詩 ラピスラズリ(2011年)

赤い柘榴の実が黒い道路に落ちている
その傍で風に揺れている
カタバミの花のように白い
きみの亡霊は
金木犀のように
甘い匂いを薫らせていたっけ
藍色の枯葉が
薄い桜色の空に散っていくのを背にして
ハチミツの色をした豊かな髪の毛が
湿った空気に輝いていたっけ
消毒液の
塩素の匂いが懐かしいってきみはいう
どんな景色を
写真みたいに
魂の形に焼き付けていたの
きみの真っ黒になった肺を愛でるように
自分自身を惑わす言葉が出て行く口もとを
白いフリルの着いた胸元に押し当てた
緑色に透き通った美しいかけらたちに囲まれて
大学病院のその部屋のベッドに
革紐を通された小さな銀細工の教会が
忘れ物のように
置き去りにされて
セピア色に冴え返っていく
ラピスラズリの空の蒼さを
憧れみたいに反映させてた
それはぼくたち二人のために用意された
結婚式場
石畳の上に
鹿の子百合の花が散り敷かれて
雨にぬれているのを
見過ごしてしまえる
冷ややかな世界に
向こうをはって
きみは会うたび                        
つまらない真実よりもずっと本当らしい
嘘をついてた

僕はといえば
言い捨ててしまった悲しい言葉を
裏返しにして
血のように酸っぱい
きみのからだを昏々と脈打っている
だれにも見えない真実を
世界に繋ぎ止めておくことのできる
黄金色をしている無意識の鎖を
いつも探して
歩いていたっけ

(2011年)

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