詩 時間の硝子(2004年)

夜の老廃物である
ひとつの人工世界樹のふもとで 
鈍い音を立てて沈みこんでいく青空の下を
遠のいていくきみの背後で
名も知れぬ土地からの 
揺れ動く黒い 光沢をもった翼の
尖った空飛ぶ生き物の群れが

次から次へと溶け始めていく
言語地層の丘陵地帯を 啄ばんでいく 
マグネシウムの 瞬きでできた
微かにまぶしい火花を散らして

それらすべてを映し出す
固体でも流体でもない 交合されるもの
少しずつ違う音色の悲鳴をあげてこの耳まで届く
塊になって

時間の脆い硝子の中で少しずつそれを飲み干していくきみ
何のためらいもなしに
呼吸と殆ど同じように唇が動く

その夜を 同じ夜を見るものはいない
天上の壁に 赤黒く引きずられた跡を残して
空の青みを焦がしていくように 
黄金色の燐粉を纏わせながら
陽が落ちていくのを木立から見とめて
 
―ぼくたちは 
黒く縁取られた星の下を生きている

(2005年)

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