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創作小説(21) ミントガムとコーヒー

人を下(げ)に見る者、死に方汚し(きたなし)
意味:他人を馬鹿にする者は、円満な人生を歩めないという教え。
文例:「子どもの貯金崩して、その金で博打を打つなんて『人を下に見る者、死に方汚し』だよ。」

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「そういえばミント味のガム、好きだったね。」
久保大和が場を取り繕うためにガムを噛み始めると七川四葉が言った。

四葉から突然、喫茶店に大和が呼び出された。
四葉はもじもじとして何かを言い出したいが言い出せない、そんな雰囲気に見えた。
おそらく仲を戻したいのだろう。

ただ、大和にも言い分があった。
大和は今年30歳になるものの、クラブ通いや飲み屋巡り、パチンコに競馬など、遊びまくっており、少なくとも後もう5年は遊んでいたい気持ちがあった。
加えて、意外にも大和の周りの友人には独身が多く、遊び仲間に事欠かない状況が拍車をかけた。

今年で32歳になる四葉も結婚を意識していたが自分からは言い出せなかった。
同棲中、結婚雑誌をしきりに見せるなど、見え見えであることを承知で結婚のアピールをした。
しかし、大和からしてみれば遊んでばかりいる自分の何が良いのかわからなかった。

そして、両者の思いにすれ違いが生じ、3ヶ月前に別れた。

四葉は料理も掃除も洗濯も、家事は盤石にこなし、仕事に行って大和のために金を稼ぎ、大和に金を貸した。
そんな四葉を見て大和の心はさすがに痛んだ。

大和は心を鬼にして、今度こそ四葉との縁を断つことにした。

「この前なんて、家の中にあった四葉の財布からさ、5万、拝借してパチンコに使ったんだ。どこが良いんだよ。」
「それでも弟を見ているようでほっておけないのよ。」
四葉は大和に切実に訴えた。

大和の心はさらに痛んだ。
それでも四葉とこれ以上一緒にいることが得策ではない…、それだけははっきりしていた。

そして最後に別れの言葉を切り出した。
「俺は正直、結婚をしきりにアピールしたりとか四葉を痛い女、重い女だと思っている。
それでいて遊ぶ金をくれるから感謝してるよ。『財布』として。
俺は四葉のことを『財布』としてしか考えてない。
昔、爺ちゃんが『人を下(げ)に見る者、死に方汚し(きたなし)』って言ってたんだ。
俺は心の底から四葉のことを俺は下に見てるんだと思う。
それでもし死んだらその後始末も四葉だ。
四葉にとって何一つ、得はないぞ」

四葉はその言葉の一言一言を噛み締めながら聞いた。
そして、泣きながら喫茶店を後にした。

大和はこれで良い、と思い帰り道に自販機でブラックコーヒーを買って飲んだ。

日頃の行いが悪いからか、ミント味のガムを噛みながら飲むブラックコーヒーは心に沁みた。

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