散文詩 エストンピィ(2011年)

 天国の縁には、緑色と灰色とうすい桃色の雲が無数の渦巻きを形作って、たなびいていた。その下には、黒づんだ大きな蒼い山麓が広がり、左下の方、山の裾野では、矢車菊のように蒼い色ガラスで組成された街が、林檎のように酸っぱい香りのする美しい苔のようにこびりついて、広がっていた。

 街の中央には、白亜の大理石を紅や黄色や橙色で彩色した神殿がそびえ、毎晩毎晩、神官たちや、巫女たち、奴隷たちの楽しい祝祭の歌声が、まるで淡いいちご色をしている生きたうろこ雲のように鳴り響いていた。

 神殿の隅には、年に一度、たくさんの天使たちやこびとたちを引き連れてやってくる神様のために、アヒルの羽を生やした、ギリシア風の金色のサンダルを作っている職人たちの靴屋があり、彼らはみんな、朱色と緑色が混ざり合ったような、ざらざらとした皮膚をしていて、とても長い耳をしていた。その隣には、ずっと昔に地球上を支配していた地底人たちの末裔である、こびとたちの鍛冶屋があって、キンキンと音をたてていた。

 彼らはみんなとても背が小さくて、まるっこくて紅い顔をして、男も女もこどもも老人も、みんな地面にまで垂れるようなとても長いひげを生やしていた、というか、垂らしていた。

 この街の至る所には、ルビーやサファイアやエメラルドやトパーズでできた街灯が設置され、その中には、生まれた頃から死んでいくまで、燃焼していくマグネシウムの眩しい火の粉を周り中にまき散らしながら踊りつづける妖精たちが、無我夢中になってひゅるひゅるひゅるひゅる踊っているのだった。

 彼らは暗くなると起きだして、他にはなにもすることがないのでひたすらひたすら踊り始める、そしたら街灯たちは自分の素材の宝石にあわせてさまざまな色のやさしい明かりを、ほのほのほのほの燃やすのだった。そういうわけで、夜になると、山の手からは、暗い闇の中に、宝石箱をばらまいたような、街の光のきらめいているのが目に浮かぶのだった。

 山のなだらかな斜面にひろがっている藪や野原のあたりには、自分の影をさがす病にとりつかれた狂人たちや、魔女の使い魔たち、さすらいのアコーディオン弾きなどが暮らしていて、街のみんなが寝静まった時刻になると、麓一面に広がる七色の明かりを背景にして、野闇の中で、気分に任せて、どこか海の向こうにある遠い国の謎めいた言語で――歌うのだった。

(2011年)

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