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ボーカロイドの深淵を覗こう #26

こんにちは。ボカロが好きです。ボカロはいいぞ

 さて、「アンダーグラウンドボカロジャパン」「感性の反乱β」「POEMLOID」「VOCALOIDよれよれ曲リンク」「ボカイノセンス」の全曲周回を目指して感想を書いていくシリーズの26回目です。第一回はこちら一覧はこちら

 クレジットについて、概要などに表記がなければ作詞作曲を投稿者本人が行ったとして表記します。絵や動画については概要欄/タグ/動画内にクレジットがある場合のみ表記します。

 万が一ですが、クリエイター様御本人で自分の曲を紹介してほしくないということがありましたらご連絡ください。

 また申し訳ないことに、前回(#25)の時に本来「0241」として紹介すべきManHoleManPの「machine」が抜けていてました。現在は修正して#25に紹介が載っています。そのため修正前に「0250」として紹介した「想像、イメージ」は「0251」として同じものが載っています。

それではいきます。


0251. 想像、イメージ / 816(1990)

タグ:感性の反乱β
作詞・作曲:816(1990)
イラスト:あずさ
ボーカル:初音ミク
投稿:2009/12/29

 残響が気持ち良いロック。強いエコーが音を飽和させ混ざり合うサイケデリックさに気持ちよさを感じます。使用されているイラストの色の交錯のように音が交錯しあい美しい響きを作っています。

0252. 良心一ドル札 / 大丈夫P

タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン
作詞・作曲:大丈夫P
ボーカル:初音ミク
投稿:2009/12/30

 大丈夫じゃないことでおなじみの大丈夫Pの曲。「一ドル札をパパに使うと動かなくなる、ママも動かなくなる」という謎内容。言葉の切れ目に同時に音も切れるのが不意の静寂によって不安感を倍増させていてよいです。よれよれはついていませんが不安定なメロディと調声で、よれよれとしていて不安感があります。

0253. 弦1本指1本で弾けるぜ / 風呂メタルP

タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン
作詞・作曲:風呂メタルP
声加工:きりがぷにえ
ボーカル:初音ミク
投稿:2010/01/03

 30秒ほどの短いギターパッセージ。ドラムとギターのみのシンプルな構成、「弦1本指1本」だけで弾いたという衝動性があります。ミクのデスボイスが曲に低音の響きを出していてよいです。

0254. 今年の恵方は西南西(ver.2010) / ストーカーP

タグ:VOCALOIDよれよれ曲リンク
作詞・作曲:ストーカーP
アレンジ:tatmos
イラスト:トーマ
ボーカル:巡音ルカ
投稿:2010/1/12

 恵方巻ソングがあんまりないから作ったという曲。ゆるい映像、内容に対してサウンドはプログレでセンスが光ります。1:07からの間奏のサウンドが特に好きです。

0255. わたしの本音のフルコース / ARuFa

タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン / 感性の反乱β
作詞・作曲:ARuFa
ボーカル:初音ミク
投稿:2010/1/15

 ARuFaさんの衝動性がサウンドに現れたようなロック。この曲もそうですが、ARuFaさんは日本語も含めた声をすべて音ととらえているような曲の作り方をしているように感じます。それスキャットのようなサンプリングになり、「声」としての衝動性の発露と「音」としての気持ちよさが両立されていてとても好きです。
 この曲では本音が身体の内からあふれてくるような奔流がそのまま音の奔流として表現されているのが好きです。

0256. Jesus, Joy of Man's Desiring / TDCY

タグ:VOCALOIDよれよれ曲リンク
原曲:J. S. Bach 《Herz und Mund unt Tat und Leben》, BWV147, Nr.10(Choral): Jesus bleibet meine Freude (Jesus, Joy of Man's Desiring)
(J.S.バッハ『心と口と行いと生活で』BWV147より, 第10曲(終曲コラール)「主よ、人の望みの喜びよ」)
作詞:Martin Janus
作曲:Johann Sebastian Bach
アレンジ:TDCY
イラスト:ささがわのろ
ボーカル:初音ミク
投稿:2010/1/23

 バッハのかの名曲をドラム以外すべてミクで作った曲。エレクトロ風Remixでとてもスタイリッシュです。それでいながらミクの声自体はふわふわとしていて、よれよれ感とスタイリッシュさの両立バランスがとても好きです。また、コーラスに原曲の荘厳さを感じさせつつ、後半のピシューンという高音のノイズもかっこよさと現代感がありとても良いです。
 そこまでは考えていないでしょうが、宗教曲を機械たるボカロが歌うのもすごくいいですね。自動書記に美的価値を見出すシュルレアリスムのように、宗教歌を人間が歌わなくてもそこに神聖性はあるのかという芸術的問いかけにも発展しそうです。また「祈る機械」といういわば「夢見る機械」のような幻想文学的主題にもなりうる気がします。そういう作品あるのかな。

0257. チーズの歌(その1) / AA

タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン
作詞・作曲:AA
ボーカル:初音ミク
投稿:2010/1/25

 ただただチーズを歌ったシンプルな曲。続編が続く予定ですとのことですが、投稿されてはいないようです。残念。前奏以外オケもほとんどないシンプルな内容。
 「絵を描く」などと比べて比較的ハードルが高く開かれていなかった音楽を一般人の者に還元し、軽い気持ちで簡単に作り発表できるようになったこともボカロの良いところです。

0258. ハイブリッド幼女(第二形態) / ヒッキーP

タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン / 感性の反乱β
作詞・作曲:ヒッキーP
イラスト:まちざわ
ボーカル:鏡音リン
投稿:2010/1/25

 娘細胞Pの「ハイブリッド幼女」(0228, #23)の第二形態。このタイトルを考えたのがヒッキーPだったとは。リンの高い声に幼さと社会への拒絶を強く感じます。「みんな、あたしに憧れながら / 誰もあたしを見ていない」「定型に作られた異端で、」という権威主義的な社会や、「異端」すらも大局的には定型になりうるような没個性な社会への鬱屈が音楽として昇華されています。

0259. lukeworm / mishiki(TebasaP)

タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン
作詞・作曲:mishiki(TebasaP)
ボーカル:初音ミク
投稿:2010/1/28

 エレクトロな繰り返しが気持ちいい曲。かすかにつぶやくミクから曲に不思議さを感じます。シンプルな音の繰り返しながら(だからこそ)そのフレーズの鋭さに惹きこまれます。1:13からのふわふわした不協和音なメロディもとても好きです。

0260. アウトサイドコミュニケーション / あぼんギャルP

タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン / 感性の反乱β
作詞・作曲:あぼんギャルP
ボーカル:初音ミク
投稿:2010/1/30

 激しいサウンド、息継ぎのない長いフレーズがボカロらしいロックです。前奏で流れるピアノの現代的なフレーズ、前奏からAメロへの入り方が好きです。
 歌詞の内容は意味が分かるようでわからない、いや全然わからないというような感じでそれが「アウトサイドコミュニケーション」という題にあっていてとても良いです。聞きなれない言葉の繋がりがユーモラスでもあります。


今回はここまで!

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周回の中で特に気に入った曲をマイリストに入れておきます



日記 2022/06/18

 東京国立近代美術館で開催されている「ゲルハルト・リヒター展」に行ってきました。

 ゲルハルト・リヒターはドイツのアーティストで現代で最も重要な画家の一人です。日本での個展は16年ぶりで、ご本人90歳、画業60年を記念したものになります。

 リヒターの主要な作品が一堂に会し圧倒的でした。これは生で見ないと感じるとることのできないものがありました。ナチスの強制収容所をテーマに描かれた近年の大作《ビルケナウ》が日本に来るのは初めてのことで、圧倒されました。息が詰まるとはこのこと。

 リヒターの主要な作品テーマに「アブストラクト・ペインティング」というものがあります。

《アブストラクト・ペインティング(952-2)》
油彩、キャンバス 2017年 200×200cm
画像は「ゲルハルト・リヒター展」特設サイトより

 これはキャンバスにスキージという独自のヘラで絵具を塗り、また同時に削るという技法で描かれるもので、その多層の色が削られることで本人にも予想できない色彩や表現が生まれる作品です。実際に生で見ると油彩の多層になった複雑な表面や削られた跡があり、生々しさや筆致(ヘラですが)の息遣いが見て取れました。

 また、絶妙な色合いをしたガラスが壁に固定され、そこに写るあらゆる可能性を作品とする《アンテリオ・ガラス》という作品や、25色のタイルをランダムに196枚並べる《4900の色彩》、写真を油彩で再現しながら輪郭をぼかす「フォト・ペインティング」という手法の作品などがありました。

 リヒターの作品は一貫して、偶然性と作品の再現性、具体と抽象、作者の意図などへの限界や問題を投げかけるものです。そうした作品を鑑賞している間ずっと「めちゃくちゃジョン・ケージ的だな」と思っていたのですが……

 《CAGE》という6枚の連作を制作し最新の作品集の名前すらCageじゃないか!!!! やはり好きなもの同士はつながっているのですね……《CAGE》は今回未展示だったのでいつか見てみたいです。「ジョン・ケージピアノ作品全集」を聞きながら制作されたそうです。

 ジョン・ケージは易経に基づいて演奏を決定する《易の音楽》という作品を制作しました。また、点と線がそれぞれ描かれた2枚の紙を重ねて透かすことでその点と線の距離などから音を決定する《Variations Ⅱ》という作品もあります。

《Variations Ⅱ》(抜粋)
1961年 紙、インク Photo: David Sundberg
展覧会「ジョン・ケージのローリーホーリーオーバー サーカス」図録より

 リヒターは絵画という空間性において、ケージは音楽という時間性において、偶然性と、ハプニングに開かれた作品(ケージは「サーカス」と呼ぶ)を発表していてとても面白いです。鑑賞者に対し真に開かれた芸術への挑戦が感じられます。

 ただし、リヒター本人が指摘するようにケージとリヒターの偶然性へのアプローチや動機は厳密には異なります。ケージの偶然性とは易によって厳密に決められる「管理された偶然性」だからです。「ケージはたしかにリヒターをインスパイアしたが、リヒターの制作方法は直感的なトライ・アンド・エラーであるから、偶然に厳密に従うケージの方法論とは異なる。」*1

 また、リヒターの作品に用いられる偶然性は「抽象への還元――見ることと描くことが生み出しうるもの――」への模索なのに対して、ケージが目指すところは次のようにむしろ目的の不在による生の自覚です。

 それでは、音楽を書く目的は何だろうか。たしかに、扱っているのは目的ではなくて音だ。あるいは、答えは逆説的な形態をとるに違いない。意図的な無目的性、あるいは無目的な活動。しかしこの活動は、生を肯定する。すなわち、混沌から秩序を生み出したり、創造における向上を示したりする試みではなく、ただ私たちが生きている生そのものに目覚める方法なのだ。いったんそこから知性や欲望を取り除き、ひとりでに進むにまかせれば、生はとても素晴らしいものになる。

ジョン・ケージ 著, 柿沼敏江 訳『サイレンス』, 水声社, 1996=2002,pp.31-32

 同じ偶然性にしてもその細部の動機や手法の差異に注目すると面白いですね。ゲルハルト・リヒター展は10月2日までやっているので興味がある方はぜひ足を運んでみてください(ダイマ)。最高でした。


*1 清水穣「鏡の音楽 ゲルハルト・リヒターと音楽」, 『ゲルハルト・リヒター展公式図録』, 2022, 青幻舎, p.240 

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