶対ないから!無理!

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