【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~
あらすじ・目次
第三部 六章
リベルタドーレス ~解放者たち~
1163.謁見
ここまで走ってきた通路のどれよりもゆったりと広く、何だったら最初のエントランス、入り口の倍以上ありそうな広間は如何にも権力者の居室に相応しく思えた。
内部にはパイロ達より二回り程も大きいラタトスクが数体並び立ち、その奥に設えられた台座には乾燥した干草の山が積み重ねられ、中央には白茶けた毛玉状の物が微かに蠢いている事が見て取れた。
数体のラタトスクは全て雌の様で、ふくよかで大きな体の背中には後頭部から尾まで一本の黒い縦縞が通っている。
目を凝らして見れば、枯れ草の中央で蠢いている毛玉にも同様の縦縞が有る事が判る、とは言え、こちらは周囲の毛と同様、白っぽく薄灰色の物ではあったが……
元々からの色合いではなく、経年劣化? ニンゲンで言うところの白髪的なムードが漂うほっそりとした綿毛と反して、サイズだけは大きめな毛玉はモゾモゾ、ピクピクと蠢いて、尖った鼻先をレイブ達に向けて聞き取り難い声を発する。
『だあぁれえぇ~』
ダブルサイズのラタトスク、白い毛玉の半分位の雌が一匹、元々凛としていた居住まいを改めて正してより慇懃な声で言う。
『最長老様、当代の鬼神、グフトマ様がお客人をお連れしたのです、お言葉を賜れませ』
『『『賜れませっ!』』』
『ん~?』
ゆったりと言うより鈍重な印象の声で答えた毛玉、最長老とやらは、細長く皺がちな鼻先に続けて干草の山からのそのそと首をもたげてその顔をこちらに向けたのである。
「うっ……」
「叱っ!」
最長老の顔を見たレイブが思わず唸り、すぐさま咎めを込めたグフトマの制止が続いた。
声を抑えた代わりに目を凝らしたレイブに映ったものは、最長老の名に恥じぬ歳月を経たラタトスクの貌、その物である。
本来、雨露を凌ぎ最低限の長さで視界を確保しなければならない筈の顔毛は伸び捲り、確とは判らない毛むくじゃらの表情の中で、煌々と光りこちらを凝視するギョロギョロと大きな双眸。
白そこひ、皆さんに馴染み深く言い換えるなら白内障の末期状態なのだろうか、白濁した水晶体はその焦点を見るものに悟らせないまま、言外の威圧を与えるに充分過ぎる物に見えていた。
ゴクッ……
緊張が極まり思わず喉を鳴らしたレイブに最長老のしわがれた声が続く。
『朝ごはん~?』
お付きらしい雌のラタトスクの声が即座に答える。
『朝はもう食べましたよ最長老様、お客様がいらっしゃっていますからね、ご挨拶下さいね~』
『え~、食べたっけ~?』
『はいはい、お食べになりましたよ~』
『えぇ~』
なるほど、そうか……
それ以上朝食の摂取には拘る事無く、最長老は改めて平伏しているグフトマに顔を向けて言葉を続ける。
『あれ? 鬼神かな? 温羅君?』
「いいえ、私は――――」
『叱っ!』
最長老様はグフトマの事を誰かと勘違いしてしまったらしく、慌てて訂正しようとした声をお付の雌が手を翳して止めた、素早い反応である。
『本当ですね~、温羅さんそっくり♪ でも良く見て下さいね、ちょっと違いませんか? どうかなぁ~? 同じ? 違う? 違わないかな? 誰かなぁ?』
この問い掛けに最長老は白濁した瞳を凝らしてグフトマを再度凝視し始め、程無く声を発する。
『うーん若しかしてだけど…… 王丹君、かな? 違うかな?』
「いえ、私は王丹さまの後任、グフト――――」
『叱ぃっ! ちっ!』
「す、すみません……」
『ちっ!』
舌打ちアゲイン…… 再び黙るグフトマの耳に最長老のやや大きな声が届く。
『グフト? う~ん…… あっ! グフトマっ! グフトマ君だねっ! そうでしょっ! 違うかなぁ~?』
パチパチパチパチ……
『大正~解! 流石は最長老様です! グフトマさんですよ~♪』
『『『大正~解♪』』』
『えへへ♪』
最長老は無事グフトマを認識できたようだ、良かった。
レイブとペトラ、ギレスラにテューポーンは同時に思った。
――――大丈夫か、これ?
と…………
お読みいただきありがとうございます。
感謝! 感激! 感動! です('v')
まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、
皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。
これからもよろしくお願い致します。
拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。
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