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「JDC全日本選手権 in 大阪」初遠征の全記録

 2022年の春、ホーム教室でのことだ。少々古びてはいるが丹念に磨き上げられた窓ガラスに貼られた一枚のポスターを僕は見つけた。
「大阪であるんですよ」背後から音もなく歩み寄って彼は言った。「全日本選が大阪であるんです」
 窓の外には細かい雨が降っていて、教室の中は水族館のようにひやりとしていた。
「これはひとつの…小さな疑問なのだけど」と僕は言った。「これにはきみも出場するのかい?」「きみも出場するのかい」
 彼は鏡越しに「ちょっとよくわからないな」という表情を見せた。


すみません、永遠に大阪に到着しないので普通に書きます。やれやれ。

三連休の旅行に合わせて、大阪で行われた社交ダンス(競技ダンス)競技会「JDC全日本選手権」に行ってきました。

土日に関西旅行を楽しんだのち、日曜の夜に会場のホテルに入ったのですが、まずフロントの暗さにびびりました(ホテルの方は親切でした)。フロントから私の部屋までの導線がやけに複雑で、教えられた通りに進むも予想通り迷い、なぜか絶賛撤収中の宴会場に到着。作業中のホテルマンに道を聞くも、声が小さすぎて聴こえない。なんとなく促された方向に向かったらエレベーターがあってほっとしたところ、背後にそのホテルマンが忍び寄っていてめちゃくちゃびびる。多分、このエレベーターで上がれと教えるために着いてきてくれたのだろうけど、やっぱり声が聴こえない。いまの人、実在してたのかな…と不穏なことを考えながら古びた薄暗い廊下を歩いてようやくたどり着いた部屋が…やっぱり暗くて古い。

やばい。これはやばい。なにしろ鍵が鍵だ。えーっとつまりカードキーとかじゃなくて鍵。エアコンとルームライトのスイッチ(回すやつ)が枕元にあって、エアコンは壁から噴き出すタイプ。若い方は何を言ってるのかわからないだろうけど、つまりすっごく昭和仕様のホテルです!

やばいところに来た。これは出る。なんか出るよ。やばいよ。
なんだよ、結婚式場もある伝統的ホテルだってHPに書いてあったじゃん。仮にもダンスの競技会やるホテルじゃん。写真と全然違うじゃん!!
びびりまくって思わず夫にLINEビデオ通話をし、部屋の構造を全部映してみせたら、「それは出るね。昔、戦場だったとか墓場だったとかそういうとこだよ」と爆笑され、通話を切った後、ご丁寧に、大阪万博のために建てられたらしいよという情報が送られてきました。
大阪万博っていつの話だよ(泣)

半泣きで睡眠剤を飲んで寝たものの、よりによって丑三つ時に目が覚めて、さらに睡眠剤追加(やっちゃあかんやつ)。なんとか朝を迎えました。

・・・しまった。ホテル前泊までの話で1000字使ってしまった。根気のある方のみ、この先へお進みください。

夜が明けて目覚めると、そこは、古いけれど、まあまあ普通の観光ホテルでした。
ゆっくり起きて、お昼前に会場入り。ホテルにしてはチケット安いと思ってたけど、なるほど円卓がない。体育館のように椅子がぐるっとフロアの周囲に置かれているだけ。それも2列。3列目は立ち見用スペース。豪華さはないけど、フロアが近くてめっちゃ見やすい。しかも私の席は個人的に大好きな「コーナー1列目」の席でした。ここ、さえぎるものがなくて、全体を見渡すのに最適な良席なのです。
ちょっと残念だったのは、コーナーギリギリすぎて、目の前にジャッジが立ちふさがりがちなことでした(ということくらい気づかんか)。私、noteではいろいろ言うわりに試合会場では四の五の言わない人なのですが、さすがにこれはなかろうと思いました。フロアから出るとジャッジは選手を見づらいだろうが、1万5千円払ってる私がそのせいで選手を見づらいのはいくらなんでも納得いかん。と思って運営に伝え改善していただきました。

そういうちょっとした雑さはありつつも、大会全体はとても楽しく素晴らしいものでした。

また大会の話からずれて恐縮ですが、私は五感(特に聴覚)が過敏気味で長時間試合を観ていられないので、小休憩のためにホテルのアフタヌーンティーを予約していました。なので、お昼前に現着して、シルックのH.Oさんにご挨拶したり、会場のお席確認をしたりした後、さてメインが始まる前にちょっとお茶を…と思って、気軽にカフェへ行ったのですが、ものすごい量の料理が運ばれてきて茫然としました。
えっ、これティーなの? どう見ても軽食じゃないよね? サンドイッチで立派に一食分。小皿いろいろ。それとは別に三段スタンドがふたつ。
ふたつ???

今回、試合の合間に短いダンスタイムが予定されていまして。私はフリーダンス苦手だし別いにいいかな…と思ってシューズも持ってきていなかったのですが、多分現役じゃない先生方がお相手だろうし、ということは選手会のパーティーでは踊る機会がない方々で、しかもJDCのOBにはあの先生もこの先生もいるよね…と思うと、やっぱり参加するか!という気分になって席を立ったら、「お客様、この後もデザートが出ます!」と止められました。まじか…。焼肉チーズサンド(!)もローストビーフ(!)もケーキもプリンもゼリーも食べたよ、これ以上何が出るんだい。大阪のアフタヌーンティーおそるべし。

というわけでダンスタイムは断念して、メインセッションに合わせて席に戻りました。
今回、予選の前から全選手のオープニングパレードがあるという豪華さ。コーナー席だったので、先生方と目が合いやすくてラッキー。にも関わらず、自分の先生も見つけられない私。「こっち!僕こっち!」と手を振られるまで気づきませんでした(相変わらず目の焦点がおかしい)。

さて。
席の位置と選手との距離の近さから、邪魔されずに動画が撮れる、滅多にない理想的な場所だったので、初めて撮影料を払って動画を撮ることにしました。普段はうちわを渡されてもほぼスルーして(すみません)、ひっそり静かに観戦している私ですが、遠征までしたことですし、思いもよらぬ良席だったことですし、同門の生徒さんが誰もいない上、西部チャンピオン柴田組の大応援団に囲まれた完全アウェイの状況になんかよくわからん火がついて、予選から先生の動画を撮ってはLINEで爆速で送る、というサポーターに徹しました。先生の予選ヒートに私的スター選手が揃っていたのですが、残念ながら他の選手はほぼ観ていませんすみません(私の動体視力は死んでいるので、一組を追うので精一杯なのです)。

さて、準決勝前の幕間。通常だとディナータイムですが、それがないのも今回よかったです。コンペのディナーってだいたいアレですからね…。
幕間は、スペシャルショータイム。なんと山本英美先生がゲスト。その後はバルカー瀧澤会長の熱いスピーチ。いつも思コロナ前は、正直言ってマンネリ化した競技会と変動しない順位に辟易していた私ですが、去年のフリーダムズカップ以降、競技会のたびに新しいことを取り入れてチャレンジするJDCの姿勢にはとても好感を持っています。実際、他団体のコンペに比べたらだいぶ楽しい。何が楽しいかといって、とにかく観客ファーストなんですよ。それが肌で感じられることが一番です。そういうものは、理屈なく伝わりますからね。

いつもとてももったいないと思うのは、「面白いことやるよ」という情報が、なかなかうまく広報されないことです。なんなら所属選手さえ知らない。「超絶面白いこと」を、運営の方々が「超絶面白い」と気づいてないふしもある。「面白そうだから観に行く」というのが人の行動として自然だと思うのですが、ダンス界、「面白い情報を観に行った会場で知る」、という逆転現象が起こりがちなのです。それってすごくもったいないことだと思います。

さて、その後、準決勝、決勝と進むスケジュールとなっており、私もそろそろ全体を観たいと思ったので、動画撮影は定点カメラに変更しました。そして準決勝の動画を先生に送ろうとしたところに、突然始まる増田塚田組のサプライズショー。

へ???

ここでそれぶっこんで来ますか?

いや…もうね、あれだね。JDCのコンペは「何か起こる」と思ってた方がいいね(褒めてる)。予定調和はないんだね(褒めてる)。
ごめんね、先生。準決の動画送信が遅れたのは、このサプライズに私がフリーズしていたせいです。

この1年で選手がはなれ、率直に言ってすっかすかの選手層だったJDCに、スター選手が戻ってきたり、他団体からの移籍があったりして、久しぶりに白熱した決勝戦を観ることができました。
大阪まで遠征した甲斐があったなあ、と感慨にふけりながらホテルの部屋に戻ったら、やっぱり何か出そうな雰囲気でした。その夜は若干の金縛りに合いました。

完璧な遠征などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。

(おわり)

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