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小説 宝石箱の住人(2003年)

 こうして彼は彼女の指を切り落とす。まるで銀の針金でできた女の指が水銀のように融けていき、そこからサファイアでできた植物が生えていく。それはそのうちちいさな黒い実をつける。男たちはその果実を食べて、その全身を真っ赤なルビーに宝石化させる。すると宝石箱全体が光を放ち、伯爵夫人はその光を浴びることでその若さをたもっていく。

 このような生態が伯爵夫人の宝石箱の中にある硝子のジャングルにおいて観察されている。だから彼女の誘いに乗ってこの宝石箱の中を覗いてはいけない。もしもあなたがこの宝石箱の中を覗き込んでしまったら、あなたは有機体としての特徴を喪失して宝石箱の住人となってしまうのである。

 そういうわけで、宝石箱の住人は紅いビロードの内張りの中にある硝子のジャングルの中でくらしている。普段は男も女もただの銀色の体をしているのだが、ひとたび伯爵夫人が宝石箱を開けると、順番が訪れた男たちは人形遣いに操られるように、自動的にそれぞれの鉱物質の女の両指を切断しなければならなくなる。勿論自分たちの全身を発光させるためだ。彼らは発光によって完全に非-物質化して、硝子の中へと吸い込まれていく。

 そういうわけで彼らが生殖活動を行う事は完全に不可能であるがゆえに、伯爵夫人の宝石箱は常に新しい住人を補填していく事を必要としている。

(2002年)

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