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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三部 六章 リベルタドーレス ~解放者たち~
894.跳ね橋

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 大人のニンゲンの背丈の三倍も有ろうかという高い塀の一部、集落全体をぐるりと囲んだ空堀の幅と深さが心なしか増している場所まで歩いたバストロは大声で塀に向けて叫ぶ。

「おおい、里の衆っ! 俺だ、バストロだよっ! 跳ね橋を下ろして入れてくれぇい!」

 そのまま少しの時間待っていると、塀の上から数人の顔が見え隠れし、わずかにざわついた後、上げられた大きな声はレイブ達、塀の外ではなく逆向きに発せられている様であった。

 曰く、

「おおーい! バストロが来た様だ! うん、そうそう、黒の放浪者だっ! ああ、又、物乞いに来たらしいんだが開けてやって良いかぁ? 里長さとおさに聞いて来てくれよぉっ!」

だそうだ……

 はっきり聞こえている筈のバストロもレイブも微動だにせず、それ所か表情一つ変えずに落ち着き切っていた。
 今回が生まれて初めての放浪だろうペトラだけがそわそわを隠そうともせずに二人に言う。

『えっ、えええっ! 何か、物乞い? とか言われてるじゃ無いですかぁ! 大丈夫ですぅ? これぇ?』

 レイブは冷静だ、表情は未だ固定されている。

「良いんだよペトラ、前回も前々回もこんな感じだったからね」

 このやり取りを聞いたバストロは周囲に響かないようにだろうか、一層声のトーンを落として二者に告げる。

「黙っていろって言っただろう…… 次に口をきいたら…… お前らでも殺すからなっ! 黙っていろっ! 良いなっ!」

「は、はいっ、ペトラ?」

『ひっ! り、了解…………』

「それで良い……」

 そんなやり取りが済んだ瞬間、目の前の高い塀の一部が轟音ごうおんと共に動き出したのである。
 見張りが言っていた通り、目の前の塀は他と違って可動式、所謂いわゆる跳ね橋であった様だ、ゆっくりと空堀に倒れ込んだ高塀は橋となって行った。

 ズシンッ!

 やがて水平な橋となった木の上を渡って、バストロよりやや年長に見える精悍な男性が声を発する。

「来てくれたか北の魔術師バストロよ、今回も皆、楽しみに待っていたぞ! それにしても、そのなりは一体どうしたって言うんだ? 泥塗れじゃないか、どれ『清潔クリンネス』、そら綺麗になったぞ! って随分古ぼけたフードローブだなこりゃ、春に着てた真新しいヤツはどうしたんだよ?」

 男が使った生活魔法のお蔭で、折角の偽装が綺麗さっぱり洗い流されてしまっていた二人と一匹であったが、バストロはそんな事は気にしない、と言わんばかりに平然とした顔で返す。

「ああ、手放したんだよ…… ちょっと生活が苦しくてな…… 食い物と交換して貰ったんだよ」

 男は驚きを表情に浮かべて言う。

「交換? あんな質素なダークウルフのフードローブをぉ? そんな物好きなんて同業の魔術師位しか居ないんじゃあないかぁ?」

 バストロは罪の意識や後ろめたさが皆無なのだろう、爽やかな笑顔のままで男に答える。

「ああそうだよ、魔術師仲間に頼んだんだ、それ程困窮しているって事なんだが、なあ里長、そう言う訳で今回はなるべく沢山交換して欲しいんだよ…… よろしく頼む、いや頼みますっ!」

 勢い良く言って頭を低く下げるバストロに合わせて、後ろに並んだレイブとペトラも最敬礼だ。
 良く目を凝らせば、少し離れた場所で佇んでいる巨大なボアと、その背にチョコンと立っている子竜も同じタイミングで頭を下ろしていた。
 上空を飛んでいる紅竜は姿勢制御的に難しいのか、狂ったように長い首を振り回していたが、仲間達のシンクロ具合から察するに、これも懇願を意味しているのだろう。


お読みいただきありがとうございます。
感謝! 感激! 感動! です('v')
まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、
皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。
これからもよろしくお願い致します。
拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。

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