【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~
第三部 六章 リベルタドーレス ~解放者たち~
907.アンガーモンスター
「な、何だ?」
思わず呟いたバストロの声に被せる様に、少年のハイトーンボイスが窟内に響き渡る。
「ただいまーっ! あぁ~、疲れちゃったよぉ! アル・マハラージって思った以上に大きくて重たいんだもんっ! 運搬の方が一苦労だってちゃんと教えておいてよね、ジグエラァ~! 今日は三匹採ったよオジサ、グフン、師匠っ! んでもさ、こんなに大きいんだったら、もう二匹位採れば冬の間のギレスラご飯には充分なんじゃないかなぁ? ねえ、どう?」
『グガァッ! ラクショ、ラクショ! ガガァッ!』
『遅くなってゴメンなさい、明日はもう少し早く帰れると思います、あ、ご飯は食べたいんですけどぉ~』
この声に真っ先に答えたのは他ならぬ『北の魔術師』バストロの大声である。
「おおっ! 帰ったかレイブっ! それも三匹も倒して来たとはな、アル・マハラージとは言え初めてのモンスター狩りでこれ程の結果を残すとはぁ~、これは新記録だぞ? 良いかい? 俺が師匠に言いつけられて初めて狩りに赴いた時の収穫はマスカル(野鼠)一匹きりだったんだぞっ! それを、それをぉ! アル・マハラージを三匹かぁ! どうだっ! 俺のレイブは凄いだろうがぁっ! ジグエラァッ! なんとアル・マハラージを三匹だぞ? なあ、やっぱコイツ凄いだろぉ?」
興奮気味に言ったバストロの声に答えて、鍾乳窟の外まで様子を見に行っていたジグエラが戸惑ったような声で告げる、些か驚きを含んだトーンで、である。
『ね、ねえバストロ…… アルミラージじゃあ、無かったわ…… これって、あの、ジャッカロープみたいだわよ?』
バストロ、『北の魔術師』、は言葉を失いそうな勢いで何とか呟いたのである。
「じゃ、ジャッカロープゥ…… と、特定魔物のぉ? ま、まさかそんな…… う、嘘だろう? じ、ジグエラ……」
ジャッカロープ、それは野獣から変異した魔物、モンスターの中でも格別の脅威の名前である。
本来、大人しい性質のウサギや野鼠がこれ程まで怒りや憎しみを抱いて変異する例は多くは無い。
と言うかほぼ無い、のである。
しかしどんな事であっても例外は有る物だ。
か弱い仲間達が蹂躙され続ける様子を見続けてきた一部の魔物、弱者の中には、極々例外的にこういった個体が生れ落ち見え隠れされては来ていたのである。
呼称はアンガーモンスター、怒れる野獣である。
ニンゲンへの強烈な憎しみを隠そうともしないで、只々、突貫攻撃を繰り返す魔物は言うまでも無く、この時代に於いての脅威、そのものである。
ジャッカロープとは、そう言った性質の悪い変異種、気違いモンスターの中でも一層性質が悪く、しつこく粘着する事で有名な『変異種』の代表格であったのだから……
「ジャッカロープを、さ、三頭も…… えっ? れ、レイブ、が……?」
バストロの馬鹿みたいな呟きを無視した形で、当のレイブは大きな声で叫んで伝える、ギリギリ正気を保っていたジグエラに対してであった。
「ジグエラァ! お腹が空いたよぉっ! ぺっこぺっこだぁ~! 麦粥残ってたら頂戴ぃ! 皆で分けるからさぁ!」
真っ赤に顔を染めたジグエラは慈愛に満ちた顔で答えるのであった。
『麦粥なら食べ切れないほど有るわよ! 今日はバストロが何度も煮込んでいたからね! さぁ、皆お食べなさいなぁ! 沢山食べてゆっくりお休みなさい…… アタシの特別な子供達、ウフフフ』
そう言って微笑み続けるジグエラの奥からヴノの大きな鼾が聞こえた。
レイブとギレスラ、ペトラはお腹一杯に麦粥を頬張ってこの一日を終りにした。
寄り添って眠りに付くスリーマンセルは、明日からの冒険を楽しみに待つような笑顔を揃えて、夜の闇の中に落込んで行ったのである。
お読みいただきありがとうございます。
感謝! 感激! 感動! です('v')
まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、
皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。
これからもよろしくお願い致します。
拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。
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