【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~
第三部 六章 リベルタドーレス ~解放者たち~
898.異変
ほんの僅かな間を置いてバストロの横に着地したジグエラと、ギレスラを背から降ろしたヴノの言葉が前後する。
『そこにいるのは誰だい! さっさと姿を顕すんだね、さもなければここら一帯を焼き尽くしてしまうよ!』
『レイブ腹の下じゃ、お前らも早くせい、ジッとしとくんじゃぞ』
どうやら脅しでは無い様で全身の鱗を激しく明滅させたジグエラの口には、炎が見え隠れしている。
レイブはペトラを抱き上げて、既に避難済みのギレスラを追ってヴノの腹の下へと駆け込む。
バストロも隻眼を周囲に油断無く配りながら、体内の魔力を練り上げ全身に循環させて、身体能力の底上げを始めその肌色を青色に変じさせて行く。
やがて、鮮やかなコバルトの両拳を胸の前に構えたバストロの全身は、金属の様な光沢を帯び、額には大きく突き出した一本の角が現れるのであった。
緊張感が周囲を包み込む中、場違いな声が掛けられる、前方の湿地帯からだ。
『待て待て、儂じゃよ儂、ヴノ、ジグエラ、バストロ~』
ヴノの前足に隠れながらレイブが見ていると、湿地帯の葦の間から長い鼻が姿を顕して、髭の生えた鼻先をヒクヒクと動かしている事が判った。
鼻はどんどん高く太くなって行き、やがて気配と声の主は全身を見せたのである。
長く歪に折れ曲がった鼻にずんぐりと丸く赤褐色の毛皮に包まれた体、四肢には水掻きを有した強靭な爪の掌を持ち、申し訳程度の小さな目、平たく長い尾を縦に生やした姿は、ここ極北に住む水棲のモグラ、ロシアデスマンのまんまである。
但しサイズはヴノと同程度、一目で歳経た魔獣である事が瞭然であった。
『なんじゃお主か、脅かしおってぇ』
『趣味が悪いわよクロト! 本気で燃やす所だったわ』
親しそうに声を掛けるヴノと、準備済みだった炎を消失させるジグエラの横で、一人臨戦態勢を解かないままのバストロが言う。
「待て油断するのは早い! おいクロト、その凶悪な魔力は何だ…… 普通じゃないぞ」
クロトと言うらしいロシアデスマンの魔獣が答える。
『そうなんじゃよバストロ~、どうにも上手く行かぬのじゃよ~、魔力が抑えられぬのじゃ……』
バストロは驚いて返したが、その表情からは既に緊張は消え、額の角と全身の光沢もゆっくりと元通りに戻り始めていた。
「抑えられない? アンタほどの魔獣がか?」
『そうなんじゃよ~、そこで頼みたいんじゃよ、少し抜いてくれんかのぉ~、バストロよ~』
肌色も普通に戻ったバストロが悩んでいると後ろから声を掛けるのはペトラである。
『早くやってあげて! 急がないと爆ぜちゃうわ! デスマンは後ろ足の付け根、外側よ!』
「っ! そうなのか? だが何故お前がそんな事を――――」
『急がないとっ!』
「お、おうっ! よし急いでナイフを――――」
慌てて大きな背嚢の中を探し始めるバストロにレイブは自分の腰に挟んでいた護身用のナイフを差し出しながら言う。
「おじさん! ナイフならここに有るよ! 使って!」
「いいや、普通のナイフじゃ駄目なんだよ、それ専用のな、良しっ、コイツだ」
それ専用らしいナイフを掴み、クロトの体毛を手掛かりに登りながらバストロは言う。
「レイブ、空き瓶を有るだけ持って真下に来い! 出来るだけ持って帰ろう! クロト、お前の血、無駄にはせんからな」
『任せるぞ~、早くやってくれ~』
「師匠持って来たよ! はいっ!」
レイブが投げた一つ目のビンを片手で受け取ったバストロは、もう一方の手に持ったナイフをロシアデスマンの魔獣、クロトの後ろ足の付け根に突き立てて、そのまま僅かに捻るのであった。
お読みいただきありがとうございます。
感謝! 感激! 感動! です('v')
まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、
皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。
これからもよろしくお願い致します。
拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。
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