【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~
第三部 六章 リベルタドーレス ~解放者たち~
870.焦眉の急(挿絵あり)
少年は走っていた。
荒地だと言うのに足を取られる事もなく、平坦に整えられた街道を行くかの如く、しっかりとした足取りで大地を蹴り続ける。
少年は思う。
――――もう少しでヘタ村だ、その先はカティリク、早く誰か大人に伝えなくっちゃ!
焦っているのか、走る速度を更に上げた少年は息一つ乱していない。
それ所か口を真一文字に結んだままであり、凡そ運動中には見えなかった。
恐らく何かのスキルを使用しているのであろうが、この様に幼い子供の内からそんな真似が出来るとは、甚だ珍しい事である。
私の経験上、人間がスキルを使い始める年齢は、十代前半からだと認識している。
古い言い回しであれば第二次成長期と同時期の筈である。
どう見ても少年は十歳が良い所だろう、若しかしたらもっと幼いのかもしれない。
魔獣やモンスターを両親に持つ生物や、悪魔同士の間に生を受けた者ならばもっと早い時点で使える事も珍しくは無いが…… 驚きだ。
おっと、興味深い光景に目を奪われ自己紹介が遅くなってしまった。
私は、そうだな、ウォッチャー、観察者とでも名乗っておこう。
無機物の道具に触れる事で、以前の所有者の人生や思いを観察し、時に経験を共有する者だ。
では観察に戻ろう。
少年は速度を落とす事無く、質素な板壁に囲まれた集落へと駆け込んで行く。
先程少年が思っていた内容から察するに、ここがヘタ村なのだろう。
立ち止まる事無く素早く周りを見回した少年は、再び心中で考える。
――――ヘタの人たちも石に! ここまで届いちゃったんだ…… カティリクまで走らなくっちゃ、でも、魔力が足りないかも……
少しだけ迷いを表情に浮かべた少年だったが、次の瞬間、覚悟を決めたように顔を上げ、速度を落とさないままで村の中を走り抜けて行った。
通り過ぎた場所の周囲には石像の様に固まったままの、この村の住民だった人々の変わり果てた姿があった。
見るからに幼い少年が、涙も流さずにその中を走り過ぎる様は一見して不自然でどこか異様な光景に見える。
彼は村内の配置を良く知っていたのだろう、迷わず村の反対側の出口に向かうと、振り返る事無くその場を後にした。
ヘタ村から走り続けて既にどれ程の時が過ぎただろうか。
真上近くにあった太陽が早くも赤く少年の右頬を染め始めた時、少年は驚愕の表情を浮かべ、遂にここまで動かし続けていた足を止めたのである。
疲れは無いらしく呆然と立ち尽くしていた少年の口から、まだあどけない呟きが漏れる。
「これはカティリクの守護獣グランドディア…… ま、まさかそんな…… か、カティリクまで…… う、ううう、うわあぁん!」
泣き出した少年の目の前に広がった草原には、元は人間の数倍の大きさだったであろう、巨大な鹿の魔獣十数匹が、血だらけで倒れている、何とも惨たらしい場面が広がっていた。
既に事切れているのは幼い少年でも判る。
全ての鹿がバラバラになっていたからだ。
それも、まるで内側から爆発したかの様に四肢や頭部、腸を撒き散らせて、である。
少年の呼吸が見る間に荒くなる。
無理も無いだろう、この歳でこんな場面に遭遇した事など無いのは想像に易い。
まだしゃくりあげながら涙を流していた少年だったが、少しよろめいてから口にする。
「と、兎に角、か、カティリクの集落の中まで行ってみよう、誰かがまだ残っているかも知れないし…… あっ、そ、そんなっ!」
お読みいただきありがとうございます。
感謝! 感激! 感動! です('v')
まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、
皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。
これからもよろしくお願い致します。
拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。
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