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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三部 六章 リベルタドーレス ~解放者たち~
921.それ専用

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 レイブは首を傾げてハテナ顔だ。

「それ専用? 何だっけ?」

 即座に答えたのはペトラである、安定の賢さが窺える。

『ほらアキマツリの帰り道、デスマンのクロトさんを治療した時にバストロ師匠が言ってたじゃない! あの時使っていた刀身が赤いナイフの事じゃ無いの? ね、そうでしょう? バストロ師匠ぉ』

「それそれ、魔獣の治療、余剰な魔力を血液を抜いて安定させる時と、成長し過ぎてしまった竜の鱗を剥ぎ取る時にな、それ専用のナイフが必要になるんだけどな、俺のヤツは師匠から受け継いだボロっちいヤツだし手入れが面倒だからなぁ~…… 折角だからお前には『鍛治王の里』製の新品を買ってやるぞっ! それだったらメンテナンスも簡単だからな! どうだ? 嬉しいだろう?」

 レイブは約束通りバストロが返してくれたチッターンのナイフ、『ゼムガレのナイフ』を見つめながら、何やら逡巡中の様である。
 数分間も手元のナイフを見つめて固まりを解こうとしない兄に、ギレスラが拙い言葉で声を掛ける。

『レイブ? ドウシタ、ノ? アラタシイナイフ、ホシクナイノ? ガッ?』

 お、惜しいっ! もう少しでちゃんと会話できる、小さなギレスラもそこまで成長しているようだ…… 頼もしい……

 レイブはナイフに向けていた視線を師匠であるバストロに戻しながら言う。

「ねえ師匠、このゼムガレのナイフを使う方法って無いのかな? ハタンガの思い出の品物だし出来ればこれを使いたいんだけど……」

「ん? そうなのか? それ専用以外のナイフをか、ふむ……」

 そう答えたバストロは顎に手を置いて何やら考え込むようにした後、頷きながら言葉を続ける。

「まあ良いだろう、かく言う俺も最初の内は専用外のナイフを使っていたしな! ただし、面倒な仕事が幾つか増える事になるぞ、それでも良いのか?」

 レイブは表情を輝く笑顔に変えて答える。

「うん、全然良いよ! このナイフを使えるんだったら一所懸命頑張るよ!」

「良し、じゃあまず用意する物はな――――」

 真剣な表情でバストロの教えを聞いていたレイブは、翌朝から、入り口で眠るジグエラの巨体を乗り越えて、残雪の谷を駆け回って、必要な材料探しに奔走する事となったのである。
 バストロが告げた必要不可欠な物、それは『にかわ』、しくは『のり』であった。

 『にかわ』の主成分は動物の脂肪や皮、骨の髄や腱から煮出すゼラチン、皆さんに判り易い表現で言えばコラーゲンである。
 バストロは元来が狩人の子供である。
 当然の様に鳥や野生動物、モンスター化していない獣から『膠』の材料を集める様に薦めた。

 これを聞いたレイブは露骨に顔をしかめる。
 何故なら、そこら中に邪魔な位に溢れているモンスターに比べて、野生動物は極端に少なくなっている世界なのである。
 大地は常に魔力を生物達に魔獣化、竜化、又は石化の試練を与え続けている時代なのだ。

 比較的影響を受け難く原初からの姿を保ち続けている種と言えば、空を飛ぶ鳥類と水中で活動出来る魚類、両生類がほとんどなのである、ああ、後は知恵があり助け合い、共助を知る人間と彼らの家畜位だろう。

 鳥、魚、両生類…… レイブの躊躇ためらいは、正にこれにあった。
 古来、ハタンガではこの三種を神聖視する向きがあり、彼の地を離れた二年前のレイブにも、その認識は確りと受け継がれていたのである。

 バストロが言った。

「鳥や両生類が嫌ならさっ! 魚や虫たちを集めて来いよレイブ、それなら簡単だろう?」

 気楽な感じで言ったバストロに返したレイブの表情は必死、その物の全否定である。

「さ、魚は王様、だよっ! 昆虫だって建国の忠臣、英雄なんだからぁっ! 簡単? いやいや、そこだけは不可侵でしょ、おじさんっ!」

「お? おう、そうか…… 済まないぃ……」

「全くぅっ!」

 そんなやり取りを経た結果、レイブの『それ専用で無いナイフを使うための試練』、それを為すために必要なアイテムは『糊』に確定されたのである。



お読みいただきありがとうございます。
感謝! 感激! 感動! です('v')
まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、
皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。
これからもよろしくお願い致します。
拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。

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