詩 アラベスク(2004年)

世界の体液は 苦すぎるから
プラットフォームで 吐きだそうとするだれかの影が
呼吸の隙間に 投げ放たれる
星々よりも上手にさえずることができる銀色が
においのない血と胃液に混ざって
歪んだ格子の 色鮮やかなアラベスクをつくりだしていく

そこに住んでいるぼくたちすべての夜の下
冷たい空気に囲まれて
ためらいがちに 白く遠のいていく静けさをかわす 
ぼくたちすべての口をつたって
まるで――まるで光に
切り裂かれていく歌の死が生まれる

涙の痕を 乾かしていく風の心地で
やってくる青ざめた陽射しのむこうで
重ねられた水紋が揺れ動いて さざ波をたてあっている

遠くのまどろみで分解されていくきみの体温
液状になった黄昏の 雲のむこうで
赤みがかかった色つき硝子の
ゆるやかに降っている薄い破片の雨のしたを
反射以外は 映し出すことのない真っ黒な道路のうえを
失くしたものと手を繋ぎながら 歩いていた時
 
何の約束もなしに突然
悲しみや喜びや
それらすべてに似た それら以前の別のなにかが
なにかが解き放たれてきて
掬い取ることもできない暗闇の淵から
その行き先をたどることもできない高い場所へと
すべてがその形をとどめたまま逆流していく
そんな気がした

遠くなっていく昨日の窓枠を飾り立てるように
砂粒みたいなきらめきだけが
透明にあてられたてのひらのまわりで
さらさら光って残されていた

(2004年執筆 2006年に推敲)

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