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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三部 六章 リベルタドーレス ~解放者たち~
891.放浪の旅

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 師匠たち世代のスリーマンセル、三者は同格とは言え、やはりニンゲンの集落を放浪する際にリーダー的な存在となる、魔術師バストロが出発を宣言する。

「じゃあ、行こうか? すぐに冬だ、なあ皆、今度も目一杯稼ごうや、出発だっ!」

『行きましょう! いつも通りの退屈な旅をっ! 道行きに語られる物語を楽しみながらっ! お待ちかねの旅が始まるわぁ! 放浪よぉっ! グアアアアアアァァァーッ!』

『ブフォフォフォフォォ! 行こう行こう行こうっ! ズンドンズンドン、さあ、歩こう、歩けぇ歩けぇ、ドンドコドン、ドドドドド、ズンドコドンドコ進めや進めぇ! ブホォゥ!』

 歩けドンドン、進めズンドコ、このフレーズは秋の放浪には無くてはならない物である。
 冬篭りの前に不足している物資を持って放浪者が商売に来たよ、そう集落や隠里に知らせる為の調子、判りやすく言えばご覧になっている皆さんの時代の、広目屋ひろめやや東西屋、ムツカシイ言い方をすればチンドン屋の用を成しているのである。

 秋の野を越えて地に響くドンズンドコドコの音を聞いた人々は、余剰な穀物を持ち寄り、放浪者の訪れを今か今かと待ち焦がれるのである。
 因みに集落で必死に生きる人間達は、この放浪者の訪問を『マツリ』と呼んで密かな楽しみとしているらしい。

『マツリ』と言うか、魔術師を中心としたスリーマンセルの『行商』、は通常一年に二回、人が住み暮らす里を訪ね歩くのが慣例である。
 今正に実行中の冬篭り前の晩秋と、雪が解けて草花がチラホラ姿を見せ始める頃、早春だ。

 とは言え、オーディエンスの皆さんが想像するであろう春と、極北に近いこの場所の春と言うのは無論違っている。
 賢明な諸氏には必要ない説明だろうが敢えて言うとするならば、想像の通り、初夏に近い季節だ。

 当たり前だがこの『マツリ』の間、冬は長い、なんと九ヶ月にも及ぶのである。
 それ程の長期に渉る冬篭りに、少しでも彩りや楽しみ、安心を加えようとする人々の思いに因って、秋の放浪、『アキマツリ』は放浪者にとっては収穫が多い物となるのが常なのである。
 俗に言えば、儲かる、そう言うことだ。
 自然音頭を取るヴノの声も大きくなるのである、遣り甲斐やりがいゆえだろう、判る。

 予断だが、初夏、この地の春に彼が発する音頭は、『ホロホロホロ』だとか『ポッカポカ~』とか『ソロソロソローリ』とか言う、どこか気の抜けた物が多い様だった、利益が窺い知れるな……

 兎に角、常に貧しくてともすれば飢える危機に瀕し続けている魔術師達が、一年に一度、豊かになるかも知れない、そんなチャンスが秋の放浪、『アキマツリ』だったのである。
 収穫に反して放浪の期間は短く、お馴染みの村々をぐるりと周回するだけである。

 逆に『ハルマツリ』では需要は少ないが放浪期間は『アキマツリ』の倍以上になるのが慣例だ。
 暖かくなって行う放浪は、集落間の移動中や周り終えた帰路等に、あちらの谷にはたまたこちらの山へ、と言った具合で寄り道、と言うのとは少し違うが、自分達が任されている領域内を可能な限り巡回して回るのである。

 いざと言う時のねぐら探しや狩場や水場の確認、魔力災害跡の様子を調べたり、魔物が大量に棲息している森林の周囲に設置してある、スタンピードを報せるアミュレットの調整等々、長い時は短い夏のほとんど全てをこの放浪に当てているのである。



お読みいただきありがとうございます。
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まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、
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これからもよろしくお願い致します。
拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。

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