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竹富島のすすめ

もう10年以上も前の話。

多忙な日常の中で、ちょっとした隙間休みが出来ると、よく八重山(※)を訪れていた。

※八重山・・・即ち、八重山諸島のことだが、南西諸島西部の島嶼群で、宮古列島とともに先島諸島の一部のことを指す。

初めて八重山に行ったのは、2005年頃だったと思うが、石垣島から船で10分程度で着く「竹富島」だった。

当時、日常の仕事を中心とした分刻みで追い立てられる時間の流れ方と、竹富島での時間の流れ方の落差に、明らかに異質な感覚で価値観を揺さぶられたことを今でもはっきりと覚えている。

それ以来、何かにつけて八重山を訪れた。石垣島、竹富島、波照間島によく行った。西表島、小浜島、黒島、与那国島は、行きたかったが結果行かなかった。人によっては、八重山の島々を制覇することに喜びを見出す人も多いそうだが、僕の場合は、「時間の流れの落差」を味わうことに当時は喜びを見出していたからかもしれない。

当時は、今のように、LCCも国内では定着しておらず、株主優待やら、マイル交換やらで工夫して往復の「足」を確保した。

住んでいる関西からだと、朝早く出発しても石垣空港には午後3時前後の到着になってしまう。石垣空港から石垣港までは、路線バスかバックパッカー同士の乗り合いタクシーで向かうのが習慣になっていた。

学生時代は海外をバックパッカーとして旅行していたが、三十代にもなると、海外でのリスクある旅は難しく、このような国内旅行に心地良さを感じていた。

石垣港からは、10分程度で着く竹富島か、60分大波小波に揺られ脳がシェイクされながら辿り着く波照間島のどちらかによく行った。

今回は、竹富島の旅を思い出して書くのだが、石垣島から一瞬で辿り着くこの島は、昼間は石垣島からの日帰り観光客で賑わうが、夕刻以降、日帰り観光客が帰った後が、この島の真骨頂、本当に素敵な時間の始まりだ。

夕刻前に予約していた民宿に着き、シャワーを浴びすっきりした後は、夕食までの時間をゆっくりと民宿の縁側で過ごす。まだ太陽も沈み切っていない時間だが民宿のオバアが夕食の準備を告げに縁側に現れる。いかにも身体に良さそうな野菜と肉と魚のバランスの取れた定食を、自販機で買ったオリオンビールと共に頂く。

本当に美味しいお酒は旅をしない、と言うが地元のお酒を地元で飲むのは、なぜこんなに美味しいんだろう。オリオンビールも泡盛も、沖縄で飲むのは美味しいのに本州でそれを超える美味しさを感じたことは残念ながら一度も無い。湿度などの物理的な条件の違いと共に、旅行に来ているという先入観がそうさせるのだろう。

食事を済ませると、ちょうど夕陽が沈むタイミングで、有名な西桟橋という場所に多くの竹富島宿泊者たちは集まる。今で言うと、「インスタ映え」する竹富スポットである。そして、この時間、石垣島からの日帰り観光客は居ないため、宿泊客だけのとっておきの時間がスタートする。

夕陽ウォッチングから民宿に戻ると、先ほどの縁側に移動し、再びまったりとした時間を過ごす。気が付くと、いつしか他の宿泊客も縁側に集まってなんとなくポツリポツリと会話が始まる。当時は、日常では仕事相手との会話、社内での会話がほとんどで、全く利害関係がない他者と話すことは少なく、このような竹富島で素の自分をさらけ出しながら話をすることはとても新鮮だった。宿の主人の機嫌が良いと、三線を弾いてくれたりするのだが、静寂さを帯びた竹富島の夜に響く三線の音色が日々の疲れをどんどんと落としていってくれる。

やがて、22時前には宿の主人が「消灯の時間だ」と告げに来る。宿泊客は、就寝モードに入る者、未だ飲み足りないモードの者に分かれ、飲み足りない者たちは、缶ビールを宿の自販機で少し多めに買い込んで、先ほどの夕陽で有名な西桟橋まで15分くらいかけてテクテクと散歩しながら向かう。周りは街灯もなく、懐中電灯だけが頼りだが、桟橋に着くとその懐中電灯もその役割をしばらくの間控えることとなる。

上を見上げると、夥しい数の星が「満天の星空」を形成し、僕らを出迎えてくれる。皆、桟橋に腰掛け、足は海のほうに投げ出し、寝転がって満天の星空を見上げるのだが、明らかに日常の慌ただしさや忙しく仕事に追われるストレスが、「スゥー」っと音を立てて消えていく(いや、仕事のことを考えている人が居たら、ちょっとやばいかもしれない)。不思議なものだ。

1時間くらい経ったころ、一緒に桟橋まで来ていた仲間の誰かが、「そろそろ帰ろうか」と声をかけ、宿まで皆で戻る。そう、懐中電灯が無いと危険なくらい何も見えないので、一緒に帰ることは必須条件なのだ。

宿に戻り、寝る準備をし、布団に入り目を閉じると、先ほどまでの満天の星空が瞼に焼き付いていて、またあの宝物のような時間が甦ってくる。その瞬間、「竹富に来て本当に良かったぁ」としみじみ思うのである。

竹富島は、宿泊をしないとその良さはなかなか味わい尽くせない。

是非、騙されたと思って、一度、竹富島の民宿に泊まってみることをお薦めする。

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