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創作小説(9)「ハンバーガーと侵撃」

「宏美の手料理が久々に食べたいな。」
英彦は宏美が作る手料理が大好きだ。
付き合っていた頃、宏美の手料理に胃袋を掴まれたといっても過言ではない。
しかし、宏美はというと「ハンバーガーで良いじゃない。桜も好きなんだし。」という。
安くて手頃で子どもも大好きなハンバーガーは、家事に追われる主婦の身としてはうってつけなのだ。

宏美と桜が寝静まった頃、英彦は考えた。
英彦はライターの仕事をしている。
「ならどうだ、こんな話を読ませるのは…。」

休日。
朝起きた時、机の上に無造作に「次の企画書『絶対に見るな』」と赤字で記して置いておいた。
「見るな」と書いてあれば、読みたくなるのが、人間の心理というもの。
「どれどれ…。ちょっとだけ…。」
宏美は企画書を読んでみることにした…。


カトンゴ共和国。
アフリカの中央に位置する小国だが、
領土拡大を目指すカトンゴに対し、
大国が大軍で攻めてきている。
当然、大人だけでは多勢に無勢。国力が違い過ぎる。
少年も兵隊として駆り出される。
これは、カトンゴ共和国の5人の少年兵の物語。

5人の少年兵はエリックをリーダーにマニング、ドストン、サントス、ガレクシアである。
5人は小さい頃から仲が良かった。
よく裸足でサッカーをして遊んだもので、将来は海外でサッカー選手になることを夢みる少年たちだった。
しかし、カトンゴ共和国が領土拡大のため、周辺諸国への攻勢を強めると、大国がカトンゴ共和国に対し、制圧の構えを見せてきた。
そこでエリックをリーダーとする5人は少年兵に志願し、祖国を守るために戦うことを決意した。

戦争が始まった当初、急に貧しくなった。
物価は高騰し、生活用品は手に入らなくなった。
しかし、大人たちは言った。「少年兵に志願すれば、毎日ハンバーガーが食べられるぞ。」と。
実際、エリックたちの5人は少年兵に志願して以降、食事に困ったことはない。

ある日。
この日の作戦では、マニングが木の上から敵軍を狙撃、残る4人が敵軍の休憩所を制圧するという作戦だった。
しかし、どこかで作戦が漏れたのか…。
マニングの足を狙撃銃が貫く。
マニングはバランスを崩し、木から落ち倒れてしまった。
木から落ちた衝撃で、銃で撃たれていない方の足も骨折してしまっている。逃げられない。
首から下げたタグを見た敵軍の兵士が言った。
「お前、マニングっていうのか。」敵軍の兵士が言う。
「うるさい。」とマニングは唾を吐きかける。

エリック、ドストン、サントス、ガレクシアは作戦を一旦中断し、自軍の駐屯所に戻ってきていた。

するとドストンのもとに通信が入った。
「親愛なるカトンゴ軍の諸君。私の名前はリチャードだ。
どうだ、マニングを痛めつけるのはもう飽きた。
マニングを引き取りに来ないか?
川沿いの倉庫に放置しておく。」

「クソッ、なめやがって。」ガレクシアが飛び出す。
「ガレクシア、止まれ。交換条件が何もないのに引き渡すといっている。何かがおかしい。」
ガレクシアはエリックの制止を聞く余地もない。
「仕方ない。ドストンとサントスはこの場で待機。俺がガレクシアを止めてくる。」
エリックがガレクシアの後を追う。

倉庫の中。
暗闇の中でガレクシアはマニングを見つけた。
が、かろうじて息をしているものの、かなり痛めつけられた跡がある。

「マニング、今助けてやるからな。」
口につけられたガムテープをはがす。
「馬鹿野郎、早く逃げるんだ。俺の体には…。」

倉庫が大きな爆発音と共に消し去った。

通信機器の音声を聞かなくとも、きのこ雲で事態を察知したエリック。
ドストン、サントスに窮状を伝える。

「マニング…。ガレクシア…。間に合わなかった…。」

爆弾を固定されていたマニング、そして巻き添いになったガレクシア。
5人の少年兵は3人になってしまった。


その日。
大型ショッピングモールへ買い物に行くことになった。
夕食は久々に宏美が作ると言い出し、食材の買い出しに来たのである。

昼食。
娘の桜は大好きなハンバーガーをおねだりする。
結局、フードコートで食べることになった。

宏美はボソッと「だってエリックたちのことを考えるとハンバーガーなんて高級品、食べ
られないもの。」と言い、うどんをすする。
「これから当分の間は手料理よ。カトンゴの人たちに申し訳ないわ。」

英彦は変なところに影響が出てしまったと自身が書いた偽の企画書を悔やんだ。
そして「今晩以降の宏美の手料理が楽しみだ」とも思った。

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