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『鏡の国のアリス』逆さの箱と「桑の木回ろう」

『フィドルディディーの謎』の続きなので、未読の方はそちらを先に御覧下さい。

逆さの箱

白の騎士は初登場時、おかしな形の樅の小箱を逆さに肩にくくりつけています。
箱の蓋は開きっ放し。
原文はa queer-shaped little deal boxです。(dealはここでは「樅」でしょう)

白の騎士はこれを「clothesとsandwichesを入れておくための箱だ」と説明します。

①deal→樅→クリスマスツリー→クリスマス
②clothes→プディングクロス→プディング
③sandwiches→第1連と第7連の「古詩」に第2連から第6連の謎々詩が挟まれている様子

と連想すると、これはジャバウォッキーの詩を暗示していると分かります。

装備品といえば、馬の鞍にbee-hiveとmouse-trapも仕掛けてあります。

mouse-trapはマウスが現れたときの用心だと言うのですが、『不思議の国のアリス』のお茶会の場面でドーマウスが話すM尽くしに出てくるmouse-trapを思い出させます。

となれば、bee-hiveの方の説明に出てくる
'not a single bee'という文言も、通常は「1匹のミツバチもいない」と訳すところを「独身でないミツバチ」という意味にも解釈できるので、「結婚しているミツバチ」からhoney moon→moonが連想できます。

mouse-trapとmoonの組み合わせで
「butterfly in the sky」。
これは、『不思議の国のアリス』で帽子屋が出題した謎々詩の答でした。

さらに、bee-hiveについてアリスが言う台詞"...ーor something like oneーfastened to the saddle"も、oneからaを、 theからtを、dをbに読み替えてsaddleからableを読むと「like a table」。
こちらは帽子屋が出題した謎掛けの答。

つまり、こんなところで帽子屋の2つの謎々とジャバウォッキーの詩について言及されていたわけですね。
正直、答を知ってる人でも気付きにくいとは思いますが・・・
まあ、遠回しなのはいつものこと。
帽子屋も白の騎士も作者の分身なので、ここで出てくるのは一応納得。

「桑の木回ろう」

樅の小箱の話に戻りましょう。

逆さまの箱の蓋が開いたままなので中の物が落ちることをアリスに指摘された白の騎士は箱をbushに投げ捨てようとしますが、結局思い直してtreeに掛けます。

箱を木に掛けるのは、「honeyが取れるかも知れない」から。これは「蜂蜜」と「恋人」の両方の意味でしょうね。

それに加えて。

「逆さの箱」は、fiddle-de-deeの詩を逆方向に辿る「フィドルディディーの謎」の象徴ではないかと気付きました。

前に記事を書いた時点では、詩と物語が対応しているのは第3章の③までで①②はぼかしてあると思っていたのですが、実は4章まで繋がっていたようです。
(先のbushとtreeもヒントと思われます)

『鏡の国のアリス』の第3章の最後の一文と第4章の章題が繋がる仕掛けも、これと関連しているのかもしれません。

「フィドルディディー」抜粋
繰り返し部分
Fiddle-de-dee, Fiddle-de-dee,
The fly has married the bumble bee.

第1連
①Says the fly, says he,
②"Will you marry me,
③And live with me,
④Sweet bumble bee?"

前の記事では、第3章でアリスが繰り返す"What did it live on?"という台詞が③のliveと対応しているところまで述べました。

さらに、①のSays the fly, says heが第4章でTweedledeeが「カラスだ!」と叫ぶ場面に相当しているのではないかと。

この①はチェス手順との対応でも3.●Nd5のnightingale飛来と考えたのですが、詩と本文の対応でも使われていたのですね。

さらに、歌い出しにも入る繰り返し部分の「married the bamble bee」が、アリスが双子兄弟と踊る場面で流れ出すマザーグースの「桑の木回ろう」のマザーグースと対応していると考えられます。

「桑の木回ろう」
第1連
Here we go round the mulberry bush,
The mulberry bush,
The mulberry bush,
Here we go round the mulberry bush
On a cold and frosty morning.

この詩にはmulberry bushがbramble bushになっている異型があります。

mulberry→[マルベリー]→[マリー]→marry
bramble bush→bramble b.→bumble bee

mulberry bushとbramble bush、双子のような2つのライムで、「フィドルディディー」の繰り返し部分のmarry the bamble beeを表現していたというわけ。
bushとtreeがヒントではないかと考えたのもそのためです。

それにしても、マザーグースの異型をこんなやり方でパズルに仕立てるとは。

ここで双子兄弟が登場するのも「双子のような異型」に繋がるのかも。そういえば、彼らの口癖はcontrariwise(反対に)でした。「逆さの箱」同様、これも逆読みを暗示するヒントだったのかも知れません。

fiddle-de-dee
mulberry bush
bramble bush
Tweedledum and Tweedledee

この場面、3つ(または4つ)のマザーグースを絡めた驚くべき構成だったのですね。

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次の記事に専念するつもりだったのですが、結局追加記事を書くことにしました。
毎回読みにくくてすみません・・・

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