散文詩 死んだように笑う女(2007年)

リンドウの花の中で眠っていた。煤黒く濁った蜜がとろりと落ちてきて体中にかかってきた。沢山の微かな泡がたちどころに湧いてきた。
蜜のかかったところから、来ていたワイシャツもろとも全身がただれた。5ミリ四方くらいの泡の塊になって溶けていった。
痛みは特になかった。ただぷすぷすぷすぷすと音がした。
これは硫酸なのだ。

夏になったので虫たちが笛を吹いていた。
雨はばら色になり三四匹の岩魚がぴちぴちと路面で跳ねていた。
背後でぞぞっと音がした。
振り向いた。
とても美しいかんばせをした女が立っていた。
金色の髪の毛が異常なくらいに長いのがすぐ目に付いた。
少しウェーブのかかった髪の毛がその体全体を包むように、
まるでマントか何かのように、
一番下は地面の先まで降りていて、しかもそれでもなお十分ではないとでも言うように、何メートルも周囲に広がっていた。まるで王侯貴族のドレスの裳裾を見るようだ。そうしてその繊細すぎる海草のような、
たんぱく質の塊は西日を浴びてきらきらと七色に光っていた。
びっくりした。
すると彼女はしなやかな手つきで、右手であごの先をつねるような仕草をした。
そしたらその顔つきがすうっと剥がれていく。
彼女の顔面はまるでしぼんだ百合の花びらのようになり。
右手に優しくわしづかみにされた。
剥がれた顔のところには星空が映っていて、こちらからでもすぐ見分けられるくらいに、いくつかの星座が映えていた。
たちどころにアルコールを飲んだ後のような、とても甘くて気怠い気分が全身に広がってきた。

しばらくすると酩酊のあまり全身がしびれてきた。そしてもう少しすると全身が氷のように冷たくなってきた。
かすかな腐敗臭がする。
どうしようどうしようと感じていると、目が覚めた。

(2007年 その後推敲)

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