散文詩 コラージュ/抽象的な子守唄 (2006年)

どんな城跡を巡っても/梅の花が咲いている/そういう土地に移り住む/薄暗い林道では/青い蝮の絖った體が/硝子の小箱に流し入れられ横たわる/桃色のカスミ草が血まみれの子宮を吐き出して/切開された臓物を惜しげもなくさらしている/白い花瓶から蛇が一匹にゅいっと首を出す/そのまま静かにうなだれる/新聞紙がひとりでに折畳まれる/真鍮製のドアノブがぐぎっと廻転すると/シーツの上で両手両足を縛られている/滑らかな鱗をつけた魚のように/なんとはなしに横たわっている/椅子に固定されて猿轡を咬まされている/少女は瞳をぱちくりさせる/むせかえるような正午の暑さは/粉石灰になってくずれ落ちる/ガラス鉢に入れると嬉々として泳ぎ始める/言い淀みをつたって何かがひとすじ降りてくる/骨髄細胞を顕微鏡から透かして見ると/ステインレスのテーブルに黒紫のインクが付着している/しいっと擦ると/指紋の残滓がすみやかに拡散する/蒼い/とてもやわらかい焼却炉で/重たいものたちはみんなすべすべになる/コーヒーリキュールが皿の上に落ちる/黒いベロアジャケットの袖の裏地で/塵のような静電気がぱちぱちと爆ぜる/白いトカゲの尾をつけた/死装束の天女たちが/一列になって雲間をしずしずとスライドしていく/一雨きそうな気配がしている/茂みの奥ではキツネノカミソリが/橙色して咲いている/振り向くと/プラットフォームで同僚の少女が/うつむき加減にタバコを吸いはじめる/街灯のネオンの光線に/浄められた雨がからっぽになった愛を歌う/ティーカップが床に落ちて砕ける/どんな仕打ちを受けたとしても/陶器の破片というものは/陽に当てられるときれいに見える/無関心な四つの星ヶが/情緒不安定気味の地球を囲んで/現代風味のカドリールを踊る/藪の中で/赤い着物の一人の少女が/くたりと倒れて寝息を立てている/蛇に咬まれた/あらわな左の二の腕で/朱くて小さな歯型から/ひとすじの生命が滴り落ちて/気絶したまま夢を見ている/秋頃蝮が人を噛むのは/そうしとかないと卵を産んだりできないからだと/何かどこかで読んだ気がする/中指と薬指と小指を挿し当てて/青白くすべすべした伝票をめくると/色とりどりに裁断された紙切れの山から/細長くてすらっとした紙切れだけを抽き出す仕事を与えられて/その頂上へと果てしなく続いている/旧い城跡へと続く坂道を/重力に反した気流に乗って/奇妙な小石が/ころころころころ/転がっていく/そのまなざしの水平線で/永久機関の雲たちが/抽象的な太陽の子守唄を/ふわふわふわふわ/くちずさんでいる/それから多分/空の青みに隠されて/目には見えない真昼の星座は/耳に聴こえない光になって/手にはとどかない空の彼方で/うつらうつらと/くつろいでいる。

(2006年ごろ執筆し2008年頃完成)

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