散文詩 リリィ(2011年)

 くしけずられてはみかざられていく、どこまでも流れていく白痴のように碧い血の匂いがたちこめる。花曇りの空に綴じられていく、金細工の丈の高い王宮の一室で、きみの婚約者は眠っている、その名はリリィ、色褪せたブロンズ色の、タフタ織りに被われた膝を抱えて、薄い桜色を翳らせながら少し湿っている髪の毛、林檎色の朱味が指している灰白色の肌。触れただけで、さくさくと薄荷のように溶けてしまいそうな、繊細な銀結晶たちを宿らせた睫毛。すました耳の先で聴きとっている、深緑色をした、夜のやさしいベルベットの底で、生まれ落ちたままの姿でいなないている、青鈍色の子馬のすがたを。――花霞の匂い、ゆびさきで潰した木苺の酸っぱいノクターンを、風に揮発する水薔薇みたいにふきながしていく、銀細工の聖女たちや織天使たちの行列は、海を見渡せる山の手の街の、色彩豊かなショーウインドウで、飾られている――彼女の細長い手首は、ケルト人みたいな飾り文字を描く。ひとつの奇妙なカリグラフィーが、羽根をもがれて、黒い血の中に失墜していく、ぼくのつぶやく愁いの言葉に、別の世界への傷口を与える。とりどりの薔薇色をしている空のヴェールがその場所で、悲鳴をあげるように燃え上がっている。リリィ、彼女はいつでも、秋から冬にかけてきみの目の前で咲き誇ることができた、季節外れの百合の花の妖精、誰よりも愛らしい気違い女だった。

(2011年)

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