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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

あらすじ・目次 


第三部 六章

リベルタドーレス ~解放者たち~

1572.夜叉の旅路


 マナナンガルは魅惑的な瞳を揺らめかせながらペトラ曰く、やむにやまれぬカーイソーな事情について語りだした。

 大まかな内容はこうだった。

 住み慣れた地を離れて遥かなる楽園を求め旅立った彼等を待ち受けていたのは規格外の試練だったと言う。
 皆さんに判り易く言えば、のんびり茶なんか飲んで過ごしていた日本の幸福寺周辺も大分ヤバイ感じになったので、仕方なく消極的に本当にいやいやながら出掛ける事にしたマナナンガル達、夜叉は酷い苦労をしてしまったらしい。

 夜叉とは言ってもインド由来のヤクシニとかの事ではなく、あくまでも日本的な夜に蠢く人外の者、まあ、ありていに言えば吸血鬼とか夜魔の類、つまりこの一団みたいな輩を指しているのだと思われる、割とぴったりな表現と言えるだろう、恐らくコイツ等闇に蠢くだろうしな……

 とくれば、危機的状況下で尚、真っ当な存在たろうとする善男善女には石や鋭利な刃物とかを投げられる訳だし、勘の良い犬なんかには追い掛け回されたりする訳だ。
 ここに来てヴラドを除く五者が腕や足に残った噛み跡を涙ながらにアピールしていた、悲劇的だ。

 しかし、激戦の跡を見せ付けられたレイブ達スリーマンセルは、

――――コイツ等って案外回復力が低いなぁ~

位にしか感じてはいなかった、まこと、彼我の捉え方とはいつの時代もままならぬものである。

「しかし、本当の苦難は海を渡る時だったのです……」

 当時の苦労を思い出してしまったのか、涙を湛えたマナナンガルは渡海の難儀を嗚咽混じりで説明した。

 渡海の始まりは日本の本州から出て北海道へと向かう海峡、そう津軽海峡だったそうだ。
 と来れば、勘の良いオーディエンスの皆さんの想像通り、この一団は容赦無いサメの襲撃を受けたらしい。
 魔神バアルの加護でほぼ不死身だったこいつ等も、数十キロの遠泳中間断無く襲い続ける捕食魚類には大層辟易したのだと言う。

 この話の最中、オルティガとムルトヴァが自分の腕や足に付いた生々しい噛み跡を無言のままでレイブ達に見せ付けたりしていた。

「ほうほうのていで辿り着いた北海道でしたが浅瀬には別の脅威が我々を待ち構えていたのです」

 傷だらけで浜を目指した一団の最後尾、浮力不足を持ち前の膂力りょりょくでカバーしていた重装備の殿しんがり、ブラチの悲鳴が響き渡ったのだと言う。

 慌てて振り返った幹部たちの目には、背中一面を銀色の剣状な物に刺し貫かれて悶絶するブラチの姿が映ったそうだ。

 ブラチは青銅の鎧を外して穴だらけになった背中を見せながら言う。

「ダツの群れでした」

 ダツは日本近海の浅瀬で割と良く見る魚だが、こいつは光る物、アクセサリーやグラサン、金属製の時計なんかを小魚の鱗だと思って突撃してくる習性で知られるおっちょこちょいキャラでもある。
 んが、こいつの顎は上下とも鋭く尖っていて更に硬かったりもする。

 人間の体は勿論、ウェットスーツや恐らく薄手の鎧なんかも突き破る位の威力を有しているのだ。
 何しろ泳力や突進力は同じ仲間のトビウオ並みだと言われたりもしているのだ、そう、時速七十キロで五、六百メートル飛ぶあいつの仲間なのだ、威力の程が想像できるのでは無かろうか。

 余談だが、万が一ダツが刺さった場合には慌てて抜くと出血多量などで非常に危険らしい。
 落ち着いてダツの息の根を止めてから、ぐったりしたダツを刺したままで病院とかに急いだ方が良いそうだ、是非憶えておいて頂きたい。

 そんな適切な処置方法なんか知りもしなかったのだろう、数千年を経ても痛々しく穿たれたブラチの背中を見つめるスリーマンセルは無言のままで息を飲み込んだのである。



お読みいただきありがとうございます。
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まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、
皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。
これからもよろしくお願い致します。
拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。
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