【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~
第三部 六章 リベルタドーレス ~解放者たち~
922.糊
『糊』。
言うまでも無く植物性の粘性物である。
海が遠く離れたこの場所では、穀類や豆類から抽出できる、所謂、トロ~ンとさせる物質である。
ほら、エポタージュ、いやポタージュなんかにとろみを付ける時に煮詰める粉だよね。
グラタンとかカレー南蛮、片栗で固める麻婆豆腐とかもそうだよね。
無論、『糊』の接着力は『膠』とは段違い、脆弱だ。
それゆえに大量に集めなければならない、より濃縮、煮詰めなければならないからに他ならない。
穀物の収穫期とは真逆の早春にである、普通なら不可能だと誰もが断じて終いだろう、がっ、レイブはそうではなかった。
レイブには秘策があったのである。
こんな事もあろうかと、などと言う訳ではなく、この二年弱の間に訪れた様々な塒の近くの岩室や大樹のうろに、ドングリや花々の種等を隠していたのだ、口寂しい時のおやつ代わりに。
ゼムガレのナイフをそれ専用の代わりに使うと決めた時、レイブはこれらの備蓄を全て放出する事を決意したのである。
故地であるハタンガの思い出の品を使える事に喜びを感じていた部分は有ったが、主な理由は今回の冬篭りで入手した技術によって、石化を恐れる事無くモンスターのフレッシュミートが食べられるようになった事であった。
育ち盛りの体には、やはり高タンパクな物がより美味しく感じられたのだ。
冬篭り用の鍾乳窟の周囲、谷中に隠された備蓄場所は合わせて五つ、数日中に全てを集め終えたレイブは満足そうな呟きを漏らす。
「我ながら良くぞここまで集め、そして見事に隠し潜ませた物だよ…… それもこれも前回の冬篭りがひもじ過ぎたからだけど…… んまあ、これだけ穀類が有ればたっぷりの『糊』が作れるぞ! 明日から作業だ、良かった良かった♪」
朝の内に煮炊き用の土鍋に入れて溶かして置いた雪由来の水に、木灰と備蓄品を浸したレイブは、鼻歌混じりでバストロたちの元へ歩いていった。
『ほらレイブお兄ちゃん来たよ、だから機嫌なおして、バストロ師匠』
「漸くか…… お忙しいこって、さぞ充実した日常なんでしょうねぇ~」
『グガ…… キョカシタノハ、ジブンジャン……』
「けっ!」
「ど、どうしたのさ! おじさん、いや師匠、なんでふてくされちゃってるんだよぉ! 良い大人が拗ねたら恥ずかしいじゃないかぁ!」
「へっ!」
「えええっ!」
両の頬を膨らませてそっぽを向いてしまっているバストロとはまともな会話も成立しそうも無い。
おどおどとした表情を浮かべてワタワタしながらキョロキョロと視線を泳がせていたレイブを救ったのは、例の賢すぎる黒猪、ペトラの声である。
『レイブお兄ちゃん! 何だかバストロのお師匠が挙動不審なのよっ! ほら、この間、神様が言っていたでしょう? 『もう何も言う事は無い』的な事をぉっ! だけどね、バストロ師匠に禁断症状が出ちゃったみたいなのぉ! 何か昼過ぎぐらいからね、『神は、神は我等をお捨てになってしまったのかぁ!』、 とか何とか叫びだしちゃってね! それ以降、狂ったように『お言葉、お言葉』って言い続けているんだよっ!』
「えっ、えええええっ!」
『グガッ、バストロ…… コワレチャッタ…… グガァラァァ……』
思いも寄らなかった自らの師匠の精神崩壊、その緊急事態に接した少年、レイブの判断は素早い物であった。
一瞬の思索の後、自身のスリーマンセル、子竜ギレスラと黒猪ペトラに向けて、大きく手を広げたレイブは叫んだのである。
「ギレスラ、ペトラっ! 合体だぁっ!」
ピョンッ! ×2
ガッシィッ!
レイブの言葉を受けて、無言のままでその両腕に飛び込んできた友を確りと抱きかかえ、合体を果たしたスリーマンセルからは紫色の後光が迸る。
「おおおお、おおぉぉ、か、神様ぁ、アゲバレホレェ~ェェェ!」
禁断症状真っ最中で、ニンゲンやめかけの狂信者、バストロからは意味不明の声が漏れている。
紫光が納まるまでの僅かな時間を経ただけで、レイブは表情を落ち着き払った大人のそれに変えて、自分の師匠、バストロに言って聞かせるように落ち着き払った声音で語り出した。
お読みいただきありがとうございます。
感謝! 感激! 感動! です('v')
まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、
皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。
これからもよろしくお願い致します。
拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。
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