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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

あらすじ・目次 


第三部 六章

リベルタドーレス ~解放者たち~

1047.決壊


 出会って以来、病気一つせずに元気一杯、健康優良児の見本みたいな存在だったラマスが、体の不調を訴えたのは二日前の作業中の事である。

 午前の作業終りで告げた彼女にレイブは迷う事無く休養を勧め、午後の作業を休むよう指示を出した。
 この二年間に増え続ける激務の中、他の弟子たちもちょいちょい疲労の蓄積による不具合、いやもうはっきり言っておこう、度重なる過労により死ぬ一歩手前まで追い込まれる事が度々だったのである。

 そんな中、一度も体調不良所か弱音一つもらした事が無かったラマスの、げっそりとした表情を見たレイブは心配しながらも心中で思ったものだ。

――――ラマスでも具合が悪くなるんだ…… そうか、ラマスだってニンゲンだもんな

と、失礼極まりない感想を抱いたりした。

 半日ゆっくり休んだ結果、ラマスの体調はレイブの予想を裏切って悪化していた。
 粗末な干草の寝所から起き上がる事も出来ずに、申し訳無さそうな顔で謝罪の言葉を告げたラマスは、レイブの元に現れてから初めて、食欲が無い事を理由に再び床に臥せったのである。
 内心で気に掛かっていたレイブであったが、つとめて考えないようにしながら昨日の作業に打ち込んだのであった。

 忙しさは勿論、自分に向けられた学院長の怒りと言う恐怖は確かにあったが、レイブ自身がラマスの事をなるべく考えない様にしていた部分が大きい。

 彼女の事を考え始めると心配な気持ちが増幅され、居ても立っても居られなくなってしまい仕事が手につかなかっただけではなく、なんとなくだが、気にしていると彼女が悪化してしまうような気がしたからであった。
 一種の験担ぎ的な想いから、無理やり考えない様にしていたのである。

 しかし、こういう気持ちと言うのはきとめられた水と同じ様な物だ。
 無理やり押し込んだ所で思いは消え去る事無く蓄積していく、ダムの水のように……
 一旦、他人に吐露してしまったり自覚してしまえば溢れ出すものだ、勢い良く、それこそ決壊した堤から迸る激流の如く、である。

――――まさか…… そんな事は無いに決まっている! 一昨日まであんなに元気だったんだから! でも…… 無い無いっ! ラマスに限って、そんな事はぁ…… だけど…… ハタンガの皆もバストロ師匠やジグエラ、ヴノ、フランチェスカ達だって、と、突然…… つうぅっ!

「うおぉぉー! 駄目だぁー! ら、ラマスゥー! し、死ぬなぁーっ! うおぉー!」

 大きな叫びを上げたレイブは、駆ける速度を限界まで早めて小屋へと辿り着いた。
 途中で集まって訓練中だった、狩りに帯同しない竜種たちの中で、残像を残しながら小屋に飛び込んでいった姿を捕らえられたのはスリーマンセルの相方、ギレスラのみである。

 飛び込んだ小屋の中にラマスの姿を見ることは出来なかった。
 レイブは安堵の息を吐き言う。

「ほっ、取り越し苦労か、今朝は元気になって皆と狩りや採集に向かったに違いない、良かった、良かった! ………………果たしてそうだろうか? しかしたら悪化して苦しみながらどこかに出て行ってしまったり、だとか? 寄る辺も無くふらふらと生死の淵を彷徨っていたり…… ああぁぁーっ!」

 再び叫んで頭を抱えたレイブであったが、次の瞬間、表情を厳しい物に変えて、ラマスの臥所ふしどに近付いて干草に手を置いて呟く。

「まだ温い! そう遠くへは行っていないな、良しっ!」

――――この俺から逃げられると思うなよ(ニヤリ)

 寝不足ゆえかはたまた普段隠している感情を一気に開放した後遺症状かどうは定かでは無いが、錯乱中のレイブはラマスを捕縛する気になってしまったようだ、やれやれ。



お読みいただきありがとうございます。
感謝! 感激! 感動! です('v')
まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、
皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。
これからもよろしくお願い致します。
拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。

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