散文詩 ひとえひとえに、降りてくる(2010年)

密室を無残に詰められて、すいこめられて、とりとめられて、ほのじろい霧を口からフーフー吐いている、灰かぶり猫のように、灰かぶり姫のようにいつも美来を隠している女のふりをする鏡の中に、閉じ込められて、外に出て行く/ますます内側に滑り落ちていくための隙間をさがして。
すりつぶされて、引き摺り下ろされて、首をしめられて、ひき潰されて、黒蟻になって、ジャスパーの色になって、白痴になる、明日からはきっと、億劫になる白い手袋をして、つなぎめをなくして、唾を吐く暇を、博打をうつための手間を浮かして、ほのかに隠れて、途方にくれて、そうとも、オニキスの舌の緩やかな丘の上で生活する少女の、縞瑪瑙・・・漏斗の下を流離して。

てのひらの静かなくぼみから、ほら、あなたたちの風景を映して燃える雫をたらして、空気と薔薇との、茎とが、ラピスラズリとコバルトブルーで歌うのを、可憐なうがい、きっといい、きっとあなたは見逃さない、彼も彼女も見映さないで、鏡はヴィジョンを、再現させる、華やいだ女は胸に両手を重ねてその部分だけまるくなったウサギみたいに、皮膚のしめりけを心地よくなめしていくひややかな映し身、塔の上に住む、ひそやかな口挿され、のびやかに口抑え、出て行く心地を差押えられて、指し違いになって、移し身は悲しい、息を吐く、からからに錆び割れていく人肌、黄昏に、たやがされ、フィルターで濾され、たやがされ、皹され笑み割れ、手繰り寄せられ、かよわい年月、からからと砂になって、さよさよさよさよ砂にうつって、珪素に、たやすく水気と見紛うばかりに、仮装して。

「すべて」という文字が、演奏されているCD読み取りディスクの虹を、マジックペンででたらめに否定して泣きながらプレイボタンを押す、少年世代、DVDの時代も去った、鏡の素肌ははだしになることもゆるさない、丸出しにもならない、投げ出されることもなしに、薄暮の縁に、地底市民たちの住む書き間違えられ、吐き違えにさせられた、いつでもどこでも方違えのために、和紙で折られたタリスマンに万年筆で目の顔を書く、承継文字、大都会の中心にくりぬけられた、空虚な穴で、羽ばたくことを夢見ている、マリーゴールド、投げやりになってまで自分の由来を名乗るがままにまかせる、彼女の目の前で、いたいけな人だと。

同調した、同衾した、同情した、彫琢した、承認した、白濁した、動揺した、同様に同じ、いつまでも同じ童謡が流され続ける最果ての国の夕べに、町の夕べに、とまどいこんで、迷い込んでは、良い子でいられず、気が動転して少しひょうきんになった、方解石の向こう側に見据えさせられる、街という概念に強迫観念を怯える、そんなにふるえた声色、それはまだ街が貧者たちの錬金術に陶酔していた頃だったということも多分に作用して、声色の桃色のお菓子の残骸が掬いそびれてしまっていたもの、そこでこそ転んで、こそあど言葉を、子供向けのお菓子つきの暗号を、暗礁していくマンモス通知を、あどけない、数値や暗示やアンチで掛け合い、分け合い、呪文の通信、呪物崇拝の経済、要するに通販ばかりで生活していく、ほどけた黒髪の手くらがりをゆびさきで掬って解いていくように、かかり結びになっているあなたを否定して。

だけれど言葉だから痛みを感じることもなく予感して、夜半のバケツの片隅に残された夕暮れの味を噛みしめる、見計らわれることもない、散々からかわれた、おくびにも出さないけれど、燦燦と日差しを浴びていた、ノロマな奴め!体ではらって、何もいいことはろくにない、ロクじゃないところにならある、ションベンをかけられてひどい、水浸しになる、水澄ましになる、見ず見張り塔の上から、鏡張りの、空威張りの、めしべの中に安置されて鏡、すっとヒトイチモンヂ、ヒト筆書きで、言質を取られて光が描かれ、確かに引きつり、蔦をつたって、裏を伝って、たどっていっては登攀していく、裏の裏から、綴り絵解きの、怪獣が現われて街を襲う、両手を折り曲げてさっきよりもずっとよく物になって、引力のように圧縮されて、体をひしゃめて物質みたいに確かめて、錯覚していき空を見る、さしだされた白い手首のために。アヒルのように、バルコニーにあるヒルガオのように、昼過ぎからは休憩にしろよアヒルのように!受け口の女、要するに受付嬢、ドアを開いて、咲きにでていく、白亜の色彩で象徴される、そういう唇をほら開いては、掟破りの、文字のレースに諳んじられる、確認不可能な恋人たちが歓迎している、つぶやきが、きらめきが、思い思いの片口が、つぶつぶ泡めくひらめきの、その片鱗が・・・ひとえひとえに、降りてくる。

(2010年)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?