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ローリングストーン誌「200 Greatest Dance Songs」評と感想

古い話だけど、GHQから始まって、ジャズだろうがスウィングだろうが、どこかで「踊れ」という啓蒙がされているんじゃないかと

小室哲哉 『小室哲哉ぴあ globe編』ぴあMOOK

 小室哲哉は、日本でダンスミュージックが受け入れられたことに対して、笑い交じりにこう述べたことがある。確かに、小室哲哉全盛期の90年代はもちろん、2000年代以降もアイドル文化の強まりや「四つ打ちロック」の台頭も影響し、ダンスミュージックは音楽の中心になっていると考えることもできる。
 そこで今回のローリングストーン誌の企画だ。歴史を整理することで今・未来が見えるほか、知ってもらうための糸口にもなる。今回は記事を見ながら寸評したい。

  並びを見ればまずまず納得といったところである。ロックなど他ジャンルを取り入れたものに対しても最低限目配せはされていたし、最新が少ないということもなく時代の偏りもそこまで大きくない。「ダンス史観」を示すのであればまずまずのリストといえると思う。

 楽曲においても、2021年の全体のリストで上位に入ってきた辺りが顔をのぞかせるようになっている。Bee Gees「Stayin' Alive」とかMissy Elliott「Get Ur Freak On」とか。あとは80s中盤ごろからのダンスシーンに欠かせないクリエイターを生んだPrinceもしっかりランクインされているのがいい。

それでは、個人的に選ばれていてよかった曲を1曲、選ばれてほしかった曲を5曲と理由を記していく。

選ばれてよかった 「We are Family」Sister Sledge

 今回のリストの大きな特徴が「Chic史観」といえる。この記事の副題にも「From Chic to Skrillex」とあるようにChic関連楽曲が多くランクインされており、独特のカッティングによるグルーヴが評価されたようだ。
 ほかにも関連楽曲としてはDaft Punk「Get Lucky」、Diana Ross「I'm Coming Out」、そしてChicの「Le Freak」「Good Times」がある。「Good Times」に至ってはヒップホップに繋がった影響もあってか3位にランクインしている。「Good Times」やDaft Punkは曲ランキングで、Diana Rossは『Diana』の再評価もあったし予想できたがここまでの高順位(34位)にこれが入ってきたのは嬉しい。「プロデューサー」が存在感を持つジャンルということが考慮できているということなのだろうか。


 そしてここからは、日本のダンスミュージック史を考慮する上で重要となる洋楽曲を「選ばれてほしかった」という視点で紹介する。日本に流入してきたダンスミュージック・ラップソングはアメリカ由来のものとヨーロッパ由来のものの二つ存在する。アメリカのリスト故後者の視点が足りていないのは致し方ないがいずれランクインすることを祈って。

 また、ラテンポップ・レゲエなどのジャンルについてももう少しランクインしてきてもよかった気がすると感じる。目立つのがShakiraぐらいってのはどうも。ラテンでは「Macarena」とか、レゲエ系だとDaddy Yankeeとかいてもよかったのでは?

選ばれてほしかった ①「Never Gonna Give You Up」Rick Astley

  ヨーロッパ由来で日本に入り、人気を博したジャンルにユーロビートがある。日本ではavexが目をつけ、現在もなお定期的にヒットするファンの多いジャンルといえる。ユーロビートの形を示し、90年代に繋げた全英1位のこの曲を外してはならない。このとき、80年代末にヒットを量産したストック・エイトキン・ウォーターマンの存在を避けて通れない(同時期に曲提供を受けたKylie Minogueは21世紀の曲だったし)。自作以外の点も評価すべきという点ではこのソングライティングチームの残したこの曲が載ってくることを期待したい。21世紀になってからも知名度の高い曲だし。

②「Every Little Step」Bobby Brown

 ダンスソングを取り上げるのに、ダンスに注目した記事が少ないのは聊か残念な気がする。そういう意味でもこの曲は欠かせない。ニュージャックスウィングの代表的な曲(このジャンルもなかなか評価されない)であるこちらのPVは日本でも大人気になりLL BROTHERSも影響を受けたと語っている。ここでダンスを真似した人々がのちにラップに移っていく。そういう点で考えても、この曲や『ブレイクダンス』といったダンスとの関わりは大きなものであった。
 またこの曲を書いたのがBabyfaceとL.A.Reidだが、このリストの残念な点としてBabyfaceの評価が低いことがある(この時期はAfter7とかもやってた)。同じくR&Bダンスチューンを作っていたJam&Lewisもそこまで多くないがそれにしても少ないなぁ……。

③「Dancing Queen」ABBA

 うーん、まさかこれ入っていないとはなぁ……。Bee Geesもかろうじて「Stayin' Alive」がいたけども、記事でディスコから始まったと書いておいてディスコナンバーが少ないなという印象を受けた。まあDonna Summerが1位だけどあれはサウンドクリエイトの面での評価も大きいし。「Y.M.C.A」が入っていた分これがないのは結構衝撃だったかも。日本的な関わりの面でだとABBA、The Nolans、Arabesqueあたりまで入ってきそうだな。

④「The Sign」Ace of Base

 北欧からもう1つ。これもビッグヒットだけど。ダンスミュージックは常に他ジャンルを入れてブレイクしてきたという観点なら、この曲のレゲエを取り入れた側面も評価されてもおかしくないのではないか。

⑤「Dynamite」BTS

 世界進出を目指し、今では日本のほうが追随する姿勢も見せるK-POPからも選出されるべきであっただろう。一番ダンスミュージックの王道をいっているわけだからなぁ。まあこの手の批評ではありがちだけど、今回も多少「ダンスポップ」には冷たいリストではある。
 K-POPの国外進出においては、2000年代頭ごろから日本などで広がりを見せ、一気にブームとなった。「江南スタイル」もブレイクしたが、チャートを席巻するK-POPアイドルという点ではこちらのほうがいいだろう。ほかにはBLACKPINKとか、日本でこのリスト作るなら少女時代とKARAは必須か。あとはTikTok系という観点でいうとK-POPはさらに来てもおかしくないと思う。



 ダンスミュージックはヒット曲との距離が非常に近く、現在ポピュラリティを獲得しているジャンルといえる。またダンスパフォーマンスを行うということもあり、自作ではない作品も多い。それゆえ評論筋では評価しにくいところもあるかとは思うが、こういったヒット曲もランクインしてもおかしくはないと感じる。Greatestなリストがまたみられることを願って。


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