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エッセイ)男前な話

大学時代、私は月に2回位のペースでコンパを開催していた。最初の頃は勿論、彼女が欲しくて開催していた。しかし、途中からいかに笑いを取るかにベクトルが変わってしまった。
“女の子を持って帰ろう”よりも“こんな面白い人がいたよ”って話を女の子に持って帰って貰う事に情熱を注いでいた。
だってモテないんだもの。笑いは取れても心までは奪えないから仕方がなかった…。

当時、3対3でのコンパが多かった。私とゴリとあっちゃんの3人でコンパに行っていた。
ゴリは髭面の強面だったが、本当に面白い男だった。笑いにストイックでかなり厳しかった。コンパが本来の目的を失ってしまったのはゴリが面子にいたからだった。

コンパの前日にゴリの家でネタ合わせをして、小道具を用意して…。
当日はパンパンに膨らんだリュックを背負って飲み屋に行くのが恒例となっていた。
笑って貰いたい。面白いって言われたい。
毎回まるでネタ見せの様なコンパをしていた。

何回もコンパを開催する中で、1度だけゴリが相手の女の子に一目惚れをした。飲み会途中のトイレで、ゴリが『告白しようと思う』と言い出した。いつになく真剣な表情に無謀だと思いつつも私は彼を止める事も出来ずに協力する事にした。

居酒屋を出た後に夜景が綺麗な高台に行った。そこで、ゴリとお目当ての女の子が2人きりになれるチャンスを作った。
そして、残った面子は少し離れた所で夜景を見ていた。勿論、私とあっちゃんはゴリの方に耳を傾けていた。何を言っているのかまでは聞こえない。それでも2人はいい感じに何かを話している様だった。すると、突然ゴリが

『A B C D E F G H I』

とアルファベットを大声で叫んだ…。

暫くしてゴリがこちらに来て解散して帰ろうと言ってきた。時間も遅かったので解散する事にした。

私達は帰りの車の中でゴリに結果を聞いた。
ゴリは、
『愛はHの後にある。A B C D E F G
 H I…好きです。付き合って下さい。』

と言って振られたらしい…。

ゴリは馬鹿だ。なんでそんな告白を選択したんだろう?

『彼女が面白い男が好きだって言ってたから、彼女の期待に応えただけさ。あの子が笑ってくれたら本望だよ。笑ってくれなかったけど…』
と言ってゴリはニヤリと笑った。

心なしかゴリが2割増しで男前に見えた。

終わり