クリスマス・イブ
毎日、何かを生み出したいと思っていて
毎日、何かを失っているような気がする。
首を絞められながらも悦楽の表情を浮かべる女を見ているとそう思った。射精。目が覚めると部屋の中はひんやりと冷たく空はまだ暗かった。吸ったことのない煙草が吸いたくなって女のカバンを漁ってベランダで1本だけ吸った。小さなガラス片が落ちていて左足の親指に突き刺さって血が溢れ出た。拭くのがめんどくさくて地面に血が広がっていくのをぼんやり眺めていた。空は黒く血は赤く煙は白かった。
女とは自殺サイトで知り合った。その自殺サイトは死にたいと思っていても1人で死ぬことができない勇気のない人間が同じ意志を持った人間と繋がることでお互いに励まし合いながら死にましょうという前向きなサイトだった。サイトに登録して1時間も経たないうちに、女から「一緒に死にましょう(^^♪」という連絡が来た。このサイトは気に入った相手と個人的にチャットができるらしかった。女は彼氏からDVを受けた挙句、ハメ撮りがエロサイトに流失し1部のマニアに人気となり親にバレて縁を切られたらしい。「一応礼儀として言っておくね」と、そう説明された。本当かどうか分からないが死ぬ理由なんてどうでもよかった。死んだら全部なくなる。流失したエロ動画はいつまでも消えないが。お互いの予定を照らし合わせて、12月25日に家で一緒に死ぬ事を約束をしてチャットを切った。24日の夜に女が来た。一日早いことを何度も説明したが、なだめられて家の中に押し入られてしまった。女の手に握られていた袋には苺のケーキとロウソクと小さなクリスマスツリーと大量の電飾が入っていた。重かった〜と手をブンブン振り回す女の見た目はいわゆるギャルと呼ばれる人種で、この世界で一番苦手なタイプの女だった。死にたいと思った。せっかくだからと女は、部屋の電気を消してからイルミネーションの飾り付けをしてロウソクに火をつけてからケーキに刺した。「イルミネーションの準備をしてから電気を消してロウソクをケーキに刺してから火をつけろよ」と思ったが言わなかった。当然のように女は「はっぴーばーすでーとぅゆー!!」と歌い出し自分で吹き消した。「誕生日なんですか?」と聞くと「いや歌うと楽しいから」と答えた。
部屋の中に戻ると女はベットの上で体育座りをしながら泣いていた。「生まれた時はみんな一緒なのにね」と小さな声で呟いたが聞こえないふりをした。テーブルの上には小さなクリスマスツリーと食べかけのケーキが残っていて、ケーキからは甘ったるい匂いが漂っていた。暗闇の中でイルミネーションのスイッチを入れると色鮮やかな電飾がキラキラと輝き部屋の中を明るく照らした。光る前から色は決まっているんだと思った。無作為に点灯を繰り返すその光は、あまりにも綺麗で眩しかった。
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